第38話 37、私、出来ました!!!
「どの程度かと言われても、説明するのは難しい」
「そうですね、程度という聞き方が悪かったですね。では、どんな魔法が得意ですか?」
カレンはアルフレッドへ曇りなき眼で聞いて来る。正直なところ、アルフレッドの使う魔法は戦闘や諜報に関するものばかりだ。それを、この天使に告白してもいいのだろうかと悩んでしまう。恐らく、カレンはアルフレッドのきれいな面しか知らない。
「カレン、俺の仕事を知っているか?」
「皇子の仕事・・・、そうですね、他国の方と交流したり、貴族の方々の調和を取ったりするようなことでしたら、皇妃教育で習いましたけど、他にも?」
「それも大切な仕事ではある。だが、一番大切なのは、この国を守ることだ」
「それは、外交?」
「いいや、違う。軍事・諜報だ」
アルフレッドの口から、軍事などという言葉が出て来るとは思っていなかったカレンは驚く。だが、ふと頭の中に過るものがあった。
(あ、そういえば、殿下は先日、海軍の司令塔へ行くって出かけて・・・。それが軍事的な仕事だとしたら辻褄は合うわね。だけど、諜報の仕事・・・?それって、スパイ行為のことよね。まさか、殿下が自ら他国へ乗り込んで、スパイをしたりは流石に・・・・)
「カレン、顔が百面相みたいだぞ。いろいろ想像しているようだが、俺たちニルス帝国の直系皇族は魔狐の血が入っている。それ故、姿を変えることくらいお手の物だ。諜報活動に、わざわざ自国の大切な民を向かわせなくとも、大抵のことは俺たちが動く。だから、この国は長きに渡り、平和なんだ」
「――――その言い振りですと、過去に危険なこともあったと?」
「まあ、普通に。暗殺くらいは・・・。だか、勘違いしないで欲しいのは、俺たち皇族は、むやみに人を殺したりはしない」
「そうですよね。他国を脅かすような行為を、ニルス帝国の皇族がその日の気分次第でしちゃうなんてことになったら、最悪です」
「ああ、そうだ。だから、これは極秘中の極秘。事実を押さえ、裏を取ってからしか動かない」
「それを聞いて安心しました。ところで、それだけの力を持っていて、何故、ニコラス陛下は皇后さまが誘拐されたときに・・・」
(あ、口が滑ったかもしれない・・・)
「ーーーーーこれから話すことは、この国の最高機密だ」
アルフレッドは一度、天を仰ぐ。そして、ため息を一つ吐いてから、カレンを真っ直ぐに見据えた。
「父上には、魔力が殆どない。だから、誘拐された母上を助けに行くことが出来なかった。今回も、レベッカによって、いとも簡単に昏睡したのは、これが理由だ」
カレンはアルフレッドの話を聞いて、話が繋がったような感覚がした。ニコラスが幼少期に、狐から人に戻れなくなって、レダのところへ相談に来たのも、皇后さまが隣国の公女に誘拐された時、レダに救けを求めて、ここへ来たというのも、それらは、ニコラスに力(魔力)が無かったからということだったのだと。
「あのう、その話から察するに魔力が少ないと、人間の姿ではなくなるということですか?」
「カレン、ひらめきでグイグイ確信を突いて来るのは・・・」
アルフレッドが言葉を濁すことで、カレンは自分の予想が正しいと確信した。
(なるほど、魔力がない時は狐さんの姿になるってことね。それで、殿下はどうなの?私の前では、ずっと人間だけど普段は狐さんなのかしら・・・)
カレンは、じーっとアルフレッドを見詰める。
「何を考えているのかは知らないが、俺は魔力がかなり強い方だから、細かなことは心配しなくていい。簡単には死なないというか、寿命も歴代の皇族と同じく永遠に近・・・」
「え?寿命が長い!?」
カレンはアルフレッドが話している途中で、つい突っ込んでしまった。
「ああ、建国以来、皇族の王は誰も死んでいない。妃は人間だから、寿命があるので仕方ないが・・・」
「皇女は?」
「人間と同じくらいだ。ちなみに女皇は寿命が長い」
「不思議ですね、そのシステム」
「ああ、その辺は“春の女神さま”にしか分からないことだな」
「――――そうなのですね」
(建国神話の“春の女神さま”か・・・。実在していたのね。私はそんなことも知らずに、皇家へ嫁ごうとしていたなんて、今更だけど、自分の無知さが恥ずかしいわ)
「殿下、私が先に死んじゃったら、長い人生だと寂しくないですか?」
「また、唐突な質問だな。まぁ・・・・寂しいだろうな。だが・・・」
「“だが?”って、何なの。私が居なくなったら、他の人と恋に落ちるつもり?」
アルフレッドは、カレンが眉間に皺を寄せて、口を尖らせているのを可愛いと思ってしまった。そして、こういう時に少し意地悪をしてみたくなるのは、本当に悪い癖で・・・。カレンの耳元へ、アルフレッドは唇を寄せて、こう言った。
「カレン、そういう時のために婚姻の誓紋があるんだ。俺は生涯カレン以外を抱くことはない。だから、変な心配はするな」
「なっ!?」
カレンは俯く。予想外の答えに顔が熱くなってしまったからだ。
「だけど、まだ私たちは・・・」
下を向いたままボソボソと呟く声は、アルフレッドには届かなかった。
そこで、ガチャと、ダイニングのドアが開く。
「おやおや、朝から仲睦まじいことだね。おはよう」
現れたのは、レダだった。
「おはようございます」と、カレンが俯いていた顔を上げて言う。アルフレッドも「おはよう」と、素っ気ない挨拶をした。
レダは、カレンの顔が赤くなっていることに気付くと、アルフレッドへ近寄り、唐突に彼の額を指でピンと弾く。
「カレンを、あんまりからかうんじゃないよ」
「――――ああ、すまない」
額を摩りながら、アルフレッドは素直に謝った。その様子を見ていたカレンの脳内に、レダへ早く伝えたかったことが浮かんでくる。
「レダさん!!重大な報告があります!!私、出来ました!!」
レダは、カレンの言葉を聞くなり、アルフレッドの方を向いた。
「あんた、もう少し慎重だと思っていたのに!!」
「・・・・・?」
アルフレッドは意味が分からず、黒いフードの奥のレダをじーっと見詰める。
「ああ、もう!!またニックに怒られるじゃないかーー!!!!」
レダは、珍しく感情的な声を上げた。
「レダさん、大丈夫ですか?あの、出来たので見て欲しいのですけど・・・」
カレンは遠慮がちに、レダへ尋ねる。
「ええっと、今からでは間が悪いですか?」
カレンはそう言いながら、目の前にあるローテーブルの上を指差した。レダの視線は、カレンの指先から、昨日の課題で使った箱へと辿り着く。
「あーーーーーーー!!!」
レダの声が、ダイニングに響き渡る。そこで漸く、アルフレッドは、レダの叫んだ原因が分かった。
「レダどの、俺は自分で言うのも何だが、慎重な方だと思う。それに、カレンを傷つけるようなことをするわけがないだろう。疑われるなんて、残念だ!」
「――――アルフレッド、すまない。ちゃんと反省するから許しておくれ~!!」
(一体、この二人は何を騒いでいるのかしら?でも、まあ、解決したみたいだから良かったわ)
「では、今から、昨日の課題をしてみますね」
グダグダ言い合っている二人を余所にカレンは箱を用意し、今朝方、一度成功した空間移動魔法を、レダへ披露したのだった。
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