第12話 天真爛漫な妹 2
「ここが、鳴尾さんの今日から住む部屋です」
泉に紹介されて、恭一はその部屋に訪れると、整理整頓された六畳一間で、荷物も何もない。完全に日頃から使われていないような部屋だった。
しかし、定期的に掃除は掛けられているようで、埃被ったと所はない。いつ何時でも使用できるようにされていたのだろうか。
恭一は部屋の中に入って周りを見渡した。泉は室内の襖を開けた。
「ちなみに、布団はこちらにありまーす」
恭一は布団を調べた。こちらもキレイに整理されている。見たところ汚れは見当たらないくらい、あまり使われていないのだろうか。
唯一部屋が使い古されたものは、電気の照明だろうか。紐で引っ張って電気が付く仕組みなのだが、少し部屋が薄暗く感じる。
「思ったより、キレイに片付けられてるね」恭一は感心したように言った。
「そうでしょ。お父さんがこの使われていない部屋もキレイにしろって言われててね。お姉ちゃんが毎日掃除してるんです」
「へえ、今日も?」
「多分、夕方に掃除するんで」
ということは、自分が瞑想修行を行っていた時も掃除をしていたのだろうか。確かに掃除機の音は聞こえていたな。
「ちなみに、着替えはどうするんですか?」泉は恭一に向かって目をパチクリした。
「君のお兄さんに借りろって、言われたけど……」
「ああ、そうなんですか? 別に買えばいいとは思うんですけどね」
そうだよな。確かにコンビニまではここからだと遠いけど、買った方がいいと思うけどな。と恭一は深く頷いた。
とにかく、泰三と聡はひと悶着ありそうな性格だが、この泉は純粋な少女なので、恭一は気持ちが楽になった。
すると、階段を誰かが上がってくる音が聞こえてきて、顔を出したのは葵だった。
「あ、ここにいたの、二人とも。泉、このドスケベなどうしようもない男に対して乱暴なことされなかった?」葵は目を釣りあげて、心配そうに泉に言った。
「ううん、別に何もされてないよ。それより……」泉は企むように忍び笑いを見せた。
「鳴尾さんって、お姉ちゃんの初恋の人ですよね?」
えっ……? と、恭一はその言葉を飲み込めないように、唖然と泉を見た。
すると、葵は慌てて泉の口を塞いで、「泉、ウソだって言ってるでしょう!」と、恥ずかしさと苛立ちを入り混じって、頭の上から蒸気が出ているようだった。
恭一は口角を上げて、ニヤニヤ笑い、葵の後ろに回った
「何だそんなこと想ってたのか。それだったらオレと葵ちゃんは相思相愛じゃないか。早速、今日合体しようぜ」と、彼女の胸を後ろから両手で揉みだした。
「うるせえ、そんなんじゃないってだから」
と、スリッパを履いていた葵は咄嗟に恭一の股を思い切り蹴り上げた。
「うっ」
恭一はいつも以上の激痛に飛び跳ねて紛らわせようとしている最中に、「行こう」と、葵は泉を引っ張って部屋を出た。
風呂を入る順番も決まっていた。最初に泰三、聡、葵、泉の順番の後に恭一が入るということを、泰三は二階にいる恭一に言った。
「別に夜型だからいいですけど、それよりも、ここってスマホの充電器ないんですか?」恭一は堂々とくつろいでいて、寝そべりながら左手で頭の後頭部を持ち上げて、泰三を見上げた。
「充電器や物等は全て聡に貸してもらえ。聡は隣の部屋にいるからな」と、泰三は親指を立てて、隣の部屋を指差した。
「別に家に取りに行ってもいいんですけどね」
すると、泰三は態度が変わり焦燥感を露骨に出した。「そんなことは許さない。お前は修行の身だ。夜道は歩いてはいけない。それにお前が家に帰ったら、もうこっちに来ないだろう」
そう言うが、恭一は別にこの家に戻るつもりでも、一旦家に帰るとそこで緊張感が解き、結局修行から抜け出すという、断念をすると自分でもふと思った。
「分かりました」
恭一は不貞腐れた返事をした。
「それに、明日は四時起きだからな。寝坊したら承知しないぞ」
「はあ、全然、寝れねえじゃねえか」恭一は驚いて起き上がって座った。
「敬語を忘れてるぞ。オレとお前は住職と修行僧の関係だ。忘れるな」
「はいはい」恭一はため息交じりに答えて、泰三は出て行った。
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