第3話 忘却の果て 3
「葵、ありがとう」そう彼女の横で歩いてたのは、先程昼休みに一緒に被害にあった、増谷香織だった。
「いいよ、香織。被害者はこのまま見過ごすわけにはいかないから。きっとあいつのことだから、もっといろんな生徒、例えば下級生とかもあちこち触ってる可能性あるから」
「それでも、葵はハッキリ言ってくれるから、助かるよ」
後ろで行ったのは、メガネを掛けていた三つ編みの近藤由紀奈だった。彼女は、勉強は学年トップクラスだが、性格は大人しく男子生徒からからかわれても反抗できない立場の一人だった」
「まあね。あいつとは小学生以来の付き合いだから。キッパリ言わないと分かってくれないからね。こっちこそゴメンね。あいつがこの学校に来てしまって」
「別に、葵が来て欲しいなんて言ってないでしょ」
と、香織は笑うと、「そうだね」と葵も笑い返して、四人は階段を上った。
「しかし、どうして、あの鳴尾がこの永尾高校に来たんだろうね。あたしは高校からしかあいつのことは分からないけど……」先程のセクハラが今になって腸が煮えくり返って来たのか、香織は普段と違って饒舌になっている。
「さあ、この学校偏差値低くても入れるから、あいつ勉強出来ないから、それで消去法で入ったんじゃない。まあ、あいつにとっては共学だったらどこでもよかったとは思うけどね」
葵等が二階から三階へ上がった時に、廊下にはたくさんの生徒たちが行きかっていた。その中で、恭一の姿があった。
いつもなら休み時間は森友らと戯れているが、何故か彼は廊下の窓に顔を入れて、運動場の方を眺めるように見ている。
葵はその初めての光景を見て衝撃を受け、立ち止まって香織たち三人に向かって言った。
「付き合ってくれてありがとう。ちょっと、鳴尾にこのことを言ってビビらせてやるわ」
三人の女子生徒たちも、鳴尾の存在に気づいて、あまり顔を合わせたくなかったので、葵に手を振って、教室に戻った。
葵はいつになく真剣な表情に変わり、近くで恭一を見た。
彼は遠くを見ている。葵は一体どこを見ているのか確認したかったのだが、それ以上に恭一のこれまで見せたことのない、感情のない表情、いや、どこか思い悩んでいる姿に、葵は一瞬強張った。
――あの鳴尾恭一が、このような暗い顔になるのか。
恭一はふと我に返り、横を見ると葵がいたことに気づいた。「な、何だよ」
「どうしたの? 何か考え事?」
葵が訝しげに言うと、恭一は口角を上げて明るい声で叫ぶように言った。
「いやー、どこか葵ちゃんに敵わないくらいの巨乳ちゃんがいるかなって」恭一はまた窓の外を見て、両手で丸メガネを作り、一階の校舎に入っていく女子高生らを見て、「お、あの子なんて、Cカップくらいあるんじゃない」
恭一はニタニタ笑いながら葵の方に向くと、彼女はまた恭一の股間を思い切り蹴った。
「おうっ」
恭一は両手を股間に持っていって、飛び跳ねていた。
「この、変態!」
葵は捨て台詞を叫ぶように言って、自分の教室へ入っていった。
相変わらず、恭一への想いは複雑だ。しかし、葵の中で先程の今まで見たことのない恭一を思い出す度に、新たに複雑な気持ちが波紋が広がっていた。
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