第26話 25、エドリックの事情 下

「ああ、王子。分かりやすく教えてやろう・・・」


 レダ曰く、世界を自分のものにしたいというような強欲な王が現れた時、黒魔女はそれに加担して、周辺の国をいたぶる手伝いを嬉々としてする。そして、最後はその強欲な王までをも滅ぼしてしまうのだという。


「何故、そんなバカげたこと!」


 エドリックは憤る。しかし、レダは至って冷静だった。


「遊びだよ。黒魔女はそれを楽しい遊びだと思っている。彼女に人間のモラルは通用しない」


「魔女殿、彼女ということは、黒魔女は一人なのか?」


 国王がレダに問う。


「ああ、あたしが知っているのは一人だ。だが、他にいないとも言えない。何せ、魔女は魔女同士で連絡を取り合ったりはしないからね」


「では、その話を信じるにあたって、貴殿が正しい魔女だと我々にはどうやって証明するのだ?」


「そういわれるだろうと思って、ちゃんと用意しておいて良かったよ。さあ、これを見るがいい!!この国の第十七代国王ノーマンから、あたしがもらった特級褒章だ。己の国の歴史を確認してみな。あたしがこの国を助けるのは、これで二回目だからね」


 レダは懐から出した褒章を、顔の前へ掲げている。国王はそれを確認するため、玉座から立ち上がった。エドリックも一緒にレダの方へと歩み寄っていく。


(アーロック王国を救うのは二回目って・・・。レダさんは本当に何歳なのかしら、まさか魔女は死なないとか言わないわよね・・・。ええっと、違う・・・。今大事なのは、そんなことじゃない。レダさんは、結構重要なことを話していたわ・・・)


 カレンは、ここまでの会話の内容を一度、頭の中でおさらいした。レダは過去に同じ状況でアーロック王国を救ったことがある。そして、全てを支配したいという王が誕生し、黒魔女が遊びで加担しているという。


(――――国を亡ぼすのを楽しむ黒魔女って?まさか、義母レベッカのこと???それとも他の人?ここまでの話では、今一つ決め手に欠けるわね。で、続きは・・・)


―――――再び、記憶の中の人々が動き出す。


 レダは、国王の手に褒章を乗せた。国王はその褒章の表裏をじっくりと見る。


「これは、紛れもなく我が国のものだ。ここに刻まれた名は、大魔女レダ。褒章を与えた理由は救国。これで貴殿が正しい魔女であるということを認めよう。レダ殿、疑って悪かった。過去の歴史も再確認すると約束する」


「ああ、どんなことがあったのかを確認してみるといい。そして、この手紙に、これからして欲しい対策を記してきた。悪いけど、時間との戦いだからね。出来るだけ、早めに動くんだよ」


 レダは、懐から手紙を取り出した。そして、それを目の前にいる国王ではなく、横に立っていたエドリックへと渡す。


「僕に?」


「そうだ。あんたが動くんだ。いいかい、驚いちゃだめだよ。今から、よーく国王を見ていてごらん」


 レダの言っている意味が、さっぱり分からないエドリックが首を傾げる。と、次の瞬間、レダは、国王の手首を掴んだ。


「なっ!?」


 エドリックが驚きの声を上げた。何故なら、国王の姿が、一気に縮んで小さな人形に変わってしまったのである。


(こ、これって、先日のお父様の人形と一緒じゃない!!この国と同じことが、アーロック王国でも起こっていたってこと?)


「ち、父上、いや、陛下は、陛下の命は・・・。これは今、貴殿が何かしたのか?」


 混乱気味で質問を投げかけるエドリック。レダは、手に提げていた人形を腕に抱きなおしてから、こう告げた。


「国王は、この人形がもとに戻った瞬間、呪いから放たれ、いま何処かで目覚めたはずだ。あー、この人形は、一年ほど前に作られたようだね。ということは、一年もの間、偽物人形がこの国の国王だったというわけだ。王子、あんたはこれから忙しくなるよ。まず、ここ一年分の国王が関与した案件をすべて確認して、おかしなところは速やかに元へ戻すんだ。そして、この手紙の中には、あんたの大切な人を守る方法が書いてある。大切な人を失いたくなかったら、急いで取り掛かりな!すべて終わったら報告もかねて、ニルス帝国のヤドリギ横丁にある『レダの家』へ来ておくれ。その頃には、あたしも諸々の仕込みが終わって、家に戻っているだろうからね」


「ちょっと待ってください。その何処かって、何処ですか。分かるなら教えて下さい」


「そんなに遠くには感じないから、この王宮内だろう。心配しなくても、自力で直ぐに出て来る」


「それとこの手紙・・・。僕が実行しなかったら、どうなりますか?」


「簡単なことさ、大切な人を失うということだよ」


 軽い口調でレダはいう。しかし、それが逆に怖さを増幅させる気がした。


「わかりました。ご指示いただいたとおりにやってみます。終わったら、ニルス帝国のヤドリギ横丁ですね」


「ああ、そうだよ。くれぐれも、慎重に進めるんだよ」


「はい」


 話が終わり、レダは、さっさと大広間から出て行く。カレンは十分に情報を得たと感じたので、エドリックの記憶から出ることにした。



―――――記憶の中から戻ったカレンは、俯いたままのエドリックに話しかけた。


「王子、顔を上げてください」


(レダさんは殿下という敬称を使ってなかったから。さりげなく修正しておこう・・・)


 カレンが指示するとエドリックが顔を上げ、真っ直ぐこちらを見る。


(さて、レダさんから、この話を聞いていない私が下手に適当なことは言えないしどうすべき?ここは素直に本物のレダさんが不在だと伝える?でも、弟子って信じてもらえるかどうかが賭けになってくるのは・・・)


 カレンはいい考えが思い浮かばず、視線を彷徨わせた。ふと、時計が目に入る。時刻は午前十一時五十五分を指していた。


(そうだ!!殿下!殿下よ!!もうすぐここへ来るわ。エドリック王子の対応は殿下を巻き込んで・・・。これしかないわ!!)


「王子、ローラさん、お茶を飲んで、あと少し待ってくれませんか。重要な人物が、ここへ向かっているので」


「重要な人物?僕の案件と関係があるのか?」


「ええ、関係があります」


 カレンは力を込めて言った。


「エド、待ちましょう」


 ローラが助け船を出してくれた。


「ああ、分かった。では待ちます」


(よし!了承はもらった!!あとは殿下の到着を待つのみ!!早く来て―!!!)

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