追放系の悪役に転生した俺、主人公を追放せずに「ざまぁ」回避したら、調子こいた主人公の手によって、こっちが追放された。ムカつくのであいつのヒロインになるはずだった美少女達を味方にして成り上がろうと思う

下等妙人

第一話 「ざまぁ」を回避した結果がこのザマだよ


「お前みたいな雑魚、俺のパーティーには必要ねぇんだよ」


 魔物退治を終えてからすぐのことだ。

 平野の只中に立ちながら、俺はあいつへ向かって宣言する。


「お前はクビだ、カイル。今までご苦労さん。退職金は今回の依頼料まるまるくれてやっから。涙流して感謝しろや」


 相手の顔が悔しげに歪む。


 そんな姿は実に愉快で――――――――――って、あれ?


 えっと。

 ん?

 ちょっと、待てよ。


 俺、は……アルベルト・キリングヴェイツ、だよな?

 で、目の前に居るのは……カイル・ゲートマン。


 ふむふむ。

 なるほど。


 ……俺はどうやら、とんでもないミスをしでかしてしまったらしい。


 ここに来てようやく思い出した。


 俺は、アルベルトにして、アルベルトではない。


 現代日本で事故死して、この世界に転生した、成人男性である。


 そして。


「……? アルベルト、君? どうしたの?」


 怪訝な顔を向けてくる、この中性的な少年、カイル・ゲートマンは――


 決して逆らってはならぬ、神にも等しき存在。


 即ち、この世界の主人公である。


 ありとあらゆる物事を思い出した俺は、次の瞬間。



「さっせんしたぁあああああああああああああああああああッッ!」



 主人公様に対し、ジャンピング土下座を決行する。


 そんな俺の言動はカイルのみならず、パーティーメンバー全員に衝撃を与えたようで、


「な、何してんのさ!?」


「い、意味が分からん……!」


 幼馴染みという設定の美少女と、タンク役を担う巨漢。


 二人の動揺を黙殺し、俺はカイルへと叫んだ。


「ごべぇえええええええええええんッ! さっき、お前はクビだって言ったけどさぁああああああああああああああああッ! やっぱまだ、一緒に冒険、してくれねぇかなぁああああああああああああああああッ!?」


 涙ながらに、俺は謝罪する。


 そうしないと人生が終わるということを、よく知っているからだ。


 この世界の全ては、とあるライトノベル作品の舞台と完全に一致している。


 そうだからこそ。


 俺は今、自らの運命に抗わねばならない。


「嫉妬してたんだよぉおおおおおおッ! お前の有能さにぃいいいいいいいッ! 俺、固有スキルとか持ってねぇしさぁあああああああああああッ!」


 この台詞はだが、もうだ。


 しかし今はそんなこと、どうだっていい。


 ここで許してもらえなかった場合、俺の人生は暗澹たるものとなるだろう。


 アルベルトのパーティーは現在、Sランクという実質的な冒険者達の頂点に君臨しているのだが、これは全てカイルという主人公あってこその栄光である。


 彼は決して目立つことなく、しかし、その固有スキルで以てパーティーを支え続けてきた。


 その優秀さを、アルベルトの馬鹿は……


 


 だが、そうだからこそ、アルベルトは彼を追放したのだ。


 しかし俺は違う。


 奴が死ぬまで守り続けていた無駄なプライドなど、持ち合わせてはいない。


「頼むよぉおおおおおおおおおおおッ! 許してくれよぉおおおおおおおおおッ! なんでもするからさぁああああああああああッ!」


 靴を舐めろと言われたら喜んで舐めよう。


 これから語尾にワンと付け続けろと言われても、喜んで実行しよう。


 ざまぁ展開の果てに無惨な結末を迎えるよりかは、ずっとマシというものだ。


「ア、アルベルト君。わ、わかったよ。もう、わかったから」


「許してくれるのかッ!? こんな、ゴミ虫の俺をッ!?」


「う、うん。許すから、さ。もう、泣かないで? ねっ?」


 あぁ、なんて良い奴なんだ。さすがは主人公様だ。


「ありがとう、カイル様ッ! 今後は君がリーダーだッ! どうか俺達をハッピーエンドに導いてくれッ!」


 どうなることかと思ったが、俺は見事に「ざまぁ」を回避した。


 これで何もかも解決。


 俺はしょうもない悪役としての運命から、解放されたのである。



 ――それから瞬く間に、一年の時が過ぎた。



 順風満帆。

 パーティーという単位で見れば、間違いなくそう言えるだろう。


 カイルは自らの固有スキル《空間操作》をガンガン成長させ、立派なチート主人公へと成長。


 そんな彼の大活躍もあって、我がパーティーは前人未踏のSSランクに昇格した。


 それだけではない。


 原作においてはラスボス的な存在であり、そして、アルベルトを無惨な結末へと導いた悪役、邪神の幻影すらも討伐出来てしまったのだ。


 ……いや、マジであいつ、めっちゃ簡単に倒せたんだけど。

 ……


 ま、まぁ、とにかく。

 たった一年の冒険を経て、原作のシナリオは完結へと至った……わけだが。


 実のところ、良いことばかりでもなかった。


 一つだけ、めっちゃくちゃなマイナスが生じている。

 それは――



「アルベルト君さぁ。ちょっと蜂蜜パン買ってきてくんない?」



 時を経て。

 主人公のカイル・ゲートマンは、今。


 ――ビックリするほど、調子ブッこいていた。


 冒険を終え、王都へ帰還してからすぐのこと。

 奴はいつも通りの傍若無人を発揮した。


「もちろん自腹ね? 君のカネって全部、僕が稼いだやつを恵んでやってるようなもんだし」


 ……もう、俺が知ってる主人公じゃない。


 確かにね、原作でもカイルは巻を重ねる毎にイキリ具合が強くなってはいたけどさ。


 それにしたって、ここまで酷くはなかったわ。


「つ~かアレだ。ボザロ君。君、クビだから」


 唐突な宣言に対し、我がパーティーのタンクたる巨漢、ボザロは目を見開いた。


「はっ!? な、なぜだ!? オレはパーティーの役に――」


「立ってねぇからクビだっつってんだよ、ハゲ。君ってただ硬いだけじゃん?」


「い、いや! そうだからこそ、オレは皆の盾として――」


「要らねぇんだよ、そんなもん。実際、戦闘になったら僕が全部ちゃちゃっと片付けて、それで終わりって展開ばっかじゃねぇか」


 徹頭徹尾、相手を見下しきった顔で、カイルはさらなる追い打ちをかけた。


「そんなこともわかんない馬鹿だから、君の存在価値はいつまで経っても石ころ以下のまんまなんだよ。とにもかくにも、明日からもう来なくて良いから。さっさと消え失せ――」


 もう、我慢の限界だった。


「ふざけんじゃねぇッ!」


 ボザロは記憶を取り戻す前から、長いこと共に冒険した仲だ。


 記憶を取り戻した後も、一年間、互いを支え合ってきた。


 そんな男を侮辱されて、黙っていられるわけがない。


「どうしちまったんだよ、カイル! お前、そんな奴じゃなかったろ!?」


 俺は原作を愛していた。


 当然、カイルのことも好きだった。


 そうだからこそ、今のコイツには腹が立つ。


「成功体験で変わっちまうようなタマじゃねぇだろ、お前はッ!」


 利己的な感情は消え失せている。


 自らの内側に生じた熱量を、俺はひたすらにぶつけ続けた。


 カイルならきっとわかってくれると、信じて。


 だが――


「あっそ。じゃあ君もクビってことで」


 こちらの想いは、届かなかった。


 カイルは俺のことを、ゴミか何かだと思っているのだろう。


 奴の目が、そんな心情を雄弁に物語っている。


「……お前、いつからそんなふうになった?」


 落胆と失望が口から漏れ出てくる。


 そんな俺へ、カイルはこう答えた。



「お前みたいな雑魚、僕のパーティーには必要ねぇんだよ」



 かつて俺が口にした内容と、一言一句、同じ言葉。


 それを叩き付けてから、カイルは不愉快な笑みを浮かべ、


「ねぇラクス。君はどうする? コイツとは幼馴染み、だったよね?」


 原作では最後の最後まで、アルベルトを見捨てることなく、支え続けてくれた少女。


 しかし、シナリオが破壊された今――


「もちろん、残るに決まってるわ。もうカイルなしじゃ生きていけないもの……♥」


 そう言って、彼女は俺の目の前で、カイルと口づけを交わした。


 舌を絡ませ合う扇情的なキス。


 そんな行為に耽りつつも、カイルはこちらを見やって、ラクスの尻を揉みしだく。


 瞬間――脳内にて、何かが壊れたような音が鳴り響いた。


 こいつは。

 カイル・ゲートマンは。


 もはや、俺が愛した主人公では、ない。


 そのように悟った瞬間。

 俺は、奴の前から消えた。


 ――本当に、悪夢のような展開だと思う。


 主人公を追放しなかった結果、その主人公に追放されるハメになるとは。


 その後、俺はボザロと共に酒場へと入り、何杯かヤケ酒を呷ってから、


「……これから、どうする?」


 俺の問いに、ボザロは厳つい顔に諦観を宿しながら、こう答えた。


「冒険者は廃業しようと思う。皮肉にも、カイルのおかげで食うに困らん程度のカネは稼げたし、な」


 前人未踏のSSランクってのは伊達じゃない。


 当然だけど、収入だって結構なものだった。


「お前はどうするんだ? アルベルト」


「そう、だな」


 ボザロと同じ選択をするのが、一番賢いということは理解している。


 アルベルト・キリングヴェイツという男の限界は、この俺が一番理解しているからな。


 我が身は所詮、追放系ラノベの悪役でしかないのだ。


 主人公がパーティーに居なければ、栄光を浴び続けることなど出来ない、哀れな道化。


 しかし、それを理解していても、なお。


 燃え盛る感情が、消えてはくれなかった。


「自尊心なんてもんは、とっくに捨ててる。ただ……意地まで捨てたつもりは、ない」


 ざまぁを回避して、ハッピーエンドを迎えたい。


 ある意味じゃ、それは達成してるんだろうな。


 今の俺にはカネもあるし、家もある。


 別に冒険者なんて、続けなくてもいい。


 だが、それでも。


 あいつの。


 カイル・ゲートマンの。


 不愉快な目を、思い出すと。


「見返してやりたいんだよ。あのクソッタレな主人公サマを」


 どうしても、止められない。

 どうしても、消し去れない。


 あの野郎のハナを明かしてやる。

 俺を追放したことを、後悔させてやる。


 そんな気持ちは、俺自身、どうしようも出来ないものだった。


「そう、か。……昔のお前だったら、やめておけと、止めておくところだが」


 ボザロは厳つい顔を「にっ」と笑みの形にしながら、言った。


「今のお前なら……何か、デカいことをしてくれそうだな」


 俺達は拳を突き合わせ、互いの健闘を祈った。


 きっと、もう会うこともないのだろう。


 長年連れ添った戦友が、不本意な形で、我が前から去って行く。


 そんな現状に一抹の寂しさを感じながら、俺はまた一杯、酒を呷った。


 そうして、しばし一人酒を楽しんでから、退店。


 時刻はもう夜半。


 魔石式の街灯が王都を照らす中、俺は星空を見上げ……呟く。


 自らの内に宿した決意を、言葉に変えて。



「――見せてやるよ、主人公。しょうもない悪役が、世界の中心になるところを、な」






 ~~~~あとがき~~~~


 ここまでお読みくださり、まことにありがとうございます!


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 今後の執筆・連載の大きな原動力となりますので、是非!

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