第20話 19、白いストールを被ったお客様 下
「・・・はい」
(よし、掴(つか)みはオッケーね!これで、私のことを信用してくれるといいのだけど)
「占いたいのは、とある王子殿下とのことですね」
ローラは胸に手をあて、一度大きく深呼吸をしてから、意を決したのかのように話し始めた。
「はい、父が国王陛下の側近なもので、王子殿下とは幼いころから親しくしておりました。一時期、婚約者候補にも挙がりましたが、昨年、白紙になりました。それは国の事情により、王子殿下の婚約者はまだ空席にしておくという方針へ変わったからです」
(変な話だわ。エドリック王子殿下は、一人っ子だったはず。それなら、婚約者を早めに決めておいて、しかるべき年齢になったら速やかに婚姻を結び、スムーズに王位継承を進められるようにするのが、王族としては一般的だと思うの。余り考えたくはないけれど、婚約者の席を空けておいて、条件の良い他の国から花嫁を迎えようと考えているのなら・・・。アーロック王国、何か問題でも抱えているの??)
「そうですか・・・、複雑な事情があるのですね」
「ええ、恐らく。私には何の情報も入って来ませんので、どうしようもなくて・・・」
「なるほど」
(うーん、まだローラさんへ、どう話したらいいのかが・・・。私は半年前、恋どころか、今後の人生までも諦めて、ここに来たけど・・・。最近、アルフレッドさまと再会して、彼は色々なことがあっても、私のことをずっと想っていてくれたと分かって・・・。だけど、それはあくまで私の話だから・・・。真実なんて、エドリック王子の心の中を覗いて見ない限り、分からないし・・・)
悩むカレンは無意識に腕を組んで、首を左右にゆっくりと振っている。不穏な仕草をしているカレンを、ローラは水晶玉から視線を外して、じーっと見ていた。しかし、集中しているカレンは全く気付かない。
(んー、いっそのこと、エドリック王子の心の中を、魔法で読み取るチャレンジでもしてみる?だけど、目の前に居ないからなぁ・・・。一応、彼(エドリック王子)とは知り合いだけど・・・。で、全く自信もないけど・・・)
カレンは、魔法を使って、一度もしたことがないことにチャレンジしてみるかどうかを悩んでいた。失敗したあかつきには、どういう惨事が待っているのかも分からない。リスクが大きい分、慎重になってしまう。
レダ(カレン)が、占いの最中、ずっと険しい表情でゆらゆらと動いているのを見ていたローラは、きっと悪い結果が出て困っているのだろうと、完全に誤解していた。
「レダ(カレン)さま。もしや、悪い結果を伝えることに躊躇されているのでしょうか?大丈夫です。どんな結果でも受け止めますので・・・。ーーーーお気を遣わせてしまい、申し訳ございません」
(えっ!!ローラさん!?そ、そんな、悪い方向に・・・。違う、違うの!!誤解よ!!!)
「ローラさん、それは早とちりです。いいですか、よく聞いてください。エドリック王子は、あなたのことを忘れたりはしていません。しかし、彼はいずれ国を背負う立場にあります。それ故、自分の気持ちより、民のことを優先しなければならないこともあるでしょう。ただ、エドリック王子も、あなたと同じように苦悩しています。だって、恋人だったのですから。機会を作って、一度、お二人で気が済むまでお話をなさった方が良いかと思います」
「・・・そ、そうなのですね」
ローラは、ストールの中に手を入れ、涙を拭うような仕草をしている。カレンの発した言葉は殆ど出まかせで、エドリック王子の心中など知る由もない。だが、ローラに“別れ”という最悪の決断をさせなかったことに後悔はなかった。
(相手と話す機会を作れるのなら、きちんとお話した方が良いわ。そこで、この恋が終わりなのか、それとも希望があるのかを互いに確認した方がいいと思う。私も、殿下と話すことを諦めて、ここへ駆け込んだことを後悔しているもの。あの時、何とかして殿下と会って話す機会があれば、陛下やお父様の状況(昏睡させられていたこと)が、もっと早く分かったかもしれないし)
「ローラさん、私はこの占いの結果を敢えて出しません。何故なら、あなた方の心がまだ揺れているからです。どうぞ、今決めてしまわないで。お二人でお話をした結果、上手くいったとしても、お別れすることになったとしても、あなたに良い未来が訪れますようにと、私は願っていますから」
「あ、ありがとうございます。お互いにまだ揺れているという言葉を聞いて、勇気が出ました。もう少し頑張ってみます。ダメだったときは、また来ます。その時は、どうぞ励ましてくださいね」
「ええ」
「では、これを・・・」
ローラは胸元から、ブローチを取り出し、テーブルの上へ置いた。どうやら、これが今回の占いに対する対価のようだ。
「ありがとうございます」
レダがお礼を告げると、ローラは立ち上がる。
「では、失礼いたします。レダ(カレン)様」
「ローラ様、どうぞお気をつけて」
優雅な足取りでドアを出て行くローラ。それを見送り終わった途端、カレンは床に座りこんだ。
(ヘビー、とってもヘビーだった!!だけど、これで良かったのかしら。どうか、ローラさんとエドリック王子が上手くいきますように。ここには、二度と来ないで欲しいわ)
しばらく座り込んでいたが、ブローチのことが気になりだしたカレンは立ち上がる。そのまま机の前まで行き、ローラの置いて行ったブローチを掌に乗せた。
(高そうなブローチだわ。金で作られた双頭の蛇が、赤い宝石を抱え込んでいるデザインなのね。かなり手が込んでいるけど、もらって良かったのかしら)
カレンは窓辺に行き、赤い宝石を光に当ててみた。この赤い宝石の正体は、ルビーで間違いなさそうである。
(この半年で一番高い報酬かも知れない。なのに、私は大したことが出来なかった・・・。次にレダさんへ会った時、きちんと占い師の修行をしたいって、お願いしてみようかな。引き受けてくれるといいけど)
カレンはコインを収納している引き出しを開け、その傍らにブローチを丁寧に置いた。
(レダさんが、こんなに沢山のお金を稼いでいるのは娘さんのためかもしれないわよね。私もレダさんにお世話になっているから、沢山お仕事をして、ここへお金をジャンジャンいれて行きますからねー!)
重い引き出しを、ゆっくりと力を込めて閉じる。壁の時計を見ると、時刻は正午を迎えようとしていた。
(お腹空いた~。まだあと半日も残っているなんてー)
ため息を吐こうとしたカレンの耳に聞こえて来たのは、コンコンとドアをノックする音だった。
(えー、またお客様?もう、何なのよ!今日はー!!)
カレンはドアの方へと振り返る。すると、返事もしていないのにドアが開いた。
「昼ご飯を持って来たぞー」
笑顔で、バスケットを抱えたアルフレッドが、入って来た。
「殿下~!!ありがとうございます!!最高にいいタイミングです!!」
まさか、そんなに喜んでもらえると思っていなかったアルフレッド。カレンのテンションの高さに驚きつつ、素早く室内へ入ると、しっかりカギを締めた。
「カレン、どうした?」
「ええっと、今日は朝からヘビーなお客様が続いたので疲れてしまって・・・。あっ!!!聞いてもらえますか!?」
「あ、ああ、何でも聞くよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます