第七話 奴隷少女の次に、救うのは


 エクレールを伴い、森林地帯を抜けて、近場にあった街へ移動。


 そこへ到着する頃には夜になっていたため、俺は宿を取ることにした。


「……お客さん、魔人連れかい」


 宿の主人があからさまな態度を取ってくる。


「しかも首輪を付けてないとなると――」


「あっそ。じゃあ、こっちから願い下げだね」


 他にも何件か回ってみたが、どこも似たような対応だった。


 そんな現状に胸を痛めたのか、エクレールがこちらの袖を引っ張って、


「……ごめんね、アル。わたし、居ない方が、いいよね」


 紅い瞳が、僅かに涙で潤んでいた。


 俺はそんな彼女の銀髪を撫でながら、笑う。


「なに言ってんだよ。俺達は一蓮托生だろ?」


「……ほうれんそう?」


「ずっと一緒ってことさ」


「ずっと、いっしょ」


「あぁ。だからな、君を受け入れないようなところは、こっちから願い下げだ」


 俺の気持ちが伝ったのか、エクレールは小さく笑って。


「ありがとう」


 その後。


 俺達は街中を彷徨い、適当な場所を見繕って、野宿した。


 やってることは社会の底辺だが、しかし、心は穏やかで、温かい。


「寒くないか?」


「うん。アルが、居てくれるから」


 身を寄せ合って一夜を過ごし……


 その翌日、俺は服飾店へと赴いて、エクレールに衣服を贈った。


「……こんな服、もらっても、いいの?」


 黒を基調とした動きやすい服装。


 やはり美少女というのは何を着ても似合うもんだな。


「むしろ今までがおかしかったんだよ。君はもうちょっと、欲張りになるべきだ」


「……うん。ありがとうね、アル」


 小さく笑って、またまた涙を流すエクレール。


 今の彼女は人生の全てが刺激的で、感動的なんだろうな。


 その一助になれたことを、俺は嬉しく思う。


「さて。んじゃ、次の場所へ移動するか」


 馬車乗り場にて、車内に乗り込む。


 王都への帰還……ではない。


 これから向かう先は、我が家の領地である。


 とはいえ、実家に帰参するって話じゃない。


 領地の一角に広がる都市、ベーグル・タウン。


 ここに顔を合わせたい人物が居る……わけだが。


「……大丈夫、だよな?」


 車内にて、小声で不安を呟く。


 原作スタートから一年経過というのは、やはりデカい。


 これから仲間にしようと考えている、第二巻目のヒロインにしても、それは同じことだ。


 ありえないとは思うが、もし万一、俺よりも先に彼女を目覚めさせている人物が居たなら……


 もうその時点で、お手上げである。


 そんな不安を味わいながらの移動を終えて、無事にベーグル・タウンに到着。


 時刻は昼過ぎといったところか。


 陽光を浴びながら、俺はエクレールと共に街中を歩き……


 冒険者ギルドへと入館する。


「…………あぁ、よかった。居たわ」


 目的の人物を発見。


 しかし声をかけるようなことはしない。


 ここは原作通り、実にわかりやすい方法で、興味を引いた方がいいだろう。


 俺はエクレールと共に受付へと向かい、


「この子の冒険者登録を、お願いしたいんだけど」


「……かしこまりました」


 少々嫌そうな顔をしつつも、受付嬢は規定通りに動いた。


 魔人には人権がなく、ほとんど道具扱いではあるのだが、冒険者への登録は可能だ。


 一昔前は完全に拒否されていたようだけど、今はちょっとだけ話が変わっている。


 とはいえ魔人への人権付与活動が盛んになってるとか、そういうわけじゃない。


 ここ最近、貴族達の間で魔人の品格=自らの箔という風潮が流行しており、それゆえに魔人のブランディング・プランが様々な形で行われている。


 その一環として、魔人の冒険者登録を可能としたのが……

 何を隠そう、我が家であった。


 高ランクの冒険者となった魔人を保有する者は、そのランクに見合った箔を得る。

 そんな考えを広めたいのかね。ウチの親父殿は。


「……登録が完了いたしました。そちらの魔人はこれより、Fランクの冒険者となります」


 これで話は終わり。

 はよ帰れ。


 そんな態度の受付嬢だが、俺は特に気にもせず……

 さっきから、こっちに絡みたくてウズウズしてるって感じの連中に、目をやった。


「よぉ。文句があるんだったら、聞いてやらんでもないぜ?」


 切っ掛けを作ってやった瞬間、奴等はこちらへ勇み足でやって来た。


「ずいぶんとまぁ、調子に乗ってやがんな」


「落ちぶれまくってもプライドだけはいっちょ前ってか」


 どうやら、こいつらは俺のことを知ってるみたいだな。


「カイルに追放されてクソ底辺になったってのによぉ~」


「魔人なんざ連れ歩きやがって。何様のつもりだ? あぁ?」


 魔人を連れるというのは、けっこうなステータスだったりする。


 俺にとってはどうでもいいことだけど、こいつらからしてみれば、ようやく見下せるようになったクソ野郎が自分達よりも上の身分に見えて、不愉快なんだろうな。


「……ねぇ、アル。この人達は、アルのことを馬鹿にしてるの?」


「ん? まぁ、そうだな」


 こちらの解答に対し、エクレールは。


「……ムカつく」


 明確な怒気を露わにした。


「ははっ! そうだな! 俺も今、めっちゃムカついてるよ!」


「じゃあ……」


「「やっちまおう!」」


 俺は嬉しかった。


 エクレールがどんどん、人間になっていくのが。


 だから俺は、笑いながら目の前の連中を殴り倒し――


「いやぁ~、すごいね、君達!」


 目論み通り、彼女の気を引くことに成功した。


「やることなすこと、めっちゃくちゃで! 実に面白い!」


 絡んできた奴等を叩きのめした後。


 俺は声が飛んできた方へ目をやる。


 いかにも研究者って出で立ちの女性。


 彼女の名は、コーネリア・ヴィンゲル。


 第二巻のヒロインと、深く関わっているであろう、人物。


 そんな彼女はこちらに対し、次の言葉を放つ。


「なぁ、君達――」


 偶然か必然か。


 それは原作にて、主人公カイルに送られた内容と、一言一句同じものだった。



「――迷宮を調査して! 一攫千金といこうじゃないか!」






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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