第23話:スーパー襲撃1
「どういうこと……? 」
千春は目の前で起こっていることが理解できず、呆然と立ち尽くしていた。
千春の視線の先には、スーツ姿の中年男性が頭から血を流して倒れていた。
突如響いた銃声。次の瞬間には入口からいかにもな風貌をした5人の男が雪崩込んできて、店内はパニックに陥っていた。この男性は、慌てて逃げ出そうとしたところを、拳銃を持った男に撃たれたのだ。
男たちは何を言うでもなく、手当たり次第に並ぶ商品を回収しながらうろうろしている。この隙に逃げようとする者も現れたが、出入口付近で見張っている拳銃の男に容易に見つかり、容赦なく撃たれてしまっていた。
「天情さん、こっち」
真白は未だ立ち尽くしている千春の手を取り、近くの商品棚の陰に移動する。
幸い二人のいた位置は男たちからかなり離れており、見つかることなく身を隠すことができた。
「とりあえずこれ飲んで落ち着いて」
真白は買い物カゴに入っていたペットボトルの水を差し出す。
明らかに未清算のものだが、今はそんなことは言っていられない。千春はそれを受け取ると、キャップを開け、一口飲んだ。
「ありがとう」
千春はひとまず気持ちを落ち着けよと大きく深呼吸をした。
落ち着いてよくよく観察してみると、男たちはあの時自分と真白を襲った人物と似たような服装をしているのがわかる。ほぼ間違いなくあの人物の関係者だろう。そんな関係者がわざわざスーパーを狙う理由は何だろう。もしお金が目当てなら、銀行を攻める方が手っ取り早い。
思考を巡らせた結果、千春はある恐ろしい仮説にたどり着いてしまう。
「どうしよう…… 」
千春は思わず声を漏らす。
「大丈夫、私たちは死なないから」
真白は静かに言った。
その顔は相変わらずの無表情だが、千春には彼女の存在が非常に頼もしく思えた。
「こんなところにいた」
なんとか外に出る方法を探そうと思ったその時、二人の後方から男の低い声が響いた。
千春が後ろを振り向くと、そこには背の高い男がナイフを手に、じっとこちらを見つめていた。不運にも、店内を巡回していた男に見つかってしまったようだ。男の瞳には明確な殺意が宿っており、どう足掻いても逃してくれそうにない。
「大丈夫、私たちは死なない」
千春は先ほど真白が言った言葉を反芻する。
もう覚悟を決めるしかなかった。どうせこのまま何もしなければ、他の客と同様に殺されるだけだろう。さっき特訓を行ったばかりだが、早くも実戦の時が来たようだ。
「天情さん? 」
真白の制止も聞かず、千春はそっと立ち上がり、まっすぐに男を見据える。そして意識を集中させ、空中に水球を作り出す。
「もうどうにでもなれ! 」
決死の思いで放った一撃は、まっすぐ目の前の男に向かって飛んでいった。そして、それは突然のことで呆然としている男に直撃する。
男は二、三歩後退して、手にしたナイフを構え直すと、ニヤリと笑みを浮かべる。しかし、千春がそれに動じることはなかった。すでに彼女の覚悟は決まっていたのだ。
「真白ちゃん、私頑張ってみるよ」
★★★★★★★
「で、多香屋はいつまでここにいるつもり? 」
呆れたように青野が尋ねる。
多香屋が部屋にアイスを持ってきてから、もう1時間以上経っている。当然とっくの昔にアイスは食べ終えており、今はというと、多香屋の止まらない歴史トークに青野が付き合わされているのだった。
「えー、まだ話したりねぇよー」
「じゃあ俺じゃなくてもっと分かる人に話せよ。速水先生とかさあ」
「やだ、お前がいい」
「えー」
多香屋のまるで子供のような返答に、青野は大きくため息をつく。
青野とて、本当に嫌ならとっくの前に強制的に部屋を追い出しているだろう。けれどそれをしていないということは、このくだらないやり取りも含めてそんなに悪い気はしていないということだ。
「やば、もう1時間も経ってるのか! 」
「だからさっきからそう言ってんじゃん」
大袈裟に驚く多香屋に、青野は軽くツッコミを入れる。
「んじゃ、そろそろ帰るかな」
「うん、ぜひそうして」
「またすぐ来るから! 」
「来なくてよろしい」
そんなやり取りをし、多香屋はベッドから立ち上がる。
その時だった。二人の持つ電子帳から、不穏な通知音が鳴り響く。音があまりにも大きかったので、青野は思わずびくっと身体を震わせた。
それは緊急アラートだった。自然災害や危険度の高いニュースなど、学園の関係者にとって緊急性が高いと判断された情報は、緊急アラートとして配信される。
多香屋は、ドアノブに伸ばしかけていた手を止め、ポケットから電子帳を取り出した。
青野も同様に電子帳を取り出すと、通知一覧を確認する。
「おい、マジかよ」
多香屋は思わず声を漏らす。
そこに書かれていたのは、この近辺にある複数のスーパーが、一斉に何者かの襲撃に遭ったというものだった。そこには千春たちが向かった、学園に一番近い店舗も含まれている。
「天情たち、帰ってきてないよね? 」
「ああ」
青野の問いに、多香屋は曖昧に答える。
青野は今度は自分のスマホを取り出し、千春に電話をかけてみる。しかし、呼び出し音が鳴るばかりで、一向に繋がる気配はない。
「やっぱ繋がらない…… 」
青野は不安げに呟いた。
「行こう」
「そうだね」
多香屋の言葉で青野は立ち上がり、最低限の荷物を持つと、二人は部屋を飛び出した。
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