無能な騎士が、奴隷を買おうと地下道へ向かうが、そこにいる奴隷を「魔王の娘」と勘違いする件について
アレクは、小さな男に連れられて、薄暗い路地を歩いていく。
表通りの綺麗に整備された路地に比べては、ゴミが散乱していたり、落書きが残されていたりで、おおよそ衛生的とは言えない。
「これが貧困街というやつか!もしかして!」
アレクは無神経な声量で、男に声をかける
その言葉に、周囲の人々は少々敵意が混ざったような目でアレクを見る。
男はあまりの無神経さに、しどろもどろになる。
「ま、まあ、ボロの装備を着ていても騎士は騎士、あまりこういうところは知らないでしょうから……」
「知っている!それに、私はジャガイモを投げつけられたことがある!小説によれば、泥棒盗む子供には優しく必要する必要があるようだ。今考えれば、あのような扱いは勇者に反するんだな!」
奴隷を買うのはいいんだ……。
一瞬、男はそう思うが、客の機嫌を損なうのは得策じゃないので黙っておいた。
男は、アレクを連れて小さな小屋へと入る。
アレクは男の後を付いて行き、中に入ると、そこはこざっぱりした狭い部屋で、棚や樽が積まれていた。
「ここは?」
男は黙って床を剥がすと、そこに地下へ続く階段が現れる。
「どうぞ、こちらです」
男は壁にかけられたランタンを手に取ると、アレクを手招きしながら、階段を下りていく。
「なにせ奴隷というのは、表立って取引できないものですからねえ……本来は」
その階段は地下道に繋がっていた。
地下道は、ジメジメとしており、かび臭い匂いが漂っていた。
水滴の音と、ネズミが走る音が聞こえてきて、プルチェとしてはその不潔さに震えるしかなかった。
ゴツゴツとした石の通路に、金属音と皮底がぶつかる音が交互に響き合う、
男が木の扉に立ち止まり、ノックをかける。
「こちらです」
男がアレクを手招きしている。
アレクが中に入ると、安つくりのテーブルの上に蝋燭が何本か直で立てており、その周囲にはがたいの強い男と、人相の悪い男が数人。
そして、一人の幼い女の子が、鎖に繋がれ、身体を隠すためだけのボロ布をまとっている。
「さて、お客様。ちょうど新商品が入荷しましてですね……こいつは上物なのですが少々曰くつきでして……ちょうど奴隷を求めている騎士のようなお方に最適かと」
アレクは奴隷の姿をじっと見る。
その奴隷は頭から大きな角が生えており、背中から羽が生えている。
直感的にこの奴隷は魔族だろう、ということに気が付く。
髪型は紫色のショートカットであり、蝋燭の光で判定が難しいが、オッドアイである。
さらに、その表情は力強さがあり、芯の強さを感じさせる。
「うむ、悪くないな、是非貰っておきたい」
アレクが関心を持つと、男は嬉しそうにする。
「そうでしょう?今なら50万ゴールドの大特価でご奉仕させて頂きます」
小さい男は、大きな取引が成立するのを見て、ニコニコと笑顔で見ている。
しかし、アレクはタダで奴隷を引き取ろうとするのを見て、男は慌ててアレクを止める。
「ちょ、ちょっとお客様!待ってください」
「なんだ?」
男はアレクを手で制止しながら言う。
「あ、あの……お金……」
アレクはなんだ、そんなことかと言いながら、500ゴールドをだけを払う。
カノンが報酬金として分けてくれた1000ゴールドのうちの半分だ。
男は目をぱちくりとさせながら、何度も数えてみる。
しかし、何度数えても500ゴールドである。
「ご、ご冗談でしょう……旦那?あと三桁ほど必要でっせ?」
アレクは自信満々にこう熱弁する。
「冗談ではない!私は何を隠そう、いまから魔王を退治する《異世界転生者》だ!小説によれば、こういうところに横流しされる奴隷というのは、魔王の娘と相場が決まっている!この魔王の娘を改心させ、人間との共存することの素晴らしさを叩き込めば、魔王だって否が応でも、人間との共存を選んでくれる筈だ!平和な世界にならなければ、お金も無価値になる!そう考えれば、お金と平和、どちらが重要なんだ!」
男たちはその演説を聞いて、顔を見合わせる。
「それに、お前たちはこの娘を『ワケあり』といったな?『ワケあり』の奴隷なんて言うのは、私の読んできた小説の中では、たいてい殺処分をするのも気が引けるから、二束三文で引き渡すのが普通だ!そして、二束三文かと思いきや、宝石の原石だとわかってウキウキする!それが定番だというものだろう!」
「な、何を言っているんだ?この奴隷は、単なる下級魔族だぞ?お金を払えないなら今すぐに出て行ってもらいたい!」
アレクは無理矢理、奴隷を引き寄せて、頭を撫でる。
「こんな怖い人達に脅されて、暗いところに閉じ込められて怖かっただろう!そんな生活も終わりだ。綺麗なドレスで着飾って、甘味を食べさせてやるからな」
アレクの無鉄砲な行動のほうが私には怖い!とプルチェは震えていた。
男たちは怒りながら、ナイフを抜き始めた。
「この野郎!俺たちが《漆黒の烏》だと愚弄してのことか!」
アレクは、笑いながら棍棒を構える。
「やはり、そうだったか!このように奴隷商人を装い、勇者を陥れるという計略の一つだと、俺にはわかっていた!」
アレクの行き当たりばったりの言葉に、《漆黒の烏》は眩暈を感じながら、襲い掛かる。
プルチェといえば、激昂した男たちの剣幕に震えるばかり。
男たちはアレクにじりじりと距離を詰め、アレクは棍棒を肩に担いで、余裕を見せる。
「さあ!何処からでもかかってこい!」
そして、男たちがアレクに襲い掛かろうと踏み込んだ瞬間だった――。
「《閃光》!《煙幕》!」
急に部屋が眩いばかりの光に包まれると同時に、男たちは怯む。
その間に、何者かがアレクの手を引っ張る。
アレクは奴隷を抱き寄せたまま、その手に身体を委ねる。
「だ、誰だ!クソッ!何も見えやしねえ!」
暗い下水道に、三人の足音が響き渡る。
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