無能な騎士が、美人な冒険者と上級魔族の戦いで少し役に立っただけで、少し上からの物言いをする態度を取った件について

 カノンは、その尋常ではない雰囲気を察して、村長に支持を出す。


「歓迎してありがとうございます!緊急事態ですから、今から村人たちを避難してください!」


 村長は支持を出して、急いで村人たちを民家に避難させる。

 しかし、デーモンも目ざとく、村人たちが逃げる方向に火の弾を放つ。


「させない!《凍りの壁》!」


 カノンは村人たちを守るように、壁を作る。

 火の玉は、壁に当たって砕け散る。

 村人たちは、カノンに感謝を述べて、駆け足で民家に入る。


「ハハハハ、流石、カノン!噂通りの戦闘能力!実に興味深い!」


 デーモンは、それでもなお攻撃の手を緩めない。

 次は、手に複数の火の玉を作り、次々と火の玉を放つ。

 多数の火の玉が、まるで蜂の大群のようにダンスをしながら、カノンの前に飛んでいく。


「《水龍》!」


 そう言って、杖をかざすと、龍のようにうねりながら、水流が飛び出す!

 その勢いでそのまま水流が、火の玉を包みこみ、飲み込む!

 そして、デーモンの真正面向かって勢いよく進んでいく!

 水流が当たるか否かで、デーモンは瞬間移動を行い、水流を避ける。


 ……その戦いを見ていたルルゥが一言呟く。


「あれは……私たちの村を襲った……デーモン!」


 アレクがそれに反応する。


「村を襲った?魔王の娘が村育ちなのも意外だが、魔族が魔族を襲うことなどあるのか?」


 ルルゥはため息を吐いて、言葉を続ける。


「まず私は魔王の娘ではありません……それはともかく、魔族が魔族を襲うことはあるんです……魔界は、勇者領よりも弱肉強食ですから……」


 そう言いながらルルゥは鎖をさする。

 アレクは愚鈍なりに察する。


「お前はもしかして、魔王の部下の謀反に巻き込まれ、奴隷として売られたということか?」


 ルルゥは悩みながらも答える。


「えーと、前半は間違ってますが……魔族の仲間に奴隷として売られたのは間違いありません」


 二人は、デーモンとカノンの白熱した戦いを、息を飲みながら見守っている。

 プルチェも、緊張でぷるぷると震えている。


 片方が魔法を放つと、もう片方がそれを打ち消す。

 実力は、ほぼ互角。

 拮抗した戦いが続いていく。


 ――しかし、その均衡が崩れる――。


 デーモンが両手を挙げると、その中心で火の玉が段々と大きくなっていく。


「この大きさの火の玉ならば打ち消せまい!!」


 そう言うと、デーモンは、人間の身体ほどある火の玉を放つ。


「あっ……!」


 カノンは激しい魔法合戦の末に、杖の魔力が切れてしまったことに気が付いた!

 今、カノンは無抵抗の状態!

 そのまま進めば、カノンに火の玉が当たり、粉々にされてしまう!


 気が付くと、アレクは棍棒片手に走り出していた。

 甲冑をカチャカチャと鳴らし、アレクはカノンへと向かう!


「あ、あなた!なんでこっちに来るの!あんた、死にたいわけ!」


 慌てるカノン。

 そして、火の玉がぶつかりそうな時……。


 アレクは棍棒を構え、そして振りかぶる!


 ガガガガガガ……………!!


 火の玉と棍棒が擦り合う音が響きわたる。

 ひのきの棍棒が、火の玉を打ち返そうとしている!


 パキッ……パキッ……………!!


 カノンは、その間に魔力ポーションを呑む。 

 火の玉のパワーに押されて、ひのきの棒が焼ける臭いと共に、割れる音がする。


「カノン、まだ魔力が回復しないのか!」

「そんな、あんたポーションが少し遅延性があるのはわかってるでしょ!」

「それでも遅い!」


 パキパキパキ……………!!


 棍棒の亀裂が大きくなり、今にも割れんばかり。

 そして……!!


 バキッ!!


 棍棒が割れそうになったその時だった。


「《衝動》!」


 ポーションで、カノンの魔力が復活したのだ!

 その衝撃で、火の玉を弾き返す!

 そして、まさか打ち返されると思わなかったデーモンに直撃する!



 ドーーーーン!!!


 デーモンの身体に炎が燃え移る……。

 カノンとアレクはその様子を黙って見守る。

 しかし……。


「いやはや、娯楽のつもりでからかいに来たら、手厚い歓迎を受けてしまったようだな……!」


 デーモンは火の中から唾を吐きながら出てきた。


「私ももう疲れてしまったから、この勝負はお預けにしよう。カノン。次あったときはこんなもんではないからな!」


 デーモンは高笑いしながら、夜の闇に消えていった。

 そして、その様子を見届けると、カノンは不本意そうにアレクにお礼を言う。


「何はともあれ、ありがとう……あんな、助けられかたをするなんて……私も修業が足りないわ……」


 そう言って頭を下げると、アレクは胸を張り、満足げに答える。


「そうだろう!《Sきゅう・ぼうけんしゃ》に必要なのは、機知、機転、そして機会だ!俺と共に成長しよう!」


 恰も、それは先輩が後輩に対して教え諭すような態度であった。

 カノンは、その態度を見て、お礼を言ったのを後悔したのであった。

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