無能な騎士が、美人な冒険者と共に地下道を抜け、王道の奴隷系小説の展開を見て喜ぶ件について
「なあ、カノン。確かに手助けしてくれるのはありがたいが、俺は勇者だ。あんなゴロツキくらい一人で全員倒すことが出来たはずだ」
アレクとカノン、一人の奴隷は地下道を歩き続け、なんとか一つの表の出口に辿り着く。
そう、アレクが奴隷商人に囲まれる窮地を助けたのは、外ならぬカノンだったのだ。
「貴方が変な男についていってたから、後をつけてみたら、案の定襲われているのを助けたのに、感謝しないわけ?」
カノンは文句を言う。
魔族らしく奴隷の女は、ただただ下を向いているのみ。
「もちろん、感謝しているさ!さすが《Sきゅう・ぼうけんしゃ》ということはある!」
そう言いながら満足そうな笑みをたたえる。
「あなたがあんなことをしなければ、もう少しで《漆黒の烏》についても情報を引き出せたのに……」
カノンは、アレクに不満を言う。
そして、奴隷のほうに目をやる。
奴隷は、何やらこの先に不安があるのだろうか、不安で暗い顔をしている。
「あなた、名前は?」
奴隷は、弱弱しく喋る。
「ルルゥ、と申します……」
アレクは驚いて喋る。
「ルルゥか!かわいい名前だな!魔王の娘の名前だとは思えないくらいだ!魔王の娘の名前といえば、ルードウィッヒ・ヴァンプ・ホニャララホニャララ・ルルゥ・五世みたいな、そんな壮大な名前が付くものだと思っていた!」
「そもそも、あの人たちが言っていた通り、私は魔王の娘ではありません……」
ルルゥは、アレクが変な誤解をしているのを聞いて、何やらバツの悪い顔をして答える。
「ハッハッハ、何を言うか!恐らく、世間を忍ぶために、魔王の娘であることを隠しているのだろう!魔王の娘だということがバレると、何をされるかわからないもんな!」
「だから、魔王の娘じゃないのに……」
アレクの思い込みに触れたルルゥは困惑する。
「その人は、自分を小説の主人公か何かと勘違いしているから、あまり真に受けないようにね。さて、下水道の出口が見えましたよ」
そう言って、カノンが指しているほうを見ると、眩しいほどの光が見える。
それは出口であることを示している……。
………。
二人はメルトヴァニラの離れた川のところへとたどり着いた。少し歩き疲れた三人は地面に座って休憩する。
カノンは、ルルゥがお腹をさすっているのを見ると、何かを察してか、ローブの奥からパンと簡単な干し肉を取り出してルルゥに渡す。
「あなたの体型から察するに、碌な食事を与えられていないでしょう?これらを食べるといいわ。別に、下水を通り抜けたあとで食欲がないのなら、あとで食べればいいし……」
ルルゥは、手にぶら下がった鎖を慣らしながら、そのパンを受け取る。ルルゥは、そのパンを暫く眺めて、食べる。
「そのパンはね、干し肉と一緒に食べるとおいしいのよ」
そして、干し肉を少し噛みしめ、塩気を口に含むと、パンを齧る。
「……おいしい……」
その様子に、カノンではなく、何故かアレクが喜んで手を叩く。
「おお!これは噂に聞く、奴隷に美味しいものを食べさせて感動させる奴だな!このあとに『こんなに優しくされたことなかった……』と奴隷が涙すれば完璧だ!カノンも、とうとう小説の真理というものに触れ始めたな!」
妙にテンションの上がるアレクに、カノンが頭を抱える。
「別にあなたが何で喜んでも構わないけど、そうやって無神経なところは直したほうがいいわよ……それはともかくとして、あの奴隷商人が《漆黒の烏》とは思わなかった。もしかしたら、もうメルトヴァニラにいるのは危険かもしれない……」
そう言ってため息を付く。
しかし、何故かアレクは勇ましい。
「なんだと!そこまでして勇者の行く手を拒もうとするのは、全く持って卑劣極まりない!しかし、俺は勇者だ!どんな障壁あっても喜んで乗り越えて見せる!」
そう言いながら、アレクは立ち上がり、棍棒を天に掲げてポーズを取る。
ルルゥは困惑しながら、カノンに尋ねる。
「あの……この方っていつもこうなんですか?」
「そうよ」
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