第24話:スーパー襲撃2


 「ああもう、次から次へと…… 」


 地獄絵図と化した店内で、千春は一人の男と戦っていた。

 千春はこの間、すでに二人の男を能力を使って無力化しており、心身ともに限界が近づいていた。


 「いい加減にしろ! 」


 千春は空中に3本の風の矢を作り出し、目の前の男に向けて放つ。

 そのうちの1本が、男の腹部に命中し、男は体勢を崩し、地面に倒れ込んだ。


 「待って、もう限界…… 」


 その直後、千春もその場に膝をつく。

 武器を持った男3人と戦ったことで、千春は少なからず怪我を負っていた。打撲や切り傷など、どれも致命傷とまではいかないが、その身体はすでにボロボロだった。


 「もう一人来るかも」


 千春の身体を支えながら、真白が言った。


 「えー、さすがにちょっと休ませてよ…… 」


 千春はそんな文句を言いながらも、何とか少しでも体力を回復させようと、必死に乱れた呼吸を整える。

 しかし、そんな二人の元に足音がだんだんと迫ってくる。そして、再び黒いローブの男が姿を現した。



★★★★★★★



 「ここだよな」


 息を整えながら、多香屋がつぶやく。

 突如、電子帳の緊急アラートが鳴り、確認してみれば、近隣のスーパーが何者かに一斉に襲撃されたというのだ。それを知った青野と多香屋は、千春たちのことが心配でいてもたってもいられなくなり、衝動に任せてここまで走ってきたのだった。


 「青野、中見えるか? 」

 「いや、ここからじゃちょっときつい」


 二人は少し離れた位置から店を観察する。

 なんとなく異様な雰囲気を感じるが、例の店舗までは20メートルほど離れており、いくら目のいい青野でも、中の様子までは確認できない。


 「てか、なんで警察来てねえんだよ」


 多香屋がつぶやく。

 思い返してみれば、ここに来るまでの間、パトカーはおろか、緊急車両を一台も見かけていない。普通に考えればおかしな話だった。


 「とりあえず、もうちょっと近づいてみるか」

 「だね」


 二人は店に向けて慎重に歩みを進める。今はあれこれ考えていても仕方がない。何より、千春や真白の無事を確認するのが最優先だろう。


 「二人とも、こんなところで何してんだ? 」


 突然背後から声をかけられ、青野は驚いて振り返る。

 そこには、穏やかに笑う速水夏輝が立っていた。どういうわけか、手に紙袋を提げている。


 「緊急アラート無視してまで、何しに来た? 」


 速水は淡々とした口調で問いかける。

 しかし、それは形式上の問いかけであり、速水はすべてを見透かしているような表情をしていた。


 「天情たちが心配なんだろ? 」


 いまだ黙ったままの二人に対し、速水は続けて言葉をかける。

 その口調は極めて穏やかで、衝動的に危険を冒した二人の生徒を咎めるものではなかった。


 「はい、どうしても心配で…… 」


 青野はまるで何かに誘導されたように素直に白状する。


 「あの、俺らに何かできることありませんか?」


 多香屋は真っ直ぐに速水を見つめて言った。

 そんな二人の様子を見て、速水は少し考える素振りを見せたのち、再び口を開く。


 「俺は今から中に入る。二人はどうする? 」


 速水はいつにも増して真剣な表情で問う。


 「一緒に行かせてください」


 青野と多香屋は、迷いなく声を揃えて答えた。


 「わかった。じゃあついてきな」


 速水はそう言うと、紙袋の中から木刀を2本取り出し、それぞれに手渡した。

 てっきり止められるだろうと思っていた青野は、あっけなく認められたことに若干拍子抜けしつつも、それを受け取った。


 速水が青野たちの同行を許したのには二つの要因があった。まず一つは、襲撃者を退け救助活動を行うのに、単純に人手が足りないということ。そしてもう一つは、この二人の生徒の力をある程度信頼しているということだ。もちろん彼らは能力者としてまだまだ未熟だ。しかし彼らは、自分の実力を弁えており、優れた危機察知能力や判断力を持ち合わせている。もし万が一よからぬことが起きても、カバーできるだろうと速水は判断したのだ。


 「おそらく襲撃者はまだ残ってると思う。危険だと思ったらすぐにでも逃げろ」

 「はい! 」


 速水の言葉に、二人は明確な覚悟を持ってうなずいた。

 こうして、三人は速水を先頭に、店の方へと歩いていった。


 ある程度近くまでやってくると、青野たちにも店の惨状がはっきりと認識できるようになる。商品棚は倒れ、きれいに陳列されていただろう商品は、床に散らばっている。その中で、多くの買い物客たちがまるで魂を抜かれたかのように呆然としている。また、床には無数の赤黒い染みが広がっており、中で起こっているであろう惨劇がたやすく想像できた。

 青野はそんな光景から目を逸らし、大きく深呼吸をする。


 「まだ引き返せるぞ」

 「いえ、大丈夫です。行きます」


 青野の様子に気づいた速水が声をかけるが、青野は引かなかった。

 もし千春や真白がこの中にいるなら、何としてでも助け出したい。もし自分にそれができなくても、速水のサポートとして、できる限りのことをしたいと青野は思った。


 「入口付近に拳銃を持った男が一人いる。あと、奥の方にももう一人見えるな。とりあえず、拳銃のやつは俺が何とかするから、二人は裏口から回って買い物客を避難させてほしい」

 「わかりました」


 青野は大きく頷いてみせると、素早く裏口の方へ回る。

 多香屋も木刀をしっかり握りしめ、青野の後を追った。


 「くれぐれも気をつけてな」


 二人の背中に向けてそう言うと、速水は拳銃の男と対峙するべく、スーパーの出入り口へと向かった。



★★★★★★★



 裏口の扉を開け、中に足を踏み入れた瞬間、ひどい異臭が鼻をつき、青野は吐き気を催した。店内は、外から見た光景より何倍もひどい状態に思えた。赤黒く染まった地面には、複数の人間が血を流して倒れている。まだ息のある者もいれば、もう手遅れだろうという者もいる。


 「青野、どうする? 」

 「とりあえず、少しずつ避難させよう」


 短くやり取りを交わした後、二人は裏口近くにいた人々に小声で話しかけ、静かに外へ出るように伝えていく。

 しかし、避難誘導はそう上手くはいかないもので、裏口が開いているのに気がついた他の買い物客たちが、我先にと一斉に駆け寄ってきてしまった。当然それに襲撃者が気づかないわけもなく、店内にいた一人が、声を上げ、青野たち目がけて襲いかかってきた。

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