追放系の悪役に転生した俺、主人公を追放せずに「ざまぁ」回避したら、調子こいた主人公の手によって、こっちが追放された。ムカつくのであいつのヒロインになるはずだった美少女達を味方にして成り上がろうと思う
第三話 悪役にだってね、バックボーンってもんがあるんスわ
第三話 悪役にだってね、バックボーンってもんがあるんスわ
クッッッッッッソ重い。
原作にて、エクレールの過去を知ったとき、俺は心の底からそう思った。
だがそうだからこそ。
主人公のカイルによって彼女が救われるという結末に、涙したのだ。
けれど。
この場には主人公など、どこにも居ない。
哀れなヒロインと――
しょうもない悪役達だけが、立っている。
「あぁ? なんだ、お前?」
貴族の馬鹿息子、クルツ。
原作じゃ挿絵とかなかったんで、見た目はわからんかったが、アニメとかコミックの方じゃビジュアルがちゃんと出てたんだよな。
いや、ホント――
思わず殴りたくなるようなツラをしてやがる。
「ここは、ぼくの土地だぞ! 勝手に入ってきてんじゃねぇ!」
馬鹿息子の怒りに合わせて、騎士達が身構える。
多勢に無勢ではあるが……
俺はあえて調子こいた感じの態度を取りつつ、彼女の姿を目にした。
エクレール。
下の名前は、ない。
地面にまで届くほどの長い銀髪。
あどけない美貌。
真紅の瞳。
そして……側頭部から伸びる角が、彼女の正体を表している。
いや、メッチャクチャ美少女だな、おい。
こんなん惚れてまうわ、マジで。
「おい! さっきからなんなんだ、お前は! こっちを無視するんじゃない!」
馬鹿息子……
いやもう、ただの馬鹿でいいか、うん。
そっちの方に視線を向け直してから、俺は言葉を紡ぎ出す。
「俺の名はアルベルト・キリングヴェイツ。俺自身のことは知らなくても……キリングヴェイツって家名には聞き覚えがあるだろ? 子爵の坊ちゃんよ」
悪ぅ~い笑みを浮かべながらの台詞に、クルツは目を見開いた。
「キ、キリング、ヴェイツ……!? こ、公爵家の……!?」
そう。
これは原作でもしっかりと説明がされている要素だ。
アルベルトはそこらへんの平民ではない。
むしろ、その真逆。
彼は由緒ある公爵家の、
さらに言えば。
公爵は公爵でも、ただの公爵ではない。
そのことについて、騎士達が口々に言い合った。
「キリングヴェイツといえば……暗殺貴族、だよな……?」
「国家を裏で牛耳ってるって噂も……」
うん。
それは全部、事実だ。
キリングヴェイツの家業は表向き、真っ当な内容として知られているのだが。
その実態は、暗殺者の一族である。
我が家は代々、殺人というドストレートな手段で以て、国家を裏から支え続けてきた。
その結果、今や王様すらも顎で使える程度の権威を持ってるってわけだな。
「だ、騙されるなッ! こんなところにキリングヴェイツが居てたまるかッ!」
まぁ、そうなるわな。
「こいつはキリングヴェイツを騙る不届き者――」
「この刻印がぁ! 目に入らぬかぁあああああああああああッ!」
馬鹿の台詞に割り込む形で叫びつつ、俺は右手のグローブを外し、手の甲を見せた。
そこに刻まれしキリングヴェイツの家紋こそが、アルベルトの出自を示す何よりの証となっている。
「そ、そんなの、偽物――」
「はい、馬鹿はっけ~ん! 魔力紋だから照合すりゃ一発でわかりま~す!」
馬鹿の方は知らんが、少なくとも騎士達は完全に信じているようだった。
……さて。
本題はこっからだ。
原作において、カイルはエクレールを救うまでに一巻分の尺をまるまる使ったわけだが。
俺ならその課程を、スキップ出来る。
……まぁ、交渉の結末次第ではあるけれど。
「え~、よく聞けよ、そこの馬鹿」
「あぁ!? だ、誰が――」
「お前さぁ、自分とこの領土にクスリ、流してんだろ?」
指摘すると同時に、馬鹿の顔が真っ青となる。
「そ、そそ、そんなこと! し、してるわけ、ないだろ!」
「うん。お前の言い分とかね、どうでもいいの。これって悲しいけど、確定事項なのよね」
こちらが上。お前が下。
それをアピールするために、俺はことさら道化めいた態度を取り続けた。
「証拠は揃ってる。後は摘発するだけ。つまりぃぃぃ……お前の人生おわたぁああああああああああああああああああああああ! ぷぎゃああああああああああああああ!」
カイルが同じことをしても、きっと誰も信じなかっただろう。
実際、原作でも、カイルは悪事の証拠を掴んだものの、誰にも信じてもらえないという展開となっていた。
そっから本当に、七転八倒の大立ち回りが続いたわけだが……
俺はカイルのような平民じゃない。
公爵家にして、国家を裏で牛耳る暗殺貴族、キリングヴェイツの人間だ。
紆余曲折全部すっ飛ばして、最短ルートでエクレールを救ってやる。
「さぁ、ここで交渉と――」
予定通りの展開。
予定通りの言葉。
しかし、ここから先は。
「エクレールッ! こ、こいつを、殺してしまえッ!」
馬鹿のせいで、こっちのシナリオが、ブッ壊れた。
「……はい、クルツ様」
そして始まるバトルタイム。
目前の現実に対し、俺は溜息を吐きつつも、
「……いいぜ、かかってこいよ、ヒロイン。もしかすっと、こっちの方がよほど早いかもしれないし、な」
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