第27話 延期のライブ

 恭一は帰りに何気なくスマートフォンでレーゲンボーゲンのサイトを見ると、ライブの開催が発表された。どうやら急遽決まったみたいで、こないだの地震の影響で中止になったライブに関して、当時のチケットを持っている人限定ライブだった。

 レーゲンボーゲンのファンクラブを小学生の時から入っていた恭一は、その日のチケットを購入して持っていた。

 恭一は知章と拓也も行くから三枚購入していたのだ。しかし、天災で中止になってしまったのだ。

 内容は八月の上旬にライブを行うということと、いけない方は無論返金という形になる。

 恭一は知章と拓也とは絶交になってしまったので、チケットが二枚余ってしまっている。このまま返金してもいいのだが、どうしても聡のことが思い出す。

 ……本当はライブも行きたかったんじゃないのか……。

 しかし、泰三にはどう説得しても難しいはずだ。

 何かいい方法はないのだろうか。


 恭一はその日の夜に、聡の部屋に訪れた。

「失礼します」

 恭一は恐縮しながら引き戸を横に滑らせて頭を軽く下げた。

「おう」聡はそう返事をした。どうやら彼はこの一か月間で、随分と恭一と距離が縮まったようで、友達がいない聡にとっては、恭一は性格が軽い人物だが、一緒に修行してきた仲間のように思えていた。

「先輩、勉強の方は上手くいってますか?」恭一は恐る恐る聞いた。

「ああ、まあな。このまま勉強を続ければ、大学のテストもなんとか行ける」

 と言葉を交わしたのだが、その後、何を離せばいいのか分からなく恭一はチケットのことを躊躇なく話した。

「先輩は音楽が好きですか?」

「え、あ、まあな」

「実はね。レゲボのチケットがあるんですよ。いやあ、実はこのチケット本当は当時の連れの為に取っておいてたんですけど、二人ともオレとケンカしちゃいまして……。なので、チケットが二枚余ってるんですよ」

「ふーん」聡は机の方に視線を向けて、学習本を見ている。

「先輩は一緒に行かないですか? 何つって……」恭一は頭を掻いて笑った。

「オレは行きたいよ。でも、この家柄なんだ。お前もそれは分かると思うけど」

恭一はまさかの返事に一瞬驚愕したが、話を続けた。「……それなら、上手くいく話がありますよ」恭一は笑った。

「どういう意味だ?」聡は学習本から目を逸らして、また恭一の方を見た。

 彼は屈託のない笑顔を見せた。


「あたし、やっぱりギターが上手くなりたいです」

 翌日の昼休みに屋上で座っている恭一に泉は、屋上の手すりに触れて街並みを眺めた。

「うん、泉ちゃんがそう言うなら、間違いないよ。それからの関係は分からないけど、バンドを組んで演奏するんだ。ほら、秋に文化祭があるだろう。あれに出場するって話はどうだい?」

「え、あたしが……ですか?」泉は振り返って自分に指を差した。

「そうだ。大丈夫オレが付いてるから。問題は先輩も演奏して欲しいんだよな」

「前にも言ってましたね。でも、お兄ちゃんは頑なですから、難しいんじゃないですか?」

「いや、実はオレは今度先輩とレゲボのライブに行くんだ」

「え、そうなんですか?」泉は目を輝かせた。

 泉,はレーゲンボーゲンのファンではない、いや、なかったが正解だろうか。恭一の影響もあってか、最近ではロックバンドの楽曲も泰三と葵の二人に隠れて聴いている。何かと、泰三に従いつつも、好き勝手にやっている恭一が楽しそうで、泉は徐々に遊ぶことを覚えていった。とはいっても、今まで遊ぶということが無かった泉にとって音楽を聴くことも感動だった。

「えー、あたしも行きたかった」と、残念がる泉に、恭一は立ち上がって、手をポケットに突っこんだ。

「でも、実はもう一枚あるんだよね。ほら、オレの連れが二人いただろう?」

「ああ、あの元バンドの方たちですか?」

「そう、あいつらとつるむことも無くなったし、元々、オレがチケットを購入して、本来春に行うはずだったんだ。しかし、地震が起こったせいでその日は中止、一時期は返金という形で終わるはずだったんだ。でも、ファンの要望と、メンバーの要望でその日はもう一回八月に行われる。あいつらは行きたいのかもしれないけど、声はかけてくることはないだろう」

「でも、ファンだったら行きたいんじゃないですか?」

「まあな。これで、チケットが欲しくてオレにくっついてくるんだったら、ますます拒絶するぜ」

「確かに、分かる気がする」

「だから、もう一枚は泉ちゃんにやるよ。三人で行こう」

「本当ですか? ありがとうございます。でも、お姉ちゃんも誘いたかったな」

「あいつは音楽に興味が無いだろう。それに、住職とつるんでる可能性もある。あいつは変なところで真面目だから、親父さんに嘘が付けないだろう」

「どうやって嘘をつくんですか?」泉は目をパチクリさせた。

「まあ、そうだな。手あたり次第当たってみるか」

 恭一は泰三を騙す目論見を考えることに気持ちが躍っていた。

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