翡翠色の女武器商人 〜愛と鉄、平和と血〜【短編集】
タイガー・ナッツ・ケーキ
000:告解
最初に武器を握ったのは誰だろうか?
考えるに、それは余りに難解な疑問だ。
条件が余りに緩すぎる。
武器とは概念だ。木の棒も石ころも武器たり得るが、本質的にはモノでしかない。
武器か否か、それを隔てるのは一つだけ。
何者かがそれを害意を持って振るうこと。
そうすれば、その時点でモノは武器と化すのだ。
銃剣付きの突撃銃だろうが、藁の束だろうが、豚の骨だろうが、同じだ。
この定義に疑問符を付ける方もいようが、少なくとも私はそう考えている。
それが一番簡便で分かり易い。潜在的な脅威の大小など知った事ではないのである。
付け加えて言えば、害意なんてものはあらゆる生物が持ち合わせている感情だ。
いわば生存闘争の為の必需品である。
他には、モノを握る手とそれを振るうオツムがあれば武器を振るうには十分だ。ただし、それを持ち合わせているのは霊長類ぐらいなものというのが、生態系の業の深い所である。
まあ、何にせよ武器の始めの持ち主を知るのは難しい。
では、最初に武器を売ったのは?
つまり、豚の骨を獲物の頭に振り下ろすことを猿に教えた奴は誰か。武器などという悍ましい概念を伝播させた極悪人は誰か。そう言う質問だ。
考えるに、それは余りにも簡単な質問だ。
答えは、私だ。私が売ったのだ。
世迷言だと思えるだろう。何を馬鹿な、何様だと。そうお考えになるだろう。私だってそう思いたい所だが、紛れもない事実だ。
私は、時を駆ける武器商人である。
時には幌馬車。時には50tトレーラー。あるいはスーツケース一つ。お客様の求める時間、場所にとびきりの品物を持って現れるそんな存在である。
それが有史以前のアフリカ大陸だろうが、ロス・アラモだろうが、ノルマンディーだろうが、関係ない。
私は何処にだって足を運ぶし、何時でも、どんな商品であっても、届けるだろう。
今から語るのは、私の身の上話だ。
別段、告解というわけでも懺悔というわけでもないし、そんなことに意味があるとは考えちゃいない。
何と言っても、私の上司が聞き入れちゃくれないだろうから。
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