第11話 天真爛漫な妹

「食事中は喋ることは禁止だ」

 一口食べる前に泰三は恭一にそう告げた。

 恭一は精進料理の品を見た。肉や魚が無い。コンビニ弁当よりも不味い物を食べなくてはいけないのかと物足りない気持ちだったのだが、一口食べると、そこには旨味が凝縮されていて、意外と美味しかった。

 しかし、こうやって五人で一つの食卓で部屋を囲んで食べるのは何年ぶりだろう。小学生の給食以来だろうか。

 昔恭一の家でもたまにパーティをやっていた。その時は当時お手伝いさんを雇っていた人たちがあくせく動き回って、そこで会社の社長だとか、芸能人だとかアイドルだとか総勢三十名くらい集まっていた。

 コース料理であり、シェフも付いていた。そのシェフのこだわりがあり、オードブル、メインディッシュ、デザートとフルコース料理楽しませていた。

 当時小学生の恭一はみんなからは可愛がられていたが、殆ど知らない人たちであり、スーツを着ていた人もいた。なので、ただのみんなで食事をとって談笑するというものではないのだなということは理解できていた。

 それに小学生の恭一がいるということも聞いていたのだろう。子供もつれてきた人もいた。女の子で学年は四年生。恭一が六年生だったので、二歳年下だった。彼女も清楚なワンピースで来ていた。

 色々と話をしたのだが、相手の子が控えめだったこともあり、何を話したのかさえも忘れてしまった。

 これだったら、学校の生徒たちと話をしていた方が楽しいと感じさせられたパーティだった。

 恭一は我に返って、周りを見渡した。荻野家の食卓はこれだけ人が集まっているのに、私語が禁止であり、尚且つテレビは付いていない。静かではあるが、全く知らない人からしてみたら、歪な光景であるだろう。

 みんな当たり前のように落ち着いた表情で食べているが、恭一はこの感覚が落ち着かなく、早くご飯を掻きむしっていた。

「おい、ゆっくりして食べろ。味わって食べるんだ」

 そう泰三に言われて、恭一は暫く彼を睨みつけていたが、渋々、茶碗を机の上に置いてよく噛んで食べていた。


 ようやく全員夕食を食べ終わり、自由な時間になった。恭一は徐々にこの光景に慣れてきて、何だか家に帰る気持ちも無くなっていた。

 家に帰ってもどうせ一人だ。自分で風呂もたかないといけないし、辺りはもう夜だからな。

 それに、葵や泉の胸も拝めるなんてある意味、ここは天国なんじゃないのか。

 恭一は足を崩して、何度目かの痺れを体感していた。

 聡は飯を食べ終わってからすぐに部屋の方に戻った。

「あれ、あの人は?」恭一は胡坐をかいて、泰三に言った。

「あいつはこの寺の後継ぎなんだ。来年には大学受験を控えていて、関東寺大学という、寺の後継ぎが入学する大学だ。そこに入る為に勉強している」

「ふーん」

「ねえ、鳴尾さん。鳴尾さんは今日からここで泊まるんですよね。よろしくお願いします」

 泉は恭一に興味津々で彼に向かい合って机に肘を置き前のめりになって、聞いてくる。着ているTシャツから着用しているブラや胸の谷間が見え隠れする。恭一はどこを見たらいいのか躊躇した。

「あ、ああ」

 恭一はその一点に集中したいが、これほどサービス旺盛な女子は初めてだと返って不意に逸らしたくなる自分が不思議だった。

 葵に対しては、そんなことないのに……。

 すると、葵が家事をせわしなく移動していて、泰三に「お父さんお風呂沸いたわよ」と、遠くから声が聞こえてきた。

「分かった。ありがとう」

 泰三は立ち上がって風呂場の方に向かおうとした。

「絶対に、泉には手を出すなよ」と、恭一に向かって忠告をした。

「分かってますよ」と、恭一は苦笑いを見せた。

 泰三が居間の部屋を後にすると、恭一は泉に尋ねた。

「そう言えば、オレの部屋はどこにあるんだい?」

「二階のお兄ちゃんの隣の部屋は空き部屋だから、そこだよ。でも、そこの部屋は且て、修行の人たちが使ってた部屋なんだけど、みんな出て行っちゃってね」

「出て行った? いつの話?」

 泉は自分の口元に人差し指を当てた。「うーんと、あたしが小学四年生の時だから、六年前かな。三人いたんだ修行の方が。その時、丁度お父さんが張り切って修行僧たちを募集したんだ。自分が考えた行いを指導したいって」

「それで?」

「あまりにも厳しくて、三人同時に修行に来たわけではないけど、一人入っては辞め、また一人入っては辞めと繰り返して、結局お父さんは修行を指導することを諦めたんです」

 ……そんなことがあったのか。あのオッサンは厳しい人格が出てるけど、それが性格にも当てはめられていたなんて。

「なので、鳴尾さんも気を付けた方がいいかもしれません。実際にその矛先はお兄ちゃんに向かってしまって、今度はお兄ちゃんが心閉ざしてしまって」

 泉は声を潜めて言った。泰三は風呂に入っているので喋っても聞こえないとは思うのだが、もしかしたら聡が聞いているのかもしれない。恭一はそう感じたが、それ以上に泉に近づかれると、理性と本能と戦わないといけないほど、恭一はドキッとしていた。

「ふーん、まあ、要は注意が必要ってことだな」恭一は腕を組んだ。

「あ、ごめんなさい。これは内緒でお願いします」泉は人差し指を自分の口元へ持っていっていった。「すみません。お部屋紹介しますね」

 そう言って、彼女は軽い足取りで二階の階段の方へ駆けあがっていく。ポニーテールの髪形といい、何だか無邪気な少女だなと恭一は思って後へ続いていった。

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