白夜 21話 どうして…
クロは部屋の片隅で座っていた。
両手にはナーシャの力によって構築された黄金の腕輪がハマっている。
それは、クロの中にある超越存在の力を抑制している。
クロは、外が見える窓を見ると夕暮れだ。
「ただいま…」
と、ルカが入ってくると、ルカと一緒にレナとナーシャも入ってくる。
クロが隅で座っている部屋の隣から
「お帰りなさい」
と、ルカの母親が顔を見せる。
ルカが抱える荷物をテーブルに下ろして
「お袋、見てくれよ」
と、荷物からリンゴを取り出す。
ルカの母親が
「バイオ合成じゃあない。ホンモノのリンゴ?」
ルカが笑顔で
「ああ…高級品が出回っていたから、少し買って来た」
レナは買い物の荷物から、とあるケースを取り出してクロに
「はい、クロが好きなチョコレートのスティック。バイオ合成じゃあないホンモノだよ」
クロは頷き「ありがとう」と受け取る。
ナーシャがクロの前に来て
「何時まで、考えているつもり?」
クロが無言になって下を向く。
ナーシャが肩をすくめて、クロから離れる。
クロがこうなって一週間になる。
クロはショックを受けていた。
過去に破壊した筈のアヌンナキ・プロジェクトの遺産が生きていた。
それを破壊しようにも、破壊した場合…多くの犠牲者が続出する。
このまま、見なかった事にして…
クロは、考え続けていた。
そこへインターフォンが鳴って、ルカが立体画面を出すと「お!」と告げて玄関に言って開けると…
「やっほーーーー」
と、千華が
「こんにちは」
と、紫苑が
二人が入ってきた。
千華が荷物を掲げて
「鍋パーティーしようぜ!」
ルカが母親を見ると、母親が微笑み
「いいですね」
千華が元気よく
「じゃあ! 決まりーーー」
夕飯は、大人数の鍋パーティーになった。
それにクロも加わっている。
大きい鍋を囲んで、大人数の楽しいパーティーが始まる。
クロは鍋が煮えているそこを見つめて思い出す。
一週間前、エルドリッジを知った時に、クリニアの通信でアークシアに
「どういう事だ!」
と、通信でアークシアに怒鳴り込む。
アークシアが冷静な顔で
「見ましたか? これが現実ですよ」
クロが声を荒げて
「こんな事! 許されないぞ!」
アークシアが声を荒げて
「じゃあ! 父上がこの時空の王として立つ覚悟があるんですか!」
クロは黙ってしまう。
アークシアが淡々と
「コレが現実です。だから、父上をここへ呼び込む為に、色んな手を尽くした。そして…父上がアルテイル共和時空国で王になる事も拒否したのも知っている。ここに呼び寄せて父上に力を使って貰って、それをわたくしは奪おうとした。その理由が…これです」
クロが渋い顔をする。
アークシアが強めに
「父上には、どんな犠牲や非道を行っても守らなければ…いけない者達の重みが分かりますか?」
クロが黙っているとアークシアが
「わたくしには、ある。それで父上に恨まれようとも、憎まれようとも、覚悟の上です。ですから…父上、アナタの力を全部、わたくしにください。父上が持つ超越存在の権能を全てわたくしが奪った後、父上は好きに生きればいい。奪った後なら精々、惑星兵器クラスの力は残るでしょう。それで十分に自由に生きる事ができるはずです」
クロは黙って答えない。
アークシアが真剣な顔で
「それが嫌でしたら、わたくし達の王として上に立ってください。王として立つなら、この身を父上の好きにすればいい。どう弄ぼうとも父上の自由です。わたくしの身と命一つでわたくしの大切な者達が守れるなら安いので」
クロが怒りの顔で
「自分を卑下するな…」
アークシアがその言葉を聞いて微笑み
「父上なら、そう言うでしょうと思いました。じっくりと考えてください」
そうして、クロはルカの元へ来ていた。
何もする訳でもない、部屋の片隅で考えつつ、偶に外へ出て散歩して、公園のベンチに座って考える。
そうして一週間が過ぎてしまった。
そして…今晩の鍋パーティーに参加している。
七人が鍋を囲む狭いテーブルで千華が
「アンタも悩むんだね」
と、クロを指さして笑う。
クロが苛立った顔をして
「なんだよ。オレは悩む人間なんだよ」
千華が鍋の具を摘まみながら
「アンタは、即決断、即実行するヤツだったのに…五百年も年を取って丸くなった?」
クロが首を傾げて
「あんまり変わっていないと思うが…」
千華が笑み
「そうだろうね。アンタの物言い、雰囲気、変わっていない。正しい事をウルサく言うところ、それを迷い無く実行するところ、そして…その正しさがまぶしくて悔しくなる。どうして、アタシ達は間違ったんだろうって思うくらい、アンタは…正しかった」
クロが呆れ気味に
「正しい事をしたいと思った事は無い。ただ…」
千華が「ただ…?」と続く。
クロがレナを見て
「恥じる行いをしたくないと…何時もの思っている。真っ直ぐと前を見る行いをしようと思っている。それが…どんなに自分に不利益があろう…とも、だ」
千華が
「じゃあ、なんで悩むの」
クロが目を見開く、千華の…かつての敵が…教えようとしてくれている。
「そうだな。その通りだ…」
千華が笑み
「そうだよ」
紫苑、ルカ、レナの若い三人には分からなかった。
ナーシャとルカの母親は、何となく察して、ナーシャが
「鍋パーティーを楽しみましょう」
クロが笑み
「ああ…そうだな」
そうして、鍋パーティーが過ぎていった。
翌朝、クロはいなかった。
何時もクロの隣で寝ていたレナが「ふぇ?」とかわいらしい声を寝ぼけて放った。
レナが寝室から出ると、千華が現れて
「アンタの護衛をアイツから頼まれた」
レナが瞬きして
「どうして、護衛なんて?」
千華がフッと笑み
「後で分かるよ」
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