第一三話 スキル・キラー
下手すりゃ序盤で詰む。
第二巻目の内容を振り返った結果、俺はそのような予感を抱いた。
そもそも二巻目は序破急の三幕構成となっている。
序において、迷宮を探索し、サーシャと合流。ヴィクターを撃退。
破において、ベーグル・タウンの観光。サーシャの精神的な成長を描写。
急において、ある人物の急変。ラストバトルの末にサーシャが過去と決別する。
そんな構成の中。
上手いこと行けば序の段階で全てが決着すると、そう考えた一方で。
不運に見舞われた場合、ヴィクター戦で全滅。
そんな結末も十分にありうると、俺は危惧してもいた。
だから今回の一件は、あまりにもリスクが高く、ほんの一瞬、見送りも脳裏によぎったが……
結局のところ。
安全を第一に据えたなら。
俺はいつまで経っても、しょうもない悪役のままなのだ。
ゆえにハイリスク・ハイリターンな博打に打って出た。
そして、現在。
どうやら俺は、賭けに勝ったらしい。
「――ワタシが守りマス」
眼前にて、そう言い放つサーシャ。
そんな彼女へ感謝の言葉でも送ってやりたいところだが、もう言葉を紡ぐ余裕すらない。
だから俺は、ただただ、静観した。
サーシャがヴィクターを圧倒する光景を。
「はぁぁぁぁぁ。邪魔するってんなら、仕方ねぇよ……なぁッ!」
魔銃から煌めく弾丸を放つ。
奴のスキル、《速度操作》によって推進力を加速されたそれは、音速をも遙かに上回るほどのスピードでサーシャへ殺到。
回避など、望むべくもない。
だが。
そもそも、回避する必要が、ない。
「――ディフェンス・システム起動。タイプ・アルファ」
一瞬、サーシャの全身が光を放つ。
その直後、魔力の弾丸が彼女の胴を捉え…………霧散。
「ッ……!」
目を見開くヴィクターへ、サーシャは右掌を向けて、
「――マルチ戦闘システム起動。コード・ゼロスリー」
遠距離特化型の戦闘モードへ移行。
それを決定すると同時に、サーシャの右腕が変形する。
少女の華奢な腕部が、瞬時にマシンガンのそれへ。
そして次の瞬間。
煌めくエネルギー弾が、無数に放たれた。
「チィッ!」
舌打ちに宿る動揺を、俺は聞き逃さなかった。
ギリギリのタイミングで光弾を回避し続けるヴィクター。
その脳裏には強い疑問符が浮かんでいることだろう。
――なぜ、スキルが通用しないのか。
奴の頭は、そのことで一杯になっているはずだ。
「なんっ、だっつ~のよッ! お前はぁッ!」
魔銃を乱射しつつ、魔法も交えての戦術構成。
しかしその全てを、サーシャは全身で受け止め……
ことごとくを、霧散させる。
「~~~~ッ!?」
原作でも、同じ反応を示していたな。
しかし無理もない話だ。
いかなる実力者であろうとも、自らの常識を全て破壊するような存在を前にしたなら、誰だってそうなる。
「クソッ……! どうなってやがるッ……!」
サーシャによる光弾の猛攻を回避しつつ、顔を顰めさせるヴィクター。
なぜ、奴がこうも追い詰められているのかといえば。
それはサーシャが、魔力を一切宿さない、特殊すぎる存在だからだ。
彼女は超古代に造られたオートマータ。
その動力源は吸引した酸素を分解して得られる、クリーン・エネルギーであり、そこには魔力など微塵も混じってはいない。
そして。
彼女は対人戦特化の戦闘用オートマータである。
ゆえに魔力を動力源とする、全ての能力を無効化する機能が備わっていた。
そんな特性を有しているからこそ。
スキルも。
魔法も。
そして、魔導極義さえも。
サーシャの身には、傷一つ付けることが出来ない。
「――戦闘システム、コード・ゼロツーに変更」
近接特化型への切り換え。
刹那、サーシャの両腕がブレード状へと変形し……
「トレース・システム起動。戦闘行動の最適化を確認。排除予想時間……二八秒」
駆動する。
地面を蹴って、魔弾と魔法を真正面から無力化させ、肉迫。
ヴィクターも近接戦で対応しようとするが、しかし。
「ぐぁッ……!」
身に宿る力が何もかも通じないという、最悪な状況を覆すことは、出来なかった。
ヴィクターは次第に追い詰められていき、そして。
「――かはッ」
胴を深々と斬り裂かれ、倒れ込む。
これにて決着。
まさに一方的な圧勝であった。
「敵対者の生存状態を確認。殺害しマスか?」
「……いや、いい」
ようやっと、言葉を返すだけの余裕が戻り始めた。
「そいつは、いま死なれると……厄介な問題が、発生するかもしれないから、な」
原作では最後まで生き延びたヴィクターが、二巻目の時点で死亡すると、どのようなシナリオ修正が働くやら、わかったもんじゃない。
ただでさえ先読みしづらい状況なのだ。
これ以上シナリオを破壊するのはよした方がいいだろう。
「了解しまシタ。……アルベルト」
こちらの名を呼び、それから。
サーシャが問い尋ねてくる。
「貴方の言う希望とやらハ。期待しても、よいものデスか?」
ここでハッキリしない答えを、出すわけにはいかない。
たとえそれが間違いであったとしても。
俺は、自らの原作に対する愛情と、そこから生じた考察を信じる。
だから口にすべき答えは、ただ一つ。
「あぁ。すぐにでも、見せてやるよ。その希望ってやつを、な」
「であれバ――」
サーシャは無機質な表情のまま、しかし、声音には決然とした意思を宿して。
次の言葉を、送ってきた。
「――貴方を、信じマス」
~~~~あとがき~~~~
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