第28話 27、親分と子分
「カレン、心配しなくていい」
カレンの怒りも気にせず、アルフレッドは淡々と告げる。
「まずは声を」
(そんなに落ちついて言われたら、怒っている私がバカみたいじゃない!!もう!!)
しかし、正体がバレているのに、わざわざ渋くて低い声にしておく必要はない。カレンは、不機嫌な顔のままで、呪文をブツブツと唱えて、声を元に戻した。
「これでいいですか!」
「あ・・・本当にカレンだ!!カレンって、魔法が使えたの!?」
エドリックが驚きの声を上げる。しかし、カレンが答える前に、アルフレッドが状況の説明を始めた。
「レダどのは、ここを留守にしていると知られたくない理由があったのか、カレンに身代わりと留守番を頼んだ。それで、カレンは声を変え、フードを被って、ここにいるというわけだ。別に深い意味はない。ただ単にカレンが少し魔法を使えると知っていたんだろう」
「ふーん、なるほどね。レダどのとカレンって、前から知り合いだったの?」
「うーん、それは・・・。初めて会った時に留守番を頼まれたから、知り合いではなかったわ」
(まぁ、嘘じゃないわよね・・・)
言わなくていいことをカレンが素直に答えてしまったので、アルフレッドはそれ以上言ってはダメだと視線を送ったのだが、残念ながら気付いてもらえない。
「えっ、初めて会った時に!?」
「ええ」
上手く修正しなけばと考えたアルフレッドは、カレンへ伝わるようにあからさまな嘘をつくことにした。
「エド、レダ殿は人を選んでいられないほど急いでいた。それは、お前の所へ早く向かうためにだ」
(えっ、そんな話は・・・。まさか、話を作った!?ね、捏造・・・?)
「いや、僕のところにって・・・」
「半年くらい前のことだ」
「なっ、半年前!!そんなに前からずっとここにいたの!?」
エドリックはカレンに問う。
「ええ、そうね。半年前からここにいるわ」
「僕のせいで、長い間ごめん」
「大丈夫よ。気にしていないわ」
(殿下が力業で、私が半年前にここへ来た理由を、エドリック王子のせいにししちゃった!!凄い!!えー、こんなに殿下って策略家だったの??)
この流れなら、ここへ来た理由をこれ以上追及をされることはないだろうとカレンはホッとした。しかし、そこへ伏兵(ローラ)が踏み込んで来る。
「恐れ入りますが、二点ほどよろしいでしょうか?まず一つ目ですが、カレンさまは婚約破棄をされた後にこちらへ来られたのですか?それから、アルフレッド皇子殿下は、次の婚約者さまがいらっしゃるのに、こちらへ通われているのですか?」
分かり易いほど、ローラはアルフレッドへ攻撃的な質問を投げかけた。
(その質問へ正直に答えたら、私たちの婚約破棄前のゴタゴタと、アーロック王国と同じようにこの国もトップが人形になっていたことを知られてしまうけど・・・。殿下は何と答えるのかしら?)
カレンはアルフレッドの動向を見守ることにした。先に口走って失敗しないために・・・。
「アウローラ嬢。随分と婚約破棄にこだわっているようだが、ハッキリと言っておく、カレンとの婚約破棄及び、次の婚約者の選定についてだが、その件に関して俺は一切関与していない。俺が愛しているのは、ずっとカレンだけだ。ここで再会出来たことを神に感謝している。離れる理由がない。ただそれだけだ」
アルフレッドはローラを真っ直ぐに見据え、ハッキリと宣言した。話の途中から、ローラは両手で口元を押さえ、瞳に輝きが増していく。
「あ、愛っ!!お二人には強い愛が・・・。素敵!!アルフレッド皇子殿下のお話を信じます。カレンさま、私も応援いたします!!」
(ローラさんまで、殿下に騙された!?カッコいいことを言って、雰囲気で押し切っただけなのにー!!にしても、殿下は凄いわ。何もかも自分の都合の良いように持って行って・・・・。それにしても神に感謝しているだなんて、信仰心の欠片もないのに良く言ったわね)
「分かってもらえたのならよかった。ところで、エドはレダどのに何か指示を受けたのだろう?差し支えなければ聞かせてくれないか」
「アル、我が国のことをどれくらい知っている?僕も闇雲に自国の秘密を話すわけにはいかない」
「俺の知っている情報では、アーロック王国は国王陛下が呪いで眠らされて、人形が一年半ほど仕事をしていたということくらいだ。で、黒魔女が関与しているとレダが動いたのだろう?それから、アウローラ嬢のことも、レダは気にかけていたみたいだが・・・」
エドリックの顔色が悪くなっていく。カレンはアルフレッドが、淀みなく語る姿に驚いた。しかも話の内容が、カレンがエドリックの記憶の中で見たことだったからである。
(気持ち悪いって思われないかしら。だって、心の中を覗いて知った情報なのだもの・・・)
カレンの予想は的中する。
「アル、我が国の機密情報はそんなに駄々洩れなのか?いま君が話した内容は僕は誰にも共有していない。それこそ、目を覚ました父上にも・・・」
「そうか・・・」
「どうやって知った?」
「それは言えないが、俺はエドの国を助けることはあっても、滅ぼそうなんて考えはもっていない。そんなに心配するな」
「もう、僕完全にアルの子分じゃん」
エドリックは不服そうな声でぼやく。それも、わざと大きな声で皆に聞こえるように・・・。つい、カレンは笑ってしまった。すると、釣られてローラとアルフレッド、最後にはエドリックまで笑い出す。
少し和んだところ、ローラが切り出す。
「エド、私を守るためにレダさまが出した指示って、どんなものだったの?」
(おおっ、ローラさん、ナイスです!!それ私も聞きたい!!)
チラリと横にいるアルフレッドへ視線を送るとカレンに向かって、軽く頷いてくれた。どうやら、同じ気持ちらしい。
「レダどのに受けた指示は、君たちも知らないんだよね?」
「ああ、そこまでは知らない」
アルフレッドが答える。エドリックは今一度、薄いブルーの封筒を懐から出した。そして、その封筒の中から、一枚の紙を取り出し、テーブルの上へ広げて置く。四人は頭を突き合わせ、紙を覗き込んだ。
そこへ書かれていたのは・・・。
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