第八話 いざ、新たなヒロインのもとへ


「君達も知ってるとは思うけどさ~。迷宮には大別して、二つの分類があるわけよ」


 冒険者ギルドにて、俺達はコーネリアの言葉に耳を傾けていた。


「まず一つ目は、めっちゃ昔に、魔王が人類に対する嫌がらせとして造ったやつ」


 この世界にはかつて魔王が存在した。


 彼は名の如く魔人達の王であり、邪神の手先だったわけだが……それはさておき。


「魔王の迷宮は定期的にダンジョン・コアを破壊しないと、地脈のエネルギーを吸いまくって土壌を枯らしやがるんだよね。だから探索の需要はあるっちゃあるんだけど……」


 長年の時を経たことで、魔王の迷宮には完璧な攻略法が見出されるに至った。


 よって、かの迷宮は今や特別な脅威でもないし、探索の旨味もない。


 その反面。


「もう一つの迷宮は、魔王が健在だった頃よりも遙か昔……超古代にて建造された、古代迷宮。ここは遺跡としての側面が強く、謎も多い。そして魔王のそれと大きく異なっているのは――」


「アーティファクト、だよな」


 コーネリアはニヤリと笑った。


「そう! 古代迷宮には超古代の遺物が眠っているのさ! 私はそれを集めて、研究しているんだ! 世のため人のためにね!」


 ……この発言がであることを、俺はよく知っている。


 コーネリアは原作の第二巻における、だからな。


 とはいえ。


 俺個人としての意見だが。


 彼女は、ただの悪役で終わるような存在ではないんじゃないかと、考えている。


 というのも。


「そこでね! 君達には私が管理している迷宮を調査して、アーティファクトを探してほしいんだ! もし見つけてくれたなら、それに見合った報酬をプレゼントしちゃうよ!」


 コーネリアは、アーティファクトに対して、極度の執着を抱いている。


 中でも取り分け……


「あぁ、それとね。もしも万が一、人型のアーティファクトを見つけたら……白金貨二〇〇枚を、報酬として支払うよ」


 破格どころの騒ぎじゃない。


 白金貨二〇〇枚ってのは、現代日本換算で数十億円規模のカネだ。


 コーネリアは伯爵家の当主という設定を持つが、しかし、それにしたって簡単に出せるような報酬じゃない。


 なぜここまで人型のアーティファクトに固執しているのか。


 それは……原作でも、謎のままだった。


「さて、どうする? この話、受けるか否か」


 コーネリアの問いを受け、俺はまずエクレールへと声をかけた。


「受けてもいいかな?」


「うん。アルが決めたことは、わたしが決めたことだから」


 相棒の了承を得た結果、話はまとまり――



 現在。

 俺達はコーネリアが保有・管理する古代迷宮にて、探索を行っている。



 その内観はまさにSFワールドといった様相。


 大理石に似た物質で構成されたその空間には煌めく回路が走っており、それが光源の代わりとなっている。


 周囲を徘徊する人外達も、わかりやすいモンスターではなく、SFチックな機械獣だ。


 彼等はガーディアンと呼称されており、その名の通りアーティファクトを守護するために配置された、防衛システムの一環であると考えられている。


 この古代迷宮を巡回するそれらは蜘蛛に似た姿をしており、並の冒険者では歯が立たないほど強力……なのだが。


「えいっ」


 我等がヒロイン、エクレールちゃんの敵ではない。


 魔法やスキルはあえて使わず、力を温存する形での戦闘。


 魔力を込めた五体で以て、彼女は瞬く間にガーディアン達を屠っていった。


 その一方で、俺はというと。


「ふんぬッ!」


 壁を殴る。


 殴って殴って殴りまくる。


 そんな俺の姿が奇異に映ったのか、エクレールは瞳を細めて、


「……アル、ストレス溜まってるの?」


 まぁ、溜まってはいるよね、主にカイル主人公のせいでね。


 だが、この壁殴りは決して、ストレスを解消するために行っていることではない。


「ここらへんにさ、隠し通路がある……はずなんだよ」


 原作において、カイル達は偶然にもそれを発見し、第二巻目のヒロイン……サーシャが眠る場所へと至った。


 隠し通路への出入り口はとある壁面へ衝撃を加えることによって開かれる、わけだが。


 これがまぁ~、ぜんっぜん、見つからない。


 そりゃそうだわな。

 原作はラノベである。即ち、文字情報の塊であって、視覚情報は皆無に等しい。


 一応、場所の具体的な説明描写だとか、コミカライズやアニメの描写などもあるにはあるんだけど……それにしたって、完璧に特定出来るわけじゃない。


 だから俺は、ここに入ってからずっと、怪しい場所を殴り続けているのだ。


「さすがにそろそろ見つかってくんないかな……っと!」


 また新たに壁を殴る。


 もう壁殴り代行サービスでも始めようかな?


 などと考え始めた、その矢先。


「おっ」


 ようやく当たりを引いたらしい。


 目前の壁面が音を立てて開き始める。


「エクレール。この通路の先には、結構ヤバい奴が居るんだけど……大丈夫か?」


「うん。まだまだ元気いっぱい。よゆ~よゆ~」


 実に頼もしい相棒を連れて、俺は隠し通路の只中を進み――


 開けた場所へ出る。


「あの中、か」


 広々とした空間の中央に在る、カプセル型の装置。

 あそこでサーシャは今もなお眠り続けているのだろう。


 ……起こさないこともまた、彼女にとっての救いであると、理解してはいる。


 だが、もしかしたなら。

 起こしてやることによって、真の救いを与えてやれるかもしれない。


「……エクレール。上から来るぞ。気を付けろ」


 某クソゲーめいた忠告を行ってから、歩を進め、カプセルへと――

 接近した瞬間。


 天井にて。

 大型のガーディアンが光学迷彩機能を解除し、落下。


 そうして我々の眼前に現れ、その威容を見せ付けてくる。


 これまで屠ってきた蜘蛛型ガーディアンの強化版、って感じだな。


 原作じゃあカイルのチートスキル、《空間操作》によって瞬殺、という形になったわけだが、


「しょうもない悪役が対峙した場合、どうなるのかね……!」


 エクレールと共に身構える。


 戦闘開始。


「PIGAAAAAAAAAAA!」


 電子音を響かせながら、大蜘蛛ガーディアンがこちらへと突撃。


 それに合わせて、胴部に搭載された砲身から光弾を雨あられと連射してくる。


「アニメで見たやつか……!」


 俺はなんとか回避。


 その一方で、エクレールはというと。


「ふっ……!」


 ジグザグの軌道を描きながらの高速運動により、回避しながら相手方へ接近し……


「えいっ」


 頭部へと拳を叩き込む。


 その一撃で大蜘蛛ガーディアンの頭がメシャリとヘコみ、


「GIGAAAAAAAAAA!」


 まるで激昂したかのように、電子音を響かせる。


「GAGAGAGAGAGAGA!」


 前足を用いた近接攻撃。


 しかしエクレールには掠りもしない。


 彼女は軽々とした身のこなしで敵方の攻勢を躱し、そして。


「えいっ」


 もう一度、頭部をブン殴る。


 これはかなり強力な一撃だったようで、ガーディアンの巨体が紙切れのように宙を舞った。


 決着。


 そんな予感を覚えた、次の瞬間。


「あっ、やべ」


 大蜘蛛のガーディアンは、こちらの予想以上に、吹っ飛びすぎた。


 その軌道上にはサーシャが眠るカプセルがあって。


 次の瞬間。



 ドガッシャアアアアアアアアアアアンッ!



 思っクソ、衝突する。


「…………てへ」


 やらかしたことを自覚したのか、エクレールが舌を出して自らの頭を小突いた。


 やっぱエクレールちゃん、マジ天使……などと言ってる場合じゃない。


「サ、サーシャッ!?」


 カプセルへと駆け寄る。


 ガーディアンは機能を停止させたようで、なんの反応もなかった。


 そんな大蜘蛛の巨体を横切って、カプセルの様子を検める。


 と――


『異常を検知』


『システム・エラー』


『スリープ・モードを解除します』


 電子音声が響くと同時に、カプセルが開く。


 そして。



「――――死に腐ってくだサイ。このバカヤロウが」



 目覚めて早々。

 サーシャがこちらへ、毒々しい言葉を叩き付けてきた。






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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