第34話 33、愛情オムレツ
カレンとアルフレッドがダイニングルームへ入ると、バターの良い香りが漂っていた。
「レダさん、おはようございます」とカレン。
「おはよう」とアルフレッド。
「ああ、おはよう。ふたりともいいタイミングで起きて来たね」とレダ。
レダは黒いローブを目深に被り、左手にフライパン、右手にフライ返しを持っていた。カレンはレダが調理をしていることに驚く。何となく魔女は魔法で料理を作るようなイメージを持っていたからだ。
「おやおや、何だか失礼な視線を感じるよ。どうせ、あたしが料理をするなんて思ってもみなかったんだろう?ハハハ・・・」
大声で笑いながら、レダは大きなプレートにきれいな形のオムレツをひょいっと手慣れた様子で乗せた。
(レダさん、お料理上手だったのね~。あのオムレツ、とっても美味しそう!!)
「カレン、あんたそんなに食べ物をじーっと見詰めるなんて・・・。お腹がよほど空いているのかねぇ~」
「ブッ」
「失礼ですよ!!殿下」
レダの指摘で、噴き出したのはアルフレッドだった。カレンは頬を膨らませて怒っている。レダはあらあらと思いつつも、それには触れず、ふたりに配膳をするようにと指示をだした。
―――――程なく食事の準備を整え、三人は着席する。
「さて、食事を始めるとしよう」
レダの掛け声に続き、カレンとアルフレッドが「いただきます」と言った。
今朝のメニューは、オムレツにカリカリベーコンの乗ったグリーンサラダ、そしてミネストローネスープと白くて丸いパン。そして飲み物はレモネードが用意されていた。
「私とキュイは、シリアルばっかり食べていたのに・・・。こんなに豪華な朝ご飯が作れるなんて!!レダさん、凄い!!」
感動した様子のカレンは、早速スープを口に運んでいる。アルフレッドは、先日のポリポリしていた朝ご飯を思い出した。
「ーーーーあれはあれで、俺は好きだけど?」
「まあ、シリアルも美味しいですよね。だけど、こんなオムレツが、ここで作れるということに驚いたというか、スープも・・・」
カレンの話から、レダはあることを察した。
「なるほど、あんたは料理が・・・。それで、痩せてしまってアルフレッドを心配させてしまったってわけか。盲点だったよ」
(言葉を濁されると傷つくわ・・・。確かにお茶を淹れること以外には、ゆでるとか焼くとかの単純作業くらいしか出来なくて困っていたけれども)
「心配しなくとも、皇宮には料理人がいるから、問題ない」
アルフレッドはカレンの胸の内を覗き見たかのようなことを言う。
「それ、暗に私がお料理を上達するのは無理って言われているみたいで傷つくのですけど・・・」
「あー、そういう意味じゃなくて、食事は楽しむものだろう?作るのはプロに任せたらいいという意味だ。別にカレンが調理する必要はないと俺は思う」
「そう言われると、逆に作りたくなってしまいます」
「それはそれで、俺も食べたい」
「――――いやいや、あたしの前で堂々といちゃつくのは止めてくれ」
レダは苦笑いを浮かべる。そこでカレンはふと思い出した。
「レダさん、私言いたいことがあります」
「おや、なんだい?」
「殿下のお部屋・・・。ズルくないですか?」
カレンの指摘を受け、レダはスープを口に運ぼうとしていたスプーンを止めた。そして、アルフレッドの方を見る。視線が合ったアルフレッドはスーッと視線を横に逸らした。
「もう、あの部屋に入ったのかい?」
「はい、とても広くて立派でした!!」
「じゃあ、あんたの部屋もご希望通りに変えてやろうか?」
「えっ?」
「いや、あたしはあんたに会ってすぐに出かけただろう?だから準備らしい準備をしてやれなかったからね。例えば、どんな部屋にしたいんだい?」
(そんな簡単に変えられるのね。うーん、どんな風にしようかしら・・・)
カレンは、サラダに手を伸ばしながら考える。
(ヤドリギ横丁の路地には樹木がないから、グリーンのあるお部屋もいいわね。だけど、可愛いパステルカラーのお部屋にも憧れるわ。バスルームも欲しいし・・・)
「レダさん、パステルカラーの可愛いお部屋に観葉植物を置いて、あとバスルームも・・・・」
カレンは思い浮かべたイメージを、レダへ伝えた。レダは、オムレツをスプーンで掬すくって食べながら相槌を打つ。
「ああ、分かった。では、変えてやろうかね」
そう言うと、レダは、左手の人差し指をクルっと回す。
「よし!出来た」
(えっ?今の一振りで!?魔法って凄いわ!!)
「昨夜、殿下のお部屋を作るときも、こんな感じだったの?」
カレンは横に座っているアルフレッドに問う。アルフレッドはパンを咀嚼している途中だったので、取り敢えず首を振った。
(あれ、違うの?)
カレンの質問に答えようと、アルフレッドは慌ててパンをレモネード流し込む。
「俺は何のリクエストもしていない。あの部屋はレダ殿が用意してくれた」
「そうなのですね」
「ああ、その通り。アルフレッドの意見なんか聞いていないよ」
「レダさん、センスがいいですね。あのお部屋、とても機能的で使い易そうですし、調度品も素敵でした」
「まあ、随分詳しく見て来たんだね、ハハハ」
「はい」
アルフレッドは楽しそうに話しているカレンと、何か言いたそうなレダの様子が気になって仕方なかった。恐らく、カレンを連れ込んだことを、レダはアルフレッドに注意したいのだろうと予想しつつ・・・。
その後、顔を上げたら、レダと視線が合ったので、アルフレッドは分かったという意味を込めて頷くと、レダも分かったなら良いと言っているかのように、ゆっくりと頷いた。
「さて、次は今後の話をしていいかい?」
「はい」
カレンとアルフレッドの返事が揃う。
「九日後、アーロック王国へあたしは向かう。それまでに用意しておきたいことを言っておく。まず、カレンには必要な魔法を教える。占いの仕事をしながらになるからね。今日は午後からしようか」
「はい、分かりました」
「それから、アルフレッドは基本的に人形の方をあたしが連れて行くから、特に事前に用意することはないのだけどね。アーロック王国でして欲しいことがあるんだ。具体的にいうと、周辺諸国から集めた金と、武器をエドリックの婚約者選びのパーティーをしている間に移動させるつもりだ。数か所ある拠点を教えるから、カレンと一緒に行って荷物の転移をして欲しいんだよ」
「分かりました」
「それとあんたの正体が相手へバレないように、銀狐の姿で行って欲しい」
レダは含みのある言い方をした。アルフレッドはそれが魔力全開で行けという意味だと直ぐに理解したのだが、カレンには伝わらないどころか斜め上な想像をされてしまう。
(銀狐の殿下と一緒にアーロック王国へ!?ケモ耳だけで可愛いのに・・・。全身狐さん!?モフモフしたら怒られるかしら・・・)
「分かった。それと、レダどの、俺の人形はいつ作る予定だ?」
「ああ、それは出かける直前に作るつもりだよ。だから、まだ普通通りの生活をしていて構わない」
「では、俺は出発の日まで、日中は皇宮で仕事をしてくる。それから、この件を父やシュライダー侯爵へ共有しても?」
「ああ、あの二人なら構わないよ」
「分かりました」
「うわっ!!コレ美味しいです!!」
カレンがふたりの会話に突然割り込んで来た。どうやら、レダ作のオムレツが美味しかったようで、口を手で押さえて感動している。
「フッ」
「ハハハッハ」
アルフレッドとレダが、その様子を見て笑ったのは言うまでもなかった。
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