第26話 泉、行動に移す
恭一は屋上で一人弁当を食べていると、屋上に姿を現したのは泉の姿だった。
「あれ、どうしたの?」恭一は思わず笑顔を見せた。
「鳴尾さん、折り合って話があるんですけど……」
「何だい?」恭一は泉を見た。彼女はどこかしら緊張した面持ちでいる。
「すみません。ここではなくて、体育館の裏で話をしませんか?」
泉の声はか細く、何とか恭一は聞き取れるほどだった。
昼飯を早めに済ませて、恭一と泉は体育館の裏の方に歩いていった。恭一は何を言われるか予感があった。
「で、何だい?」恭一は優しく諭した。
「あの……、ギターはもう教えてくれないんですか?」泉は恭一に言った。
「まあ、お姉ちゃんに言われたからな。暫くは謹慎かもな」
「鳴尾さんはいつまでウチに住まわれるんですか?」
「まあ、それ程長くはないよ。とはいっても、それはお父さんの許可得ればと思うし、オレも嫌気が差したら出て行くし……」
「そうですか……」泉は肩を落とした。
「どうしたんだい?」
泉は暫く黙り込んだが、「……あたし、鳴尾さんが好きです。付き合ってください」と、周りを見ながらようやく言葉を発した。
予感はしていたが、彼女の本気の目を見ると、恭一は慌てて言う。「おいおい、ちょっと待ってくれ」
「どうなんですか?」
「まあ、オレは……ごめんなさい」
「それは、やっぱりお姉ちゃんが好きだからですか?」
「え?」恭一は度肝を抜かれた。
「どうなんですか?」泉はかなり感情的になっている。成功する確率もほとんどなかったけど一か八かの告白を断られ、プライドを傷つけられた気持ちも入り混じっていた。
「うーん、どうだろう……。今は何とも言えない」
「答えになってないじゃないですか。それだったら、あたしのチャンスもあり得るということですか?」
「うーん、泉ちゃんの気持ちは分かるけど、オレはこの前言ったように、バンドを作るというのは諦めちゃいないぜ」
「それって、お兄ちゃんも参加させるってことですか?」
「まあな。でも、先輩は相当性格が変わったらしいじゃないか。いや、正確には押し殺したって言った方がいいか……」
「お兄ちゃんは、鳴尾さんが説得しても難しいですよ。だって、あたしたちにも話掛けないし……」
「分かってる。でも、人を想う気持ちはあるんじゃないか」
「それって、どういう意味ですか?」
「オレは、そこを考えてる。具体的なものは分からない。とにかく、泉ちゃんの気持ちは分かった。正直、期待させてほしくないから、オレは泉ちゃんとは付き合うつもりはない。でも、これからもいい関係でいたいんだ」
「は……い」泉は肩を落として力が無くなったように落ち込んだ。
「でも、嬉しかったよ。そんなこと言ってくれる人がいて。オレなんてド変態男と周りの女子から言われてるんだぜ。そんなオレを気に入ってくれる人がいるなんて、ありがとう」
「分かりました……」
それだけを聞いて、恭一は手を上げた。「じゃあ、また家で」と、去った。
昼間の授業中でも恭一は泉のことを考えていた。泉が自分のことを気に入ってくれているのは前々から感づいていた。しかし、自分が本当に好きなのは葵なんだ。あいつが今どう思っているのかは分からない。だが、この気持ちを抑えて泉の方についていくのも不謹慎な気がする。
そう考えていると、何て自分は大真面目なんだと自嘲した。別に姉妹の仲を裂こうが自分にとってはどうでもいい話だ。
泉には気晴らしにカラオケに誘ってみよう。葵も一緒だ。
何て、恭一は複雑な気持ちのまま、授業は終了した。
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