第19話:夕食にて
「やば、めっちゃおいしい! 」
できたてのハンバーグを口に運ぶや否や、千春は思わず声をあげる。
「ほんと、スープもめっちゃおいしいです」
コーンスープを飲んだ多香屋も、満足げにつぶやく。
「そうか、それはよかった」
それらの料理を作った張本人である速水は、おいしそうに料理を頬張る生徒たちを、笑顔で見守っていた。
時刻は午後7時すぎ、再び共有スペースに集まった6人は、速水が腕によりをかけて作ったという夕食を食べていた。テーブルの上には、ハンバーグにサラダ、コーンスープなどの洋食が人数分並べられており、周囲にはとてもいい匂いが漂っている。
「真白ちゃん、もう疲れは取れた? 」
「うん、もう大丈夫」
「よかったあ」
心配そうに声をかける千春に、真白は小さくうなずく。
相変わらず無表情ではあるものの、疲れている様子も見えないので、千春は安堵の息をついた。
★★★★★★★
「そうだ、明日からのことなんだが…… 」
全員が料理を食べ終えたところで、速水が話題を切り出す。
「一応、学園内は外より安全だが、これから何が起こるかわからない。いざというときに自分の身を守れるように、能力の特訓をしたほうがいいと思うんだ」
速水は真剣な表情で告げる。
確かに速水の言う通りだと青野は思う。せっかく能力という強力な武器を持っているのに、使いこなせなければ何の意味もない。特訓して、しっかり制御がきくようになれば、無駄に生命力を消費しなくて済むし、前回のように倒れることもなくなるだろう。
青野が了承の意を込めてうなずくと、他の皆も、それにつられるようにして首を縦に振った。
「そうか、それじゃあ早速明日特訓しようか」
速水は微かに笑みを浮かべて言った。
「あの、ちょっと気になったんですけど、速水先生はなんでそんなに色々詳しいんですか? 」
青野は、今朝からずっと疑問に思っていたことを口にする。
突然世の中に能力というものが現れて、自分たち含め世間はひどく混乱しているのに、速水はずっと冷静だ。もちろん、もとからの性格というのもあるだろうが、それにしても、カケラや生命力についてなど、いろいろ詳しすぎるように思えた。
「別に詳しいわけじゃないよ。ただ個人的に色々調べただけ」
「そうですか…… 」
「ああでも、刹那がいてくれたおかげで、状況が飲み込みやすかったってのはあるかな」
速水が付け足して言った言葉に、青野は首を傾げる。
青野自身、刹那については、速水の親友であることと、治癒の能力が使えることしか知らない。それは、他の生徒たちも同様で、みな、頭の上にはてなマークが浮かんでいる。
そんな生徒たちの様子に気付いて、速水は、隣に座る刹那へ視線を送る。速水と目が合った刹那は、小さく頷いて、口を開いた。
「俺はみんなと違って生まれつき能力者なんだ」
「えっ? 」
その一言を聞き、青野は驚愕の表情を浮かべる。
現実に超能力者が存在するなんて話、普段の青野なら絶対に信じなかっただろうが、今は違う。もしそうだとすれば、先ほどの速水の発言の意味も、なんとなくわかってくる。
「もともと能力が使える刹那と一緒にいたおかげで、今回の事態にもあんまり動揺せずに済んだんだ」
「なるほど…… 」
速水の答えに一応納得した青野は、小さくうなずいた。
「そういえば、他の先生はどうしたんですか? 」
今度は多香屋が質問する。
「ああ、本来ならみんなで協力するべきなんだが、この状況だから教員も疑心暗鬼になってな。それぞれ個人で行動してるよ」
「へえ、でも一人のほうが危なくないですかね? 」
多香屋は重ねて問いを投げかける。
「まあごもっともなんだが、C棟の件があったときに、学園の内部に犯人がいるかもって話になってな。犯人かもしれない人と情報交換するのは危険だと判断して、それからは、それぞれ個人で行動するようになったんだ」
「そうだったんですね…… 」
思ってもみなかった回答に、多香屋は遠慮がちにつぶやいた。
「他に聞きたいことはあるか? 」
速水はゆっくりあたりを見まわし、生徒たちの様子をうかがう。
しばらくして、誰も何も言わないことを確認すると、速水は食器を持って席を立った。
「こう言ったら大げさかもしれないが、これからは誰が敵で誰が味方か、自分で判断する必要がある。みんなも、俺が怪しいと思うなら、別に離れてもらっても構わない。もし信じてくれるなら、ついてきてくれ」
最後をそんな言葉で締めくくると、速水は洗い物をするため、キッチンへと向かった。
★★★★★★★
「青野、一緒に風呂入ろうぜ! 」
食器洗いを手伝った後、青野が共有スペースを出ると、外で待っていた多香屋が話しかけてくる。
「別にいいけど」
「やったあ! 」
青野が了承すると、
多香屋は大げさに喜んで、軽い足取りで着替えを取りに自室へと戻っていった。
一体何がそんなに嬉しいのだろうか。相変わらずだなと思いつつ、青野も自室に戻るのだった。
★★★★★★★
氷宮真白は、自室のベッドに腰掛け、ぼんやりと天井を眺めていた。
ふと、ポケットの中でスマホが振動し、我に返った真白は手早くそれを取り出して、画面を確認する。見覚えのある文字列が目に入ると、彼女はひとつため息をつき、通話ボタンを押した。
「もしもし」
「俺だ、調べは済んだか? 」
「はい、やはり彼で間違いありません」
「そうか。ことは順調に進んでいる。予定通り、次の作戦に移ってくれ」
「了解」
淡々と受け答えをする真白の声には、どこか戸惑いの色が浮かんでいた。
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