第30話 門限を守らない旅行 3
「実は、オレたちバンド組んでるんですよ」
恭一が言うと、聡は「分かってる」と言った。
三人はカラオケを楽しんだ後、いろんなところを回った。飲食店で遅めの昼食を取って、雑貨屋で泉がいろんな物を買った後、予約していたライブ会場に近いホテルにチャックインした。
その後に、泉は別の号室で、恭一と聡の二人は同じ号室に滞在すると、恭一はその言葉を口にした。
「どうですか、バンドやってみないですか?」恭一は部屋に持ってきボストンバックを置いた。
「まあ、機会があったらやってみたいけど、流石にウチでは無理なんじゃないか」聡も学校のボストンバックを置いた。
「やっぱり住職が嫌がりますか?」
「まあな。それにオレは何としても大学に受からないといけない」
「その大学は偏差値が高いところなんですか?」恭一は地べたに胡坐をかいて、聡を見上げた。
「いや、それほど高くない。まあ、オレは住職の息子だけで随分と入学しやすいよ。テストも大目に見てくれるのかもしれないという噂は聞いてるけどな」
「じゃあ、バンド一年、いや半年でもやれるんじゃないですか?」
「まあ、その部分ではやれないことはない」聡はベッドの上に座った。ようやく恭一と顔を合わせた。
「ただ、さっきお前が言ったように、親父が許してくれるもんではないからな」
「うーん」恭一は腕を組んだ。「住職は昔からあんな感じだったんですか?」
「え?」
「だって、今日向かうウソをついた寺の和尚は優しい人だから、自分の息子がバンドをしていたとしても何も言わないと思うんです。それよりも応援してくれるんじゃないかな。ただ、後継ぎとして、それなりに寺修行してからのお話だけど。でも、それだけをやっていたのであれば、後は目をつぶってくれると思うんです。それなのに、ウチの住職は厳しく指導してる。別に教え方は人それぞれですけど、話し合ってみたら……」
「いや、無理だよ」聡は俯いた。
「え?」
「だって、ウチの親父はお袋が無くなってから、変わってしまったんだ。誰かを味方につけるように、家族と家を支配したんだ。一時期は弟子を雇っていたという話もしてただろう。弟子とはケンカをして去っていった。それからだ、特に可笑しくなったのは。矛先は家族に向かってしまったんだ」
「それをして、住職はどうしたいんですか?」
「さあね。自分の教え方が間違ってなかったって思いたいんじゃないか。まあ、この時点で間違いっていうのはオレが一番分かってるんだけどな」
「先輩は、いずれかは住職に就きたいと思ってるんですか?」
「どうなんだろうな。オレ自身が元々なりたい夢が無かったからな。それに例え親父が厳しくなくても後継ぎはオレしかいないから自然となるんじゃじゃないか」
「そうなんですね」恭一はカバンの中から先程コンビニで買ってきた、コーヒーのキャップを回して開けて飲んだ。
「お前は、将来何か考えてるのか?」
まさか、聡から何か投げかけられることは初めてだったので、飲んだ後手が止まった。
「……そうですね。オレの家、結構複雑なんですよ。色々あって……。ゆくゆくはアメリカに行くことになるんじゃないかなって……」
「アメリカ?」聡は素っ頓狂な声を上げた。
「はい、母親が有名人なんで、それについていくっていう意味じゃないけど、一時期は音楽で夢を掴めたらって思ってたんで……」
「それが、ドラムだったのか?」
「はい、でも、毎日ドラムの練習をしても、プロになろうとする人間なんてザラにいるし、結構足踏みするとやる気無くしてしまいましてね」
「まあ、一握りのプロって難しいからな」
その時、ドアをノックする音が聴こえた。
「あ、もしかしたら泉ちゃんかも」恭一は立ち上がった。
ドアを開けたらそこには案の定、泉の姿があった。
「どうした?」と、恭一。
「いや、一人だと何にもすることないなって思いまして……」
「まあ、慣れない都会だもんな」
「中に入っていいですか?」泉は恭一を一瞥した。
「いいよ」
そう言って、泉を招き入れた。
三人でレーゲンボーゲンのライブが始まるまで談笑した。バンドの話や家の話、そして恭一の母親の話。あの家ではあまり禁句の話が出来たように恭一は感じた。
その後、三人はライブへ足を運んだ。
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