第16話 楽器練習 2
放課後に恭一は取り合えず、今日は自宅から着替えを取ってこないといけないなと、思っていたら、スマートフォンのラインで葵からのメッセージが届いていた。
『今日もお父さんのところで修行だから逃げないでよ』
てっきり、自分が一日で終わってしまうと思っている。まあ、元々長続きしない性格だし、あの状況だったらわざわざ自分から修行をしに行く方が可笑しいに決まっている。
『分かってるよ。もしかして葵ちゃんはオレのこと心配してんの?』
『うるさい。あんたを変えたい女子を代表して言ってんの。あたしはみんなの責任を背負ってるんだからね』
相変わらず、素直じゃないなと恭一はニヤッと笑いながら、自分の靴箱から靴を取り、履こうとすると、後ろから、「鳴尾さん」と聞きなれた声がしたので、恭一は振り返ると、そこには泉の姿があった。
「今から、あたしの家に帰るんですか?」泉は少し照れたように頬を人差し指で掻きながら笑っている。
「先にオレの家に帰って、その後にそっちに向かうつもりだ。服とか用意したいし……」
「あ、そうですよね。途中まで、一緒に帰りませんか?」
「あ、いいよ。昼間に一緒にいたもう一人の子は?」
「ああ、友理奈なら放課後にちょっと勉強して帰るのが日課なんで、あたしいっつも一人で帰ってるんです」
そう言いながら、泉は何故友理奈のことを聞くのだろうと、恭一の本心を探ろうとしていた。
「そうか。じゃあ、一緒に帰ろう」
「あたしも楽器の演奏がやりたいんです」
学校の正門を出た後、彼女は俯いたまま言った。
「へえ、さっきの時間の時は、音楽は初心者だって言ってたよね。好きなバンドがいるの?」
そう言われると、泉はどう返事したらいいのか分からなかった。彼女は音楽のテレビをあまり観たことがない。それは泰三の躾もあるのだが、そもそも音楽に対してそこまで目を向けていたわけではなかった。
取り合えず、小学生の時に話題になったガールズバンドの名前を上げた。
「ああ、且て凄かったよね。アレなんて、演奏がめちゃくちゃ難しいけど……」
「へえ、そうなんですか?」
「泉ちゃんは、どの楽器を演奏したいの?」
泉はどの楽器を演奏したいまで考えていなかった。ただ、恭一はドラムをやっているので、ドラム以外ならよかった。しかし、バンドの人たちは何の楽器を演奏しているのかよく分かっていなかったので、一番オーソドックスなものを言った。
「そうですね。ギターがやってみたいですね」そう泉は恥ずかしそうに笑った。
「へえ、ギターか。やっぱりさっきのガールズバンドのギター演奏者みたいに弾きたいの?」
「まあ、そうですね。恭一さんはいつもシンザが好きなんですか?」
「ああ、そうだよ。レゲボ(レーゲンボーゲン)も好きだけどね」
「レゲボなんか聞いたことある」と、泉は呟くように言った途端、付け加えるように言った。「あ、間違えた。何回か聴いたことあるという間違いです」泉は恭一に向かって照れたように笑みを浮かべた。
「ああ、やっぱりそうだよな。君のお兄ちゃんもレゲボのアルバム持ってたし……」
「え? そうなんですか? お兄ちゃんは音楽なんて聞いたことないのかと思ってた」
「どうなんだろうね。タンスの中に隠すように入れてあったんだ。かなり古いベストアルバムだったけど、大切に持ってるということは、好きなんじゃないか?」
「そうですよね……」
「それはそうと、泉ちゃんはこれから真っすぐ帰るのかい?」恭一は思いついたように言った。
「え、はい。規則なんで……」
「お父さんの?」
「はい」泉はコクンと頷いた。
「別にサボったっていいんじゃない。高校の女子なんて門限七時でも八時でもいるぜ」
「まあ……そうですね」
「実はな。泉ちゃんがギターやってみたいんだったら、駅前のスタジオ行こうと思いついたんだ。どうだい?」
泉は躊躇していた。家に真っすぐ帰らなかったら、もちろん泰三に怒られる。泰三だけではない、葵だってお冠だ。
しかし、恭一に楽器を教えてもらえる。それに非行な感じも泉は試してみたいと感じていた。
更に付け加えて恭一は言った。「お金はいらないよ。こっちで奢るから」
「いいんですか?」
「ああ、オレの頼みに付き合ってくれよ」
恭一は口角を上げてウインクをした。
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