第34話:情報交換
時刻は午前8時、青野たち 8人は朝食と情報交換のために、共用スペースに集まっていた。
食パンとコンソメスープという、簡単なメニューだが、皆それらを美味しそうに頬張っている。
「朝ご飯、俺らの分までありがとうございます」
川辺が言う。
「ついでだから気にするな」
速水は何でもないかのように笑った。
そんなこんなで何事もなく朝食を食べ終え、食器などを片付けた後、8人は改めてテーブルを囲んで席に着いた。
「早速本題に入るが、ひとまず今わかってる情報をまとめてみようか」
そう言って、速水はテーブルの上に1冊のノートを置いた。
「これは? 」
「現状わかってることと考察をまとめたものだ。まずは確認してみて」
青野が尋ねると、速水はノートの表紙をそっとめくった。
そこには、能力や生命力について、VITについてなど、速水が最初に説明してくれたような内容がわかりやすくまとめられていた。
「ざっとこんな感じなんだが、二人は何か他に知ってることはあるか? 」
速水は川辺と坂理を交互に見やる。
「こっちも同じ感じですね。書かれてることはだいたい把握してますし、それ以上知ってることもないです」
一通り内容に目を通し、坂理がつぶやく。
「そうか。それじゃあ持ってる情報はほぼ一緒ってことで。皆、これを見て、気になったこととか思ったことがあれば何でも言ってみてくれ」
速水は淡々とした口調で言った。
青野はノートを眺めながら考える。だが、特に何も思いつかない。現状わからないことが多すぎて、何がわからないのかすらわからないような状況なのだ。ただ、初めて話を聞かされたときに比べれば、冷静に情報を分析できているように思う。
「C棟西エリアにカケラがあったかもって話だが、先生は学園内とか調べたんですか? 」
しばらくの沈黙の後、川辺が口を開く。
「いや、少なくとも俺はまだ調べてないな」
「これから調べる感じですか? 」
「もちろんそのつもりだ。ただ、カケラの回収と、VITの対応で忙しくて、そこまで手が回らなくてな」
速水は申し訳なさそうに答える。
「確かに、優先順位はそんなに高くないですからね。今度一緒に調査行きましょう」
「そうだな」
川辺の誘いに、速水は同意する。
学園の調査は後日行くということになり、この話はまとまった。
「ひとつ思ったんだけど…… 」
二人の話がひと段落したところで、今度は坂理が口を開く。
「VITは電子帳が欲しいんじゃないかな? 」
坂理は小さなペンケースからシャーペンを1本取り出すと、ノートの真ん中あたり、「学園の生徒が狙われている」と書かれた部分に薄く印をつけた。
「え、どういうこと? 」
千春は思わず聞き返す。
「ほら、電子帳ってカケラの回収ができるでしょ。カケラを集める身にとって、場所を取らずに安全に保存できる電子帳って魅力的だと思うんだよね」
坂理は説明しながら、要点をノートの空きスペースにメモしていく。
「なるほどな」
速水は少し考えて、納得したようにうなずいた。
「そう、もし俺がVITだったら、カケラを回収できるアイテムを常備してる人がいるなんて知ったら、真っ先に排除するか仲間に引き入れるかしたいですからね」
坂理が付け加えて言った。
青野は、そんな頭が切れる者同士のやりとりを聞きながら、自分なりにこれからどうするべきか考えていた。金のカケラを集めるためには、まずその正確な場所を割り出さなければならない。それから、自分自身の戦闘力ももっと高める必要があるだろう。そんなことばかり考えていると、本当に自分にできるのか、また不安になってくる。
「そういえば、金のカケラ集めるって話になったけど、具体的にこれからどうすれば…… 」
多香屋が唐突に話題を変える。
どうやら彼も、青野と似たようなことを考えていたらしい。
「まずは場所の特定からだな。青野、だいたいの位置はわかるんだよな? 」
「たぶん…… 」
速水に問われ、青野は金のカケラの位置を見ようと、意識を集中させる。
しばらくして、青野の脳内に、四つの地点とぼやけた風景が思い浮かぶ。いずれも具体的な場所はわからないが、前回同様、すべて日本国内にあるように思える。そして、そのうちの一つは、目の前にあるのではないかというほど近くに感じられた。
「やっぱりなんとなくしかわからないです。でも、ひとつだけすごく近くにあるんですよね。すぐ目の前みたいな…… 」
青野は、見たままを口にする。
「あ、もしかして」
そう言って、川辺はおもむろに電子帳を取り出す。
そして、慣れた手つきで画面を操作すると、それが淡く光りだした。
「金のカケラってこれだよな? 」
そういう川辺の手には、黄金色に輝く小さな石が乗せられていた。
「そう、それだよ! 」
それを見て、青野は思わず大きい声を出す。
それは、青野が駅近くで拾った謎の石と、ほとんど同じ色形をしていた。
「川辺、それどこで見つけたんだ? 」
「ちょっと訳あって。本当に偶然ですよ」
半ば呆れながら問いかける速水に、川辺は笑いながら答える。
「それ、青野に渡したら? 」
多香屋が言う。
「いや、リスク分散のためにも、このまま俺が持っておこうと思うけど、どうだ? 」
川辺は青野の方をまっすぐ見つめる。
「それは全然かまわないけど…… 」
青野は戸惑いながらうなずいた。
「ってことは、川辺ものこりのカケラの位置わかるのか? 」
速水が尋ねる。
「なんとなくわかりますね。だから、坂理と一緒に詳しい場所特定しようと思います」
「待って、それ初耳なんだけど…… 」
当然のように答える川辺に、坂理は若干戸惑いを見せる。
「じゃあまとめると、これから学園の情報についてと、カケラの場所についてを同時進行で調べてくってことでいいな? 」
そう言って、速水は皆の反応をうかがう。
「大丈夫そうなら、これで解散。俺はちょっと外出てくるが、皆、休むなり調べるなり、自由に過ごしてくれ」
そして、その場にいる全員がうなずいたのを確認すると、速水はそれだけ言って、共用スペースを出ていった。
「青野は今日どうするんだ? 」
「そうだな、まだ昨日の疲れが抜けてないからちょっと休もうかな」
多香屋に問われ、青野は正直に答える。
「そうか、ゆっくり休めよ」
そう言って、多香屋は自室へと戻っていく。
てっきり強引にでも遊びに誘われるものだと思っていたので、青野にとって多香屋のその行動は意外だった。
そんなこんなで情報交換を終え、自室に戻ってきた青野は、のんびり一人の時間を満喫するのだった。
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