無能な騎士が、一生懸命に耕した畑を何者かに荒らされたことについて憤怒している件について

 日も暮れてきており、村人たちは農作業が終わり、次々と広場へと集まってくる。

 アレクは慣れない農作業をやったせいか、手をぶらんとさせて、足を引きずりながら広場へと向かう。

 その様子を見て、村長は豪快に笑う。


「おう!騎士でも農作業はなかなかきついものか!」


 しかし、アレクは精一杯の強がりを見せる。


「何を言うか!俺は勇者だぞ!そのうちドラゴンを打ち倒し、姫を助ける運命にある男!そんな人間が農作業如きでへこたれない!」


 そう言いながら手を振り上げて返事するか、しかしだいぶ手が疲れているためか、その手をストンと落とす。

 その様子を、村長は愉快そうに笑う。


「ハッハッハ!元気があることはいいことだぞ!この村には、幾人の人が農業の道を志そうとしたが、一日で農業は辛いから嫌だ、って逃げ出していったからな!」


 そして、村長は髭を撫でながら、ルルゥのほうを見る。

 ルルゥといえば、ジャガイモやニンジンの皮を手際よく、綺麗に向いていく。その様子は、周囲で手伝っている村の人々からも絶賛されている。


「しかし、そこの小さい魔族の子は、なかなか農村適正があるようだな!どうだ、うちに働き盛りの良い男がいるが、そいつの嫁にならないか!」


 ルルゥはそんなことを言われ慣れていないせいか、いま皮を剥いていたニンジンを落っことしてしまう。そして、顔を真っ赤にしながら、否定する。


「そ、そんな……!私は奴隷ですし、それに魔族であるし……」


 村長は、何をそんな細かいことを、という形で豪快に笑う。


「ハッハッハ!気にするな!今は多様性の時代だ!そもそも、この村にふらっと現れて、この村の業務をこなしているうちに、副村長にまで上り詰めた男もいる!過去のことはなんだとかは気にする必要はない!人生にもリスタートというのが肝心だ!」


 そんなことを強く演説した。

 カノンは、その村長の熱弁を聞きながら、村長というのは、村長としてふさわしい人がなるものなのだ、と感心していた。

 ……しかしだ。

 カノンは副村長のほうをちらっと見る。

 副村長は一見、そんなやりとりを微笑ましそうに見ている……かのように見える。

 しかし、良く良く観察してみれば、その視線は明らかにアレク・ルルゥ・私を観察しているようにも思える。

 まるで、パーティーの何かを探っているかのようだ。

 この副村長だけは警告しておかなければならない。

 カノンは楽しい夕食の間も、ずっとそのことを考えていた。


 ………。


 そして、そんな夕食があった一日も終わり、そして一晩明けた次の日のことだった。

 ちょうど、朝を知らせる鶏の音と共に、アレクのいびきも大きくなっていく。

 その音に、ルルゥ、カノン、プルチェは起きざるを得なくなった。

 プルチェは眠り足りないせいなのか、大きな欠伸をして、身体を震わせている。


 アレクの無神経さには驚かされるものの、早起きすることは全く悪いことではない。

 カノンとルルゥは前向きになり、身支度を整えると畑へと向かう。

 ……しかし、カノンとルルゥが見たのは驚く光景だった。

 畑の中に、石ころや毒蛇などが投げ入れられているのだ。

 プルチェは、その光景にわなわなと身体を震わせている。


「……なんて酷いことを……」


 そんなこと言いながら、カノンはその光景を見つめる。

 ルルゥも、自分が一生懸命に耕した畑が荒らされているのを見て、悲しい気持ちになった。


「これって……明らかに野生動物ものではないですよね」


 ルルゥは石ころや、動物の死骸を片付けながら、そう推測する。


「そうね。明らかに、これらは人為的じゃないと行われないものね……」


 そして、ルルゥは荒らされた畑を整えるために、農作業道具を納屋に取りに行く。

 しかし、そこには、クワやバケツが破壊されている痕跡が残っていた。


「なんて、こんな……酷いことを?」


 ルルゥは余りの惨状に涙が出そうになる。

 二人が暗い顔をしているのを見て、アール村長が声をかける。


「どうしたんだ、お嬢ちゃんたち?」


 ルルゥは、アール村長に事情を話す。アール村長は怒りを露わにしながら言う。


「それは酷いな……!またそんな嫌がらせがこの村で起きているのか?」

「また?ですか……」


 カノンは気になって、アール村長に確認する。


「そうだ。つい最近、この村によそ者が嫌いな村人がいるのか、新しい入居者が村に入ってくると、こういった嫌がらせが頻発するようになってな……前の入居者は頑張ってくれたのだが、とうとう根をあげて逃げていってしまった」


 アール村長はため息を吐く。


「酷い!なんて酷いことだ!」


 すると、いつの間にか起きていたアレクが、声を荒げる。

 その声に、カノンとルルゥは少しだけビクッっとする。


「急に何なの!驚くじゃない!」


 アレクの怒りは収まらないのか、手をぶんぶんと振り回しながら、熱く語る。


「だって、あの畑は俺とルルゥが一生懸命耕した畑だぞ!?それなのに……それに、あのルルゥな悲しそうな顔を見ろ!俺はあんないたいけな少女を悲しませる

ことは許せないからな!そう小説で俺は習った!」


 そして、アレクはルルゥの肩に手を置いて、慰める。


「大丈夫だ!この俺が来たからにはもう安心だ!さあ、犯人を捕まえてやるぞ!」


 そんなアレクを見て、アール村長は言う。


「これはずっと起きている問題だから、すぐに犯人は捕まらないかもしれないが……だが、こうなった以上、あんたらがちゃんとこの村に住めるように、村から支援はするつもりだ。だから、安心してくれ」


 アール村長の言葉に、ルルゥもカノンも安心する。

 そして、村長は近くを歩いていた村人に声をかけ、余っている農作業道具が無いか、訪ねてくれている。

 村人たちは、昨日健気に働いてくれたルルゥのためにと、快く農作業道具を貸してくれた。

 ルルゥとカノンは、そんな様子を見て、村人の温かさに感謝するのだった。

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