第5話:部活紹介
翌週の月曜、普段通りに登校した青野は、真白の席に数人の女子生徒が集まっているのを見かけた。無理もないだろう。彼女は最初の授業で頭脳明晰、スポーツ万能なところを見せ、クラス内にとどまらず、学園内でちょっとした話題になっている。
真白は「助けて」と言いたげな視線を青野に送っているが、これだけの人数がいては青野にもどうすることもできない。
「ほら、もうすぐチャイムなるよ」
試しに言ってみたが、やはり誰も聞いていないようだった。
真白が転校してきてから、実質的にはまだ三日しか経っていないが、すっかりクラスの人気者になってしまったようだ。もっとも、真白がそれをどう思っているのかどうかはまた別の問題だが。とにかく、孤立するようなことがなくてよかったと青野は思った。
★★★★★★★
「そうだ、氷宮、部活動の見学してみたらどうだ?」
朝のホームルームが終わった直後、速水がふとそんなことを言った。
真白は考える。確かに今の今まで、部活に入るという思考がまったくなかった。あまり興味はなかったが、せっかく声をかけてくれたのだから見学くらいはしてみようと思う。
「それじゃあ、見学だけ」
「わかった。誰か案内してくれる人がいればいいんだが…… 」
速水は教室内を見渡す。
ふと、窓際一番後ろに座る男子生徒と目が合った。その相手は、慌てて視線を逸らそうとするがもう遅い。
「細乃、放課後、時間あるよな?」
「いや、今日は帰ってイベント走る予定が…… 」
「なるほど、時間あるな。氷宮と一緒に部活回ってやって。終わったらすぐ帰っていいから」
「…… まあ、いいですけど」
「じゃあよろしくな」
そう言って、速水は教室を出ていく。
細乃は机に視線を落としたまま、小さく頷いた。
究極の面倒くさがり屋で、優秀な帰宅部員の彼であっても、この副担任の指名を断ることはできない。
★★★★★★★
「てことで、早く帰りてえからさっさと行くか」
目の前に立った背の低い男は、面倒くさそうに頭を掻きながらさっさと前を歩いていく。
「あなた誰?」
真白は率直に聞いた。
「ああ、細乃良性(ほその りょうせい)」
細乃は前を向いたままぼそりと答える。
「そう」
真白は適当に相槌を打ち、黙って後をついていく。自分から聞いといてなんだが、別に彼が誰かなんてまったく興味はなかった。なぜそんな無意味な質問をしたのか、自分自身でもよくわからない。
「グラウンドでやってんのはソフトテニス部と陸上部、んで、そこの体育館はバレー部とバスケ部が日替わりで使ってる」
細乃は廊下の突き当たりの窓を指さしながら言った。どうやらわざわざ外に出て説明するのが面倒なようだ。
「運動部には興味ないんだけど」
真白が呟く。
「ああ、それ先に言ってほしかったわ」
そう言って細乃は廊下を引き返す。
「あ、ちなみに水泳部もあるから」
取ってつけたように言うと、細乃は足を速め、さっき来た道を戻っていく。
真白は一つため息をついて、その後を追った。
渡り廊下を抜け、特別教室が並ぶB棟の2階にやってくると、細乃は足を止めた。
「この辺ほとんど部室だから好きに見てきて。何かあったら呼んで」
ぼそりとそう言うと、細乃は脇に挟んでいたiPadを立ち上げ、一人でゲームを始めた。
真白は、あまりにもマイペースな彼に呆れつつも、一人でふらふらと廊下をいた。軽音部、演劇部、パソコン部とさまざまな部室が並ぶ中、「オカルト部」と書かれた教室を見つけ、真白は思わず足を早めた。とちょうどそのタイミングで扉が開き、中から琴美が顔を出した。
琴美は一瞬目を見開き驚いたのち、ぱっと笑顔になって興奮したように真白に話しかける。
「氷宮さん、見学来てくれたの? さあ、入って入って」
「いや、通りかかっただけなんだけど…」
嬉しそうに手招きをする琴美に、真白はやんわりと断りを入れる。
それでも彼女はまったく動じず続けた。
「いまね、学園の七不思議の話してるの。C棟の西エリアのこととか、そういうの興味ない?」
琴美は戸惑う真白の手を取り、強引に中へ引き入れようとする。
真白は少し悩んだのち、琴美と一緒に教室に足を踏み入れた。
★★★★★★★
「遅いな」
手元の画面と睨めっこしながら、細乃は独り言を呟いた。真白がオカルト部の教室に消えてから、軽く20分は経っている。強引な琴美のことだから、中で何か良からぬことが起きているかもしれないと、細乃は一瞬考えるが、別に自分が気にすることではないと考えを改める。
「お待たせ」
そんなことを思っていると、正面から声が聞こえ、細乃は顔を上げる。
そこには先ほどまでと何ら変わらない、無表情な真白が立っていた。
「もう帰る。ありがとう」
真白は小さく呟いた。
「ああ、そう。んじゃあ」
細乃は弾けるようにスタートダッシュを決め、寮の部屋までの最短ルートを急いだ。
「お前、もうオカルト部入れよ」
去り際にぼそりと呟いたその一言は、しっかり真白の耳に届いていた。
さすが優秀な帰宅部員だなとどうでもいいことを思いながら、真白も寮の方へと歩いていく。
その途中、真白はポケットの中でスマホが振動するのを感じ、ふと足を止めた。手早くそれを取り出し、画面を一瞥すると、周囲に誰もいないことを確認して、通話ボタンを押した。
「もしもし」
「……………」
「はい、すぐ向かいます」
★★★★★★★
真白は薄暗く、どこか物々しい雰囲気の廊下を進んでいく。やがて突き当たりの扉の前にたどり着くと、慣れた手つきでカードキーを通し、中に入る。
数台のコンピュータと大きなスクリーンのある小さな部屋の中に、痩せた黒服の男が立っていた。
「ただいま参りました」
真白がそう告げると、男は「ああ」と短く返事を返し、手元の資料を広げた。
「早速だが、決行は4日後だ。準備に取り掛かれ」
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