第一九話 VS《邪神》の肉片


 アリアによって封印された《邪神》の肉片は、今なお彼女の生命力を奪い続けている。


 持って半月。

 その間に《邪神》の肉片を討伐出来たなら、アリアの生命力は自然と回復し、元通りになるだろう。


 別の見方をするなら。

 残り一四日程度は時間を使ってもいいってことになる。


 だから俺達はギリギリまで修練を積み重ね、戦術を構築し……


 現在。

 霊山、山頂部付近にて。


 開けたエリアの只中に立ちながら、俺達はそれを睥睨する。


「これが……」


「《邪神》の肉片、デスか」


 眉間に皺を寄せる、エクレールとサーシャ。

 俺もまた同じような態度で、


「実際に見てみると、印象が随分違って感じるな」


 相手方の姿を一言で表すながら、闇色の巨人といったところか。


 原作やコミカライズ、あるいはアニメでも見た姿だが……


 やはり画面越しに見るのと、目前にするのとでは、訳が違う。


「奴の全身を貫いてる、複数の柱……アレが、奴を封印してるんだよな?」


「うむ。しかしながら……見ての通り、もはや限界じゃ」


 アリアの言う通り、柱は総じてヒビ割れ、今にも崩壊しそうな状態だった。


「……引き返すなら、今のうちじゃぞ?」


 彼女の口から放たれた最後通牒に、俺達は笑みを浮かべ、


「覚悟はもう」


「じゅうぶん」


「出来ていマス」


 三人で一つの言葉を口にすることで、意思の強さを表す。

 そんな俺達にアリアは嘆息し、


「まったく。最後の最後まで、大馬鹿者じゃったの、おぬし等は」


 それから。

 アリアは小さく微笑んで。


「……なぜかのう。負ける気がせんわ」


 次の瞬間。


「さぁ、行くぞ! 馬鹿弟子共!」


「「「応ッ!」」」


 こちらの返答が周囲に響いた、そのとき。


 アリアは敵方の封印を解除したのだろう。


 闇色の巨人を封じていた柱の数々が音を立てて崩壊し……


「ァ、アアア、アアアアアアアアアア……」


《邪神》の肉片が、覚醒する。

 その刹那。


「今じゃッ!」


 アリアの号令一下、全員で一斉攻撃。


 目覚めた直後の、もっとも隙がデカい瞬間を狙って。


 俺達は、持ちうる全力を、叩き込んだ。


「グ、ガ、ァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」


 卑怯で良い。


 反則で良い。


 これは正々堂々とした試合じゃないんだ。


 相手の命を抹消出来るなら、どのような悪辣であろうとも、喜んで実行しよう。


「くたばれぇえええええええええええッッ!」


 修行の成果である特級攻撃魔法を雨あられと叩き込む。

 その横で、


「はぁああああああああああああああッ!」


 珍しく、エクレールが気迫を叫び、


「対象の衰弱を確認……! このまま、押し切れマス……!」


 サーシャが状況を見極め、


「ワシゃあ、もう! この山に縛られるのは! ごめんじゃあ!」


 アリアが本音を絶叫する。


「ワシはッ! この馬鹿弟子達と共にッ! 生きるッッ!」


 彼女が繰り出す魔法の威力が、秒を刻む毎に高まっていき……


「ゲ、ガ、ガガ……」


 闇色の巨人が膝を突いて、ボロボロと崩れ始めた。


 よし。

 希望的観測と思っていた推測が、的中したようだ。


 カイルを追放しなかったことによって発した、およそ一年間のタイムラグ。

 アリアの状況を思えば、俺達が向かう頃にはとっくに生命力が尽きているはずだった。


 しかしなぜ、彼女が依然として健在だったのかといえば……


「倒しといて良かったぜ……! 《邪神》の幻影……!」


 カイルとの旅路を経て、俺達は原作のラスボスを、見事に討伐した。


 その結果、各地に散らばっていた《邪神》の肉片達が、弱体化したのではないかと、そう考えていたのだが……


 どうやら、的外れってわけじゃなかったようだな。


「もう、少しでッ……!」


 倒せる。

 アリアに苦痛をもたらす、元凶を。


 ……俺を含む全員が、そのように確信していた。


 しかし。

 次の瞬間。


「ギ、ゲ、ガ……ゴギャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」


《邪神》の肉片から放たれたのは、断末魔の叫び……ではなかった。


 こちらの攻撃を浴びる中、奴の総身がボロボロと崩れ、そして。

 姿が変異する。


 闇色の巨人が、今。

 大型の狼に似た姿へ、変異し――



「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!」



 雄叫びが耳朶を叩いてから、すぐ。


 俺達は。


 わけもわからぬうちに、全身をズタズタに斬り裂かれ――



 ――――全滅した。






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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