第9話:全校集会


 速水に誘導されるまま、青野たち2年A組の生徒が体育館へ入ると、そこにはすでに多くの学生や教職員が集められていた。その中には、中等部の生徒や各教科担当の教員、食堂のおばちゃんまでいる。本当にこの学園にいる全員が集められているようだった。


 「なんか空気重いな」


 多香屋は隣に立つ青野に小声で話しかける。


 「だね」


 青野は正面を向いたまま小さく相槌を打つ。


 やがて全員が体育館内に集まると、全校生徒と教職員の前に学園長、星影朝美(ほしかげ あさみ) が姿を現した。


 「これより臨時の全校集会を行います」


 朝美はマイクを手にそう宣言する。

 その張りのある爽やかな声は、彼女が50代前半であることをまったく感じさせないほどの若々しさだった。


 「さっそくですが、今世の中で起こっているさまざまな異変について……」


 朝美は言葉を続ける。そのいつにもまして真剣な表情に、皆が注目している。


 しばらくして、朝美がひととおり話し終えると、周囲がどよめきに包まれた。

 青野はこの数分の間に一気に流れ込んできた情報を整理しようと頭をフル回転させる。


 話の要点をまとめるとこうだ。

 今世の中で起こっている不可解な事故や事件、それから突然発現した人智を超えた力に学園が関係している可能性が高い。理由は不明だが、学園の生徒は何者かに狙われており、実際に襲撃を受け、怪我を負った人もいる。教員も状況が飲み込めておらず、安全性が確保できるまで休校にする。学園の敷地や学生寮は開けておくため、自由に出入り可能。

 ざっとこんな感じだ。整理してみたが、やっぱりよくわからない。


 「おい、大丈夫か? 」


 多香屋に肩を叩かれ、青野は我に返った。

 辺りを見回せば、すでにほとんどの人が体育館を後にしており、他のクラスメートは誰も残っていなかった。


 「ごめん、大丈夫」


 青野はいったん考えるのをやめ、多香屋とともに教室へと向かった。

 このあとは、一度教室で簡単なホームルームを行った後に解散となるらしい。



★★★★★★★



 「というわけだけど、よくわかんないよな」


 教卓の前に立った速水が、いつもの調子で語りかける。


 「ほんとですよ、どういうことなんですか? 」


 後ろのほうの席に座っている琴美が声をあげる。


 「どういうことかっていうのは、実は俺も知りたくてな。とりあえず、集会で言われたとおり、状況が落ち着いて安全性が確保できるまでは休校だ。何か進展があれば連絡する」

 「あの、狙われてるって いうのは…… 」


 ひとりの女子生徒が控えめにつぶやく。


 「ああ、そのことも現状ほとんどわかってなくてな。とりあえず、みんな夜間の外出は避けて、自分の安全を第一に行動してくれ。何かあればすぐ連絡すること」


 速水の答えに、女子生徒は不安そうに視線を落とす。

 いつものようにはきはきと話す速水だが、その表情はどこか切迫しているように感じられる。自分たちと同じように速水にも余裕がないのかもしれないと青野は思った。


 「とりあえず、ホームルームはこれでおしまい。何かあれば個別に連絡してくれれば対応する」


 そう言って、速水は足早に教室を出ていった。



★★★★★★★



 「まじで意味わかんないことになったな」


 電子帳をいじりながら多香屋がつぶやく。

 あのあと、青野と多香屋はさっさと荷物をまとめ、多くの生徒を教室に残したまま学園を後にした。とにかく静かな場所でいったん落ち着きたいと思ったのだ。今は近くの公園のベンチに座って休憩している。

 先ほどの集会の内容がまとめられている資料が、一斉メールで共有されたので、もう一度ゆっくり確認しているのだが、何回読んでもやっぱり意味がわからない。


 「急に休校になったけど、俺らどうすればいいんだろうね」


 なんとなく重たい空気が嫌になって、青野が話を切り出す。


 「さあ、課題とか出るのかな」

 「うーん、そんなん出してる余裕もなさそうだけど…… 」


 「よう、お二人さん」


 二人で話しているところに、突然声をかけられる。

 驚いた青野が顔を上げれば、バケモノ生徒会長の川辺先一がスマホ片手に立っていた。


 「なんだ、かわせんか」


 青野は興味なさげに呟くと、再び手元の電子帳に視線を落とす。


 「なんだとはなんだよ」


 言いながら、川辺は青野の隣にどかっと腰を下ろす。


 「かわせんは今回のことどう思ってるんだ? 」

 「どうって、シンプルに意味わかんねえなって」


 多香屋の問いに、川辺はスマホをいじりながら答える。

 川辺の返答を聞き、青野は少し安堵した。このバケモノでも意味がわからないというのだから、自分たちにわからなくて当然だ。


 「まあ、意味わかんねえから俺も独自に調べてるんだけどさ、ちょっとこれ見てくれ」


 川辺はスマホの画面を青野たちのほうに向ける。

 画面に映っているのは、どうやら最新のネットニュースの一覧のようだった。


 『光る石と超能力の関係』

 『超能力による殺人事件』

 『人々が突然狂い出す奇病?』

 『今話題の超能力騒ぎについて、各国首相が緊急会見』


 そこには、物騒でファンタジックなニュースが並んでいる。そんな中、とある記事タイトルに目が留まる。


 『金のかけらを五つ集めれば、一つだけどんな願いでもかなえられる』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る