第21話 20、ポテトフライ派?

 アルフレッドは、ダイニングテーブルにバスケットを置くと、上に被せていた赤いギンガムチェックのクロスを取った。


「お昼は、エビと玉子のサンドイッチ、ベーコンと紫キャベツのサンドイッチ、それと付け合わせはフライドポテトだ。栄養抜群だろう?オレンジジュースもあるぞ」


「ええっと、かなり栄養面を強調されていますけど、その指示は誰が出しているのです?」


「俺だが?」


「厨房の方に“誰へ渡すのですか?”とか、聞かれないのですか?」


「皇宮の調理人は、そんな野暮なことを聞かない」


「―――出来た方々ですね。それにしても美味しそう!!」


 サンドイッチの周りには、可愛らしいレースペーパーも敷かれていて、明らかに女性が好きそうな感じにしてあった。お料理は二人分入っている。


(絶対、女と一緒に食べるって、料理人の方々は気付いているわね。その上、殿下は栄養のあるメニューを作って欲しいとリクエストしたって言うじゃない?どんな女のところへ持って行くんだろうって、料理人の方々は気になっていると思うわ。だって、栄養不足の女なのよ~!?)


「何を考えているのかは知らないが、早く食べた方が良いんじゃないか?今日は、お客が多いのだろう?」


「あ!そう、そうなのですけど、人数というより、一癖ある人が・・・。お行儀が悪いですけど、食べながら話してもいいですか?」


「ああ、構わない」


 カレンはテーブルにグラスを二個置いて、アルフレッドの持って来たオレンジジュースを注いだ。その一つをアルフレッドの前に置いてから、着席する。


「では、いただきます!!」


「どうぞ召し上がれ」


 カレンはサンドイッチに手を伸ばし、迷いなく噛り付いた。


「フッ」


 ガブリと“エビと玉子のサンドイッチ”に噛り付くカレンを見て、アルフレッドはフライドポテトを片手にクスクスと笑う。


(ん―もう!笑わなくてもいいじゃない。だって美味しそうなのだもの!!というか、実際に美味しいのだけど!!)


 カレンが視線で訴えると、アルフレッドからにっこりと微笑まれた。


「いい食べっぷりだ。どんどん食べて元気になれよ、カレン」


「ふあい」


 もぐもぐと食べ続けるカレン。ふと、エドリック王子のことを話すのだったと思い出す。きりの良いところまで食べて、口の中をカラにした。


「あ、あの殿下。先ほど、エドリック王子の恋人のアウローラ・フリッツ様が来られたのです」


「えっ?エドリック!?なんで?」


「いえ、それは私が聞きたいくらいでしたけど・・・。その、エドリック王子との婚約を白紙にされたというか何というか・・・」


 カレンはローラから聞いた話を、アルフレッドへ伝えた。


「で、諦めるか諦めないかというような話になっていたので、止めました」


「そうか、アーロック王国でそんなことが起きていたとは知らなかった。エドリックとも、最近は会っていないからな。ただ、婚約を白紙にされたタイミングが俺は気になる」


「ええ、たしかに・・・」


 モグモグとポテトフライを食べながら、カレンとアルフレッドは頷き合う。ポテトフライはジャガイモだけだと思っていたら、半分はサツマイモを揚げたものだった。


(うわっ、サツマイモ美味しい!!)


 カレンは続けて、サツマイモフライを数本食べてから、アルフレッドへ聞こうと思っていたことを口にした。


「ところで、陛下たちの様子は如何でしたか?」


「ああ、父上達は真っ青な顔をして事実確認に追われている。偽物の皇帝は、かなり好き勝手にしていたみたいだ。他国との間で、父上の把握していない遣り取りが行われていたらしい。細かなことは、まだ確認中だから口に出せないが、分かり次第、カレンにはちゃんと教えるつもりだから、待っていてくれ」


 アルフレッドは、オレンジジュースを一口飲んだ。そして、話を続ける。


「それから、父上達が、隣国の前大公妃が怪しいと話していたが、アレは見誤りの可能性が高いと思う。現在の隣国の大公の子は、十歳と八歳の男児二人しかいない。息子二人で、さすがに俺を狙うメリットはないだろう?それに、現在の大公は野心的な方ではないし、大公妃も穏やかな方だ。それより、その更に隣の・・・」


「あー!もしかして、イシュタル共和国とオルセント王国の小競り合い?」


 カレンは思わず叫んだ。アルフレッドは、眉間に皺を寄せる。


「カレン、何故、それを知っている?」


「今朝、ヤドリギ横丁で、ビストロの経営をしているマーガレットさんから聞きました。ええっと、マーガレットさんは、この『レダの家』の常連さんなんです。お店の店休日以外は毎日お見えになります。それで、この二か国のお話をマーガレットさんも今朝、市場で聞いたらしくて、私に教えてくれました」


「ビストロ経営者のマーガレットか。ほぼ毎日来て、情報を教えてくれるというわけだな」


「いえ、情報というより、ほとんど食材の話ですけどね。今日は何を仕入れたとか・・・」


「ふーん」


 アルフレッドは、ポテトを口に運びながら、何か考え事を始めたようだ。カレンは、今のうちにと食べかけのサンドイッチを頬張る。エビがプリプリしていて、とてもおいしい。


(殿下は、マーガレットさんの情報が早くて驚いたのかしら。香辛料云々の話も伝えた方が良い?だけど、さっきイシュタル共和国とオルセント王国の話をしていたところだったから。香辛料の話で横やりを入れたら脱線しちゃうわね)


 モグモグモグと咀嚼をしながら、アルフレッドの指先を眺める。きれいな指先で、優雅にポテトフライを取る仕草が色っぽい。カレンは自分の指先を見る。爪は切りそろえてはいるが、乾燥していて艶がない。こういうところを、アルフレッドは見ていたのかも知れない。


(ふむ、確かに栄養不足っぽいわ。髪も後ろで三つ編みにして、黒いローブから見えないようにしているけど、解いたらパサパサなのよねー)


 カレンはこっそりとため息を吐く。


「カレン、すまない。話の途中だったな」


 アルフレッドが、思考の淵から戻って来た。


「先ほどの二か国が小競り合いを始めた原因なのだが、イシュタル共和国がオルセント王国の姫を娶る約束をしていたのを、数日前、突然、反故にしたらしい。理由は、まだ情報が錯綜していて掴めていない。だが、ここに来てアーロック王国まで、王子の婚約の話が出て来た。ということは、イシュタル共和国、アーロック王国、ニルス帝国のすべてで、王子の婚約が白紙に戻されたという共通点があるということだ。俺も不本意だが、そういう流れだっただろう?怪しくないか?」


「確かに・・・。もし、その後にあてがわれる女性が居るのなら、どんな人なのかを調べた方が良さそうですね。でも、一体、何のためなのでしょう?」


「それなんだよなぁ・・・」


 カレンとアルフレッドは首を傾げる。二人で色々と想像を巡らせるが、これだという理由は思い浮かばないのだった。

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