第二話 「ざまぁ」展開を回避した結果、もっと酷いことになったでござるの巻


 俺達のパーティーが英雄視され、SSランクへと昇ったのは、ひとえにラスボスの討伐という功績によるものだった。


 邪神の幻影。

 原作においては一二巻目にて、なんとか打ち破ることに成功した、最強の悪役。


 しかしシナリオを知り尽くした俺と、チートスキルを覚醒させまくったカイルを前にして、奴はあっけなく沈んだ。


 かくして、我々は世界滅亡の危機を救った英雄として讃えられるようになったわけだが……


 どうやら俺は、勘違いをしていたようだ。


 称賛を浴びていたのは主にカイルであって、俺達はただのオマケとして扱われていたらしい。


 だからこそ。


「アルベルト・キリングヴェイツ。貴殿をAランク冒険者からFランク冒険者へと格下げいたします」


 ……まぁ十中八九、カイルからの嫌がらせだわな。


 今のあいつは国王すら顎で使えるような存在になっている。


 であれば、一個人を不幸のドン底へ堕とすことなんて、お茶の子さいさいってもんだろう。


 ……けど、さぁ。


「Aランク特典として与えられていた屋敷については、没収とさせていただきます」


 ……ちょっと、さぁ。


「税の滞納が確認されましたので、ご報告を。経過日数から追徴額を計算いたしますと……ちょうど全財産没収で、まかなえそうですね」


 これはさぁああああああああああッ!


 やりすぎなんじゃないですかねぇええええええええッッ!?


 いくらなんでもここまでやるか、普通!?


 ちょっと前まで豪華な屋敷暮らしのAランク冒険者だったのにッ!


 今や一文無しのFラン冒険者(ホームレス)だよ、ド畜生ッ!


「マジでざっけんなや、腐れ主人公がぁああああああああああああああッ!」


 白昼堂々、往来にて叫び散らかす。


 道行く者達に後ろ指を差され、嘲弄の対象となったが、どうでもいい。


 発散して処理しないと、このクソデカ感情は身を滅ぼしかねん。


「ふぅ…………とりあえず路銀を稼がないと、どうにも出来ないな」


 ギルドへ向かい、魔物の討伐クエストを受ける。


 本来であれば複数人でパーティーを組み、全員の力を合わせてクエストに臨む……ところだが。


「悪ぃけど、他あたってくれや。お前と組んだらカイルに睨まれるんでな」


 我が称号に一つ、付け加えよう。


 一文無しFラン冒険者(ぼっちホームレス)。


 社会の底辺以下じゃねぇかぁああああああああああああッッ!


 原作でもここまで落ちぶれてねぇぞッッ!


「アルベルトさんよぉ~、もう諦めたらどうだい?」


「おめぇ~の席、もうねぇからぁ~!」


「ざまぁねぇぜ! ぶはははははははは!」


 前世の記憶が戻る前の俺は、方々に調子ブッこいた態度を取っていたため、当然ながらメッチャクチャ嫌われている。


 だがそれは、自業自得として納得するべき問題……ではない。


 俺はアルベルトであって、アルベルトではないのだから。


 ゆえに俺は、相手方の挑発行為を不当なものと見なし、


「表出ろや、チン○ス共がぁああああああああああああああッ!」


 ってな感じで大喧嘩。


 そして、


「つ、強ぇ……!」


「き、金魚のフンじゃ、なかったのかよ……!?」


 そりゃあ確かにね、アルベルトはカイルが居なきゃ、大した活躍も出来ない道化野郎だよ。


 だが、それでも。


「お前等みたいなモブにやられるほど、雑魚じゃねぇっつ~の」


 まぁ、とはいえ、せいぜいが中の上ってとこだけどね。


 ……だからこそ、俺には仲間が必要なんだ。


 アルベルト・キリングヴェイツは、ソロでBランクまで上がれるかどうかの器でしかない。


 そこから先に行くには、頼もしい仲間が必要だ。


 実のところ、目星は付いている。


 そう……

 原作において、カイルのハーレムメンバーとなっていた、ヒロイン達。


 彼女等を仲間に出来たなら。


 腐れ主人公に「ぎゃふん」と言わせてやれる、かもしれない。


 そのためにも、路銀が必要不可欠となる。


 あっちこっち巡るわけだしね。


 先立つモンがなくちゃ、なぁ~んにも出来ないってのは、こっちの世界でも同じことだ。


 マジでつらい。


 まぁ、そんなわけで――

 死に物狂いの魔物狩り(ソロプレイ)を経て、俺は目的地へ向かうための路銀を得た。


 いや、ほんっとキツかったわ……。

 カイルの野郎、つぎ会ったらブン殴ってやる……。


 馬車の中で車体の揺れを感じつつ、俺は溜息を吐いた。


「ここまでは、まぁ、順調といえば順調だけど……」


 問題は、こっからなんだよなぁ……。


 何せもう、原作スタート時点から一年も経っている。


 厄介なことに、ヒロイン達が置かれた境遇ってのは洒落にならんほど重い。


 だから下手をすると、三人目のヒロインについては、もう死んでるかもしれん。


 カイルは一巻ごとにハーレムメンバーを増やしていったわけだが……


 優先順位としては、三巻 → 一巻 → 二巻という順番で、ヒロインを仲間に入れていきたいところではある。


 だが、三巻目のヒロインが住まう場所は今の俺じゃとてもではないが到達出来ないため、巻の数字順に仲間入りを狙っていくしかない。


 よって現在。

 俺は一巻目のヒロインのもとへ向かっているわけだが……正直、不安だ。


「まだアイツがあそこに居座ってるかもわからんし……ともすれば、舌噛んで死んでるかも……」


 原作のヒロイン達は、誰も彼もがクッソ重いバックボーンを持っている。


 これから向かう先に居る……かもしれないヒロインについても、それは同じ事だ。


 たとえ原作の知識を持っていたとしても。

 いや、持っているからこそ。


 彼女の心を動かすのは、難しいように感じられる。


「けど……やるしか、ないんだよな」


 主人公だからこそ救えたヒロインの心を、しょうもない悪役の俺が救う。


 果たして、そんなことが可能であるか否か。


 俺の冒険は最初からクライマックスであった。



 ……さて。

 とりあえず、現地に到着。


 そこはある貴族が治める領土の一部であり、《淀溜まり》と呼称される危険エリアでもある。


 見た目にはそこらの森林地帯と何も変わらない。


 だがここには闇のオーラが漂っており、その影響によって、動植物が定期的に魔物へと変貌する。


 放置したなら人里を襲うため、《淀溜まり》は基本、冒険者がよく出入りするものだ。


 一般人からしてみれば超危険な場所だが、冒険者からするとカネになる狩り場だからな。


 しかし。

 この森は前述した貴族の馬鹿息子が独占しており、奴はここを遊び場としている。


 ……頼むから、居てくれよ。


 そう祈りつつ森の只中を進んでいく、と。


「……の……凄……だろ」


 声が聞こえてきた。


「……ラッキーかどうかは、まだ、わかんないな」


 果たして、そちらへ向かってみたところ。


 俺は複数の男女を目にした。


 冒険者ではない。


 甲冑を纏った、複数の騎士。


 そんな面々に囲まれた、身なりの良さそうな服を纏う、青年。


 そして。


「おらっ! ぼくに礼を言えよ、クソ魔人! 使ってくださってありがとうございますってなぁっ!」


 青年……貴族の馬鹿息子に殴られ、口元から血を流す、純白の少女。


「……使ってくださって、ありがとうございます。クルツ様」


 無感情。

 無機質。


 その美貌も相まって、彼女はまさに人形のようであったが……

 見ていて、あまりにも痛々しい。


「……原作通り、実に胸っクソ悪ぃな」


 彼女は、人にして人ではない。


 奴隷として生まれ、奴隷として死ぬ。

 そんな宿命を背負う存在。


 魔人族。

 その中でも取り分け強い、竜の魔人。


 この世界では、虐げられて当然の存在として扱われる、被害者達の一人。



 ――エクレール。



 彼女こそが、原作の一巻目にて、ヒロインを務めた少女である。

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