白夜 22話 やっぱり…ダメだ


 クロは、オメガデウス・ヴァルヤがある宇宙港にいた。

 オメガデウス・ヴァルヤにクロは乗り込み

「悪いな…レナ、ちょっと野暮用で…ごめんな」

と、オメガデウス・ヴァルヤの操縦席に乗って、ナージャが施した封印を破壊して、オメガデウス・ヴァルヤを起動させると、とある場所へ飛んでいく。


 その場所は、あのエルドリッジだ。


 空、惑星の高度100キロ、宇宙と空の境目にあるエルドリッジへ


 オメガデウス・ヴァルヤがエルドリッジを前にすると、両手を砲身に変えて

「悪いね。やっぱりダメだ」

と、クロは引き金を引いた。


 全長三十メートルのオメガデウス・ヴァルヤの何倍もある光線が、全長100キロのエルドリッジへ走る。


 だが、それを弾き返した存在がいる。

 ロゼストのメガデウスだ。


 ロゼストのメガデウスの回りに、ナイツの六人のメガデウスも周回して、七機のメガデウスがオメガデウス・ヴァルヤの前に立ち塞がる。


 クロは焦っていない。

 予測通りなのだ。


 オメガデウス・ヴァルヤの通信にアークシアが入る。

「どういうつもりなのですか? 父上…」


 クロは笑み

「やっぱりダメだ。これは認められないし、やっちゃいけない。破壊するわ」


 アークシアが苛立ちを見せて

「現状を分かっているのですか? 父上…」


 クロが目を細めて

「ああ…ルカって子が教えてくれたよ。過去…エネルギーやエネルギー資源が不足して大変な時代があった。それを何とかする為にも…これにすがった。それしかなった。でも…後悔しているってなぁ…」


 ルカの父親は、エルドリッジに取り込まれてしまった。

 最初は、仕方ない…と受け入れたが…でも、でも、他に方法があったのではないか?と、思うようになって、今のレジスタンスの活動に加わった。

 何かを幸せにする為に、何かを犠牲にして成り立つ社会。

 それの歪みは必ず…大きな悲劇へと加速する。

 人は、その歪みと悲劇を直視して、何とかしようと足掻いて来た。

 だから、この今がある。


 クロは真剣な顔でアークシアの画面を見つめて

「アークシア、お前の選択、こうしなければならなかった理由も分かる。確かに…これを使うしかなかったのも…」

 クロは静かに目を閉じて

「でもよ…これの結末を知っているか? 最悪の犠牲の連鎖が始まる。オレは…それがあった昔を生きてきた。だから」

 クロは、オメガデウス・ヴァルヤの引き金を引く

「だから、これは…ダメだ。オレが…オレ達が見て苦しんだ、最悪な過去の再来だ! 時は元には戻らねぇ…」


 オメガデウス・ヴァルヤが、無数のエネルギー光線を発射する。


 ロゼストが通信で

「アークシア様…よろしいでしょう?」


 ロゼストのメガデウスの通信画面にいるアークシアが苦しそうな顔で

「平穏な結論を望んでいましたが…致し方ない。ロゼスト、ナイツよ。目の前にいる敵を討て」


『は!』とロゼストとナイツの六人が返事をする。


 七つのメガデウスの光がオメガデウス・ヴァルヤへ迫る。


 クロが怪しく笑み

「遊んでやるぜ!」


 オメガデウス・ヴァルヤに七つの光となったメガデウス達が突撃する。


 光の速度である攻撃を繰り出すメガデウス達。


 それを軽やかに避けるオメガデウス・ヴァルヤ。


 稲妻の如き速さと軌道で、攻撃するメガデウス達の一撃を先読みしているオメガデウス・ヴァルヤ。


 ナイツのクリニアが

「攻撃が全て読まれている!」


 アヴァロが

「なるほど、これが…マハーカーラ直属部隊、最強の力か!」


 ナイツとロゼストには、超越存在の力から生まれたエヴァルダーという特別な存在だ。

エヴァルダーである故に、光速で動くメガデウスを扱える。

 戦闘に特化した機能を持つメガデウスが、オメガデウス・ヴァルヤに圧倒されている。


 ガルダスが

「クソぉぉぉぉぉ!」

と、メガデウスの光速の突撃を繰り出す。


 その先へ待ち構えているかの如く、オメガデウス・ヴァルヤが蹴りを放つと、コクピットがある胸部へ当たりダメージが入る。


 強烈な衝撃で意識を失うガルダス、そのガルダスのメガデウスをキャッチするアークアのメガデウス。

 そこへ容赦なくクロはオメガデウス・ヴァルヤの突貫を加える。


「ぐああああ!」

と、抱えたガルダスのメガデウスと共にアークアのメガデウスも吹き飛ぶ。

 それを、ジースの宇宙戦艦がエネルギー力場でキャッチする。

「大丈夫か?」


 アークアが

「私は…大丈夫。ガルダスは?」


 ガルダスが

「ああ…まだ、いける…」


 宇宙戦艦を動かすジースが

「何が…過去の遺物だ…。圧倒的じゃあないか」

と、見つめる先、そこには、メガデウス達を圧倒するクロのオメガデウス・ヴァルヤがいた。


 ロゼストのメガデウスを先頭に、残り四つのナイツのメガデウス達が続く。


 クロは、ロゼストのメガデウスへオメガデウス・ヴァルヤを向かわせる。


 光速で動くメガデウスだ。オメガデウス・ヴァルヤの攻撃などスローモーションになるはずが、見えない力に引き寄せられて動きが止まり、攻撃に突貫を受ける。


 ロゼストのメガデウスへ突貫したままオメガデウス・ヴァルヤは、ナイツのジェイスとアヴァロのメガデウスへ突貫。

 三機のメガデウスが突貫によって弾き飛ぶ。


 クリニアが

「ナルファ!」


「うん」とナルファが


 クリニアとナルファの二人のメガデウスの二機は、クロのオメガデウス・ヴァルヤから距離を取って、無数の光の攻撃を飛ばす。

 光速で放たれる光の雨達。


 それにオメガデウス・ヴァルヤが背面の装甲翼から同等の光の雨を放って相殺させる。


 その相殺中にクロは、クリニアとナルファのメガデウス二機へ迫る。

 メガデウスは全長が15メートル前後だ。

 その倍もある巨体のオメガデウス・ヴァルヤが迫り、二機を挟むように腕を交差させる。


 クリニアとナルファは、回避しようとするが、見えない力場に捕まって逃げられない。


 オメガデウス・ヴァルヤの両手ハサミによって、クリニアとナルファのメガデウスが挟み込まれて衝突。


 ナルファは気絶、クリニアはダメージを受けて落ちるナルファのメガデウスを抱えるが、そこへオメガデウス・ヴァルヤの一撃が入り落ちる。


 その背後、オメガデウス・ヴァルヤの後ろからロゼストのメガデウスが攻撃を加える。

 無数の光の攻撃と、自身の突撃、両方の攻撃にクロは

「甘い」

と、ロゼストのメガデウスへ突進して、無数の光の攻撃の中を突き抜けた。


 ロゼストのメガデウスは仰け反り後退するが、踏み止まったそこへオメガデウス・ヴァルヤが追撃する。


 強烈な蹴りがロゼストのメガデウスに入り、ロゼストの意識が…

 ロゼストは踏み止まり、シールドを展開する。


 それをオメガデウス・ヴァルヤは覆い被さるように掴み、シールドを破壊しようと押さえる。


 攻撃が止まったロゼストは、エヴァルダーの力でクロの思考を読もうとするも


”ヴォオオオオオオオオオオ”


 無数の膨大な人間の雄叫び達が響いてくる。


 ロゼストは焦燥する。

 コイツは…何なんだ?


 クロは、アークシアと同じ超越存在な筈だ。

 なのに…これでは…アヌンナキ、ホモデウスと同じ、膨大な数の人間が集積して合衆して融合した神人に…


 唐突にオメガデウス・ヴァルヤがロゼストのメガデウスから離れると、ロゼストのメガデウスの後ろに二つのオメガデウスが出現する。


 一つは白銀、一つは深紅、二機のオメガデウスがロゼストのメガデウスの後ろに浮かぶ。


 クロが二機のオメガデウスに

「よう…これも…仕事か?」


 深紅のオメガデウスにはスクナが、白銀のオメガデウスにはミカボシが。


 ミカボシが

「そうだなぁ…まあ、今は…破壊されると困るのでな」


 スクナが

「お前は、何時も決断が早かったはずなのに、今回は遅かったな」


 クロが笑み

「年を取ったのさ。色々と悩みすぎて時間が掛かるのは、老害の特徴だろう」


ミカボシが

「お前が老害なら、我々は死に体のミイラだな」


 クロと、ミカボシにスクナがぶつかる。


 

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