無能の騎士が、畑を耕そうとしても上手くいかず、結局奴隷の魔族に任せることになった件について

 デーモンの襲撃から一晩開いた朝。

 アレクはベットで目が覚めると、周囲のベットは空になっているのに気が付いた。

 既に、他の人々は起きているのである。

 少し背伸びをして、外に出てみると、ルルゥとカノンが、魔法の練習をしている。


 その様子をぼんやりとみていたアレクは、のどかな日差しに誘われて、つい欠伸をしてしまった。 その欠伸の音に気が付いてか、二人がアレクに近寄ってくる。


「おはよう、アレク。じゃあこれ」


 アレクは、カノンからクワとバケツを渡される。

 アレクはクワを渡された意味について、一瞬考えるが、アレクの中で整合性が付く。


「……ああ!なるほど!これは、いわゆる小説なんかでよく見た《すろーらいふ》とやらで見る道具だ!つまり、今から《すろーらいふ》のパートになるわけだな!」


 カノンはまた聞きなれない、彼の言葉に首を傾げながら答える。


「《すろーらいふ》が何のことかはさっぱりわかりませんが、村長がご厚意で、この村に滞在してくれることを許してくれたんです。暫く、この村を拠点にするんだったら、我々も生活基盤を整えなくてはなりません」


 長くなるので、カノンの話を掻い摘んで説明しよう。


 このような平和な村に、上級魔族であるデーモンが襲ってくるようになるのは一大事だ。一度このような襲撃があるとなると、今後もそのような襲撃が起きる可能性は非常に高い。

 そこで、デーモンの襲撃の理由がわかり、その原因を取り除いて、村の安全が確保できるようになるか、あるいは村の安全が守られるようにメルトヴァニラ街の警備が強化されるまで、ゴーツ村 ――この村の名前である――の護衛を村長から任されたのである。


 また、アレン一行の問題として、ルルゥの鎖を何らかの形で、解錠する必要もある。

 このまま魔力が封じられたままだと、先のような戦闘が起きた時に、足手まといになることになる。

 幸いにも、この鎖は下流魔族用の鎖のため、封じるというよりは「吸い取る」という形になっているので、訓練次第では、ある程度までの魔法を使える可能性はあるということ。


 そんなことを説明している間にも、ルルゥは魔法の詠唱をずっと唱えている。

 アレクは胸を張って、クワを構えて畑に向かう。


「確かに、時代は勇者も剣をクワに持ちかえて、農業をする時代なのだ!それは《すろーらいふ》系という小説に言えることだ!わたしたちの畑を耕さなければならない!」


 そう言いながら、勇者はクワを振るう。


 ガッ……ザック、ザッ……。


 しかし、慣れない農作業のせいか、テンポよくクワを振るうことができず、地面ににクワが刺さっては、それを抜くので手こずったりする。


「本来、俺は騎士だったのだ……だから、こういう作業には……慣れていないのは……当たり前なのだ……!」


 誰も見ていないのに、そんな言い訳をしたりしている。

 そして、やっと畑の反対側に辿り着き、満足そうに後ろを見ると、本来ならば真っすぐに耕される筈の畑が、うねうねと蛇のように耕されていた。

 アレクはため息を吐く。


「はあ……、まあさすがに……?」


 するとそこに、ルルゥがクワを持ってやってきた。


「こういうのは任せてください……奴隷時代に散々教わりましたから……」


 ルルゥはクワを握り、そして天に掲げると、そのまま振り下ろす。


  ガッ!!ザッ!!!ザック!!!!


 そんな耕す音が響き渡る。


「さすが魔界を統べる魔王の娘とやらは何でもできるんだな!もしかして、お前の《ちーと能力》というやつは農業特化というやつなのか?」


 だから魔王の娘じゃないんだけどなあ、とルルゥは思いながらも、しかし畑を耕すことを褒められたことに関しては、素直に嬉しかった。



 そんな様子を見ながら、村長と副村長が話をしていた。

 副村長は、痩せぎすで、頭が禿げ上がっており、神経質そうな顔つき。


「あんな余所者をこの村に置いといていいんですが、アール村長」


 村長と言えば、何を愚問を、という気持ちで副村長のほうを見る。


「なんでだ?お前も昨日の騒ぎを見ただろう?デーモンがこんな平和な村を襲ってくる情勢なんだから、居てもらうのが普通だろう」


 シグマ副村長は、髭を摘まみながら、意地悪そうな目つきでこう答えた。


「そうですかねぇ……もし、あのデーモンが、我々の村ではなく、あの者たちが目的だったとしたらどうするんですか?」


 アール村長は、何を馬鹿な、という顔をする。

 しかし、シグマ副村長はニヤニヤと言う。


「考えても見ましょうよ、昨日のやりとりを……デーモンは、どうやらあの銀髪の女のことを知っていたようですしね。そうなると、村長の責任問題も問われることになるんですがいいんですか?」


 アール村長は、シグマ副村長については、その手法や管理能力については絶大な信頼を寄せているが、このような余所者に対するこのような不信感に関しては、あまりにも同意できずにいた。


「そうであったとしても、今後同じことが起きるとは限らん。それに、村の防衛の在り方も見直せるよいきっかけになろう。脅威は決してデーモンだけではない」


 アール村長は、シグマ副村長の目を見ながら、そのように話す。

 シグマ副村長は、意地悪な目を変えずに言う。


「本当ですかねえ……私には疑問しかありませんが」


 そう言うと、シグマ副村長は、アール村長から離れて、家の中へと入る。

 アール村長はため息を吐く。


「全く……村に立つ長という役割なのだから、もう少しどっしりしてくれればいいものの……」

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