第一八話 女神を救う、方法は


「――――師匠の体は、あと何日もつんだ?」


 この問いかけはアリアにとって、予想だにしない内容だったらしい。

 彼女は一瞬目を丸くして。

 しかし、すぐに得心した顔となり、一言。


「全てを知っておるというのは、やはりまことであったか」


 そうしてアリアは、困ったように笑う。


「まぁ、そうじゃな……およそ、半月といったところかのう」


 半月。

 アリアに残された時間は、たったそれだけ。


 その期間中に、奴を。

 霊山に封印されている《邪神》の肉片を、消し去らないと。


 アリアは、死ぬ。


「師匠。俺達は――」


「ならぬ」


 にべもなく、一言で切って捨てるアリア。

 次の瞬間。

 彼女の小さな体から、これまでにないほどの圧力が、放たれた。


「アレと戦うことは絶対に許さん。そうしたところで、犬死にするのがオチじゃ」


 アリアは希望的観測を絶対にしない。

 常に客観的かつ論理的に思考し、結論を見出す。

 だからこそ彼女は、とことん、こちらの意見を封殺するつもりなのだろう。

 しかしながら。


「んなこと言われて、引き下がるとでも?」


 師匠の圧力に対して、俺は。

 いや、俺達は。

 正面切って、反抗する。


「差し違えるつもりなんだろ? 《邪神》の肉片と」


「それこそ、ぜったい、許さない」


「貴女の計算結果を信用するだけのデータが手元にありまセン。よって貴女の考えを肯定することは不可能デス」


 アリアからしてみれば、力尽くでも俺達を遠ざけたいところだろう。

 さりとて。

 そのための選択肢は、どこにもない。


「ここで思い切りやり合う……なんてことにはならないよな?」


「むっ」


「俺達のことは師匠が一番よく知ってるはずだ。もし俺達に勝てたとしても、《邪神》の肉片とやり合うための力がなくなっちまう。それじゃあ本末転倒ってもんだろ?」


「ぐむっ」


「じゃあ時間稼ぎのために封印……ってのも不可能だ。なんせこっちにはサーシャが居るからな。どんな封印術を用いても、サーシャが無力化する」


「ぐむむっ」


「そういうわけで…………ハナっから、結末は決まってたんだよ」


 原作を知っている俺は、当然のこと。

 エクレールやサーシャにしても。


 アリアと接していけば、彼女を慕うようになる。


 何せ彼女は誰よりも優しくて。

 だからこそ。


 誰からも、愛される存在なのだから。


「わたし、誰にも、負けない。アリアのこと、ぜったいに助ける」


「エクレール……」


「ワタシは貴女を今以上に理解しタイ。だから、こんなところで死なせたくありまセン」


「サーシャ……」


 揺らぐ心に、俺は。

 楔を打ち込むかのように、言葉を放った。


「これまで、師匠は色んな連中と付き合ってきたんだろうけど、さ。でも……師匠はいつも、誰かを救ってばかりで、自分が救われたことなんで、一度もないだろ」


「っ……!」


「だから、俺達は……師匠を救う、初めての存在になりたいんだ」


 ここまで言われて。

 ここまでの気持ちを、ぶつけられて。

 それでもなお、否と言えるほどの強さなど、彼女の中にはなかった。


「……十中八九、死ぬことになるんじゃぞ」


「一割でも勝算があるなら十分だ。そうだろ? 二人とも」


「うん。アルの言うとおり」


「分の悪い賭けに打って出るのは、実に不合理なことデスが……しかし、それこそ、人の在るべき姿というものでショウ」


 言い合って笑う俺達に、アリアは。


「…………馬鹿者共が」


 こちらに背中を向けて、一言、口にすると。

 その肩を、震わせながら。


「やはり、弟子など……取るべきでは、なかったわ」


 どんな顔で、そう言ったのかはわからない。

 だが……

 声に宿った情を想えば、何もかもが、手に取るように理解出来た。


 そうだからこそ。

 俺は拳を握り締めながら、強く強く、決意する。


《邪神》の肉片を必ずや討ち果たし。

 この霊山に閉じ込められたアリアを、解放して。

 


 ――孤独という名の地獄から、救い出すのだと






 ~~~~あとがき~~~~


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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