白夜 2話 新たな旅立ち


 レナはクロの背中を追う。

 クロが先導で、遺跡ダンジョンの中を進む。

 全長が100キロもある遺跡ダンジョンは様々に入り組んで複雑だ。

 遺跡ダンジョンの内部には、動力が動いている部分と動力が停止している部分がある。

 レナは、動力が生きている部分から地図をダウンロードした方がいいと立ち止まる。


 クロが止まったレナに

「どうしたんだ?」


 レナが壁を探って

「ダンジョンの地図をダウンロードする場所を探しているの」


 クロが右腕の装甲を向けて

「大丈夫だ。このメルカバーα125の内部図なら持っている」


 レナが訝しい顔をして

「今、メルカバーって言ったの?」


 クロが頷き

「ああ…そうだろう。ここは惑星級生産施設メルカバーだろう」


 レナがクロを見つめて

「ここはα125の遺跡ダンジョンって言われているの」


 クロが哀愁な顔で

「そうか、遺跡…ダンジョンねぇ…そうなっちまったか…」


 レナが

「クロは、何時の時代の人?」


 クロがその場に座って

「アルテイル時空共和歴1982年の今から五百年前だ」


 レナが驚きで

「もしかして…五百年前にあった時空大戦の時に…」


 クロが頷き

「ああ…時空大戦の時に、時空爆弾に巻き込まれてなぁ…」

と、天井を見上げる。


 レナが複雑な顔で

「時空爆弾によって生じた時空の穴に呑み込まれて…今に…」


 クロが肩をすくめて

「正解! 時空爆弾による時空破壊で、時空…空間と時間が歪んで、オレがいた時より五百年後の今に来たって事さな」

と、クロは懐の装甲スーツのパッケージを開けてチョコレートのスティックが入ったケースを取り出して、一本加えて

「レナも食べるか?」


 レナも一本貰って口にして

「これ…天然モノのチョコレート?」


 クロが笑み

「高級だろう? 惑星の自然環境で栽培されたカカオだ。合成やバイオ生育で作られたモノじゃあねぇぞ。オレ等の時代でも貴重だったから、こういう一服の時に少しづつ喰っている」


 レナもチョコレートスティックで休憩しながら

「そうか…五百年も…」


 クロがレナの鋼色の装甲スーツを見て

「五百年も経過しているのに…あんまり技術が進歩してねぇなぁ…」


 レナが

「五百年前の技術が凄すぎて…そこからの応用品はたくさんあるけど…」


 クロが

「なるほど、シンギラリティの終わりか…」


 レナが首を傾げて

「シンギラリティ? 何それ…」


 クロが

「じゃあ、この奥にあるモノを回収しても、使えるって事か…」


 レナが巨大な通路の奥を見つめて

「この奥に何があるの?」


 クロが

「荒らされずに残っているなら…あるはずだ」


 ◇◇◇◇◇


 クロを先頭にレナの二人が進む。


 二人の目の前に、無数の無人兵器達が出現する。

 レナが構えるが、クロが手を向けて止める。

 無数の無人兵器達は、このα125の遺跡ダンジョンの最奥を守る守護モンスターだ。

 それがクロをスキャンすると…

「お通りください」

と、無数の無人兵器達、モンスター達がクロとレナを通す。


 レナがクロに

「どういう事?」


 クロが

「五百年前の大戦の時に、この施設で補給を受けていたし、この施設の色んな武装を持ち出せるパスを持っているんだよ」

 

 レナが驚きで

「凄い…それ、他のダンジョンでも」


 クロが

「分からんぞ。色々と変わっているかもしれないし。たまたま、ここで使えたくらいだろう」


 レナが残念そうに

「そうか…」


 クロが「先にいくぞ」と進む。


 先に進むと、そこには巨大な鋼色に輝くピストンロックが無数に組まれた巨大扉が出現する。


 クロの前で、その扉が幾つも開いていき、最奥への道を示す。


 その最奥、巨大な空間に、円環の台座の上には全長が三十メートルの鋼の機神が両手を交差させて浮かんでいた。

 鋼の機神は、左右に白と黒と色が分かれていて右に黒、左に黒と陰陽のようなデザインに背中に同じ鋼の翼を伸ばしていた。


 クロが懐かしく

「残っていたとは、オメガデウス・ヴァルヤ…」


 隣にいるレナが

「オメガデウス? ヴァルヤ?」


 クロが

「高次元から様々なエネルギーを召喚して力を行使する高次元兵器、オメガデウスだ」


 レナが記憶を探って

「オメガデウス? もしかして、惑星開発機構が使う…テラフォーミング用の装置の事なの?」


 クロが微笑み

「テラフォーミング用の装置か…ずいぶん、平和的な活用へ向かったんだなぁ…」

と、言いつつオメガデウス・ヴァルヤの胸部にあるコクピットへ向かう。

 そのコクピットは複座式で左右に並んで席がある。

 クロは、その右席へ座り、正面のディスプレイにタッチする。

 オメガデウス・ヴァルヤの目に光が灯る。

「どうやら、動くようだ。システムも…」

と、チェックして

「問題ない」


 クロがチェックしているのをレナが扉から見つめていると、クロが手を伸ばして

「左に座れ」

と、レナを導く。


 レナがクロの手を取ってクロの隣、左席に座るとクロが

「レナを認証させる。顔をここに向けてくれ」


 クロの言う通り、レナがディスプレイの正面に顔を向けると、探査レーザーがレナの顔とDNAをチェックして

「新たなパイロットとして登録しますか?」


 それにクロが

「はい、だ」

と、オメガデウス・ヴァルヤにレナを登録させる。


 クロとレナが座ると、クロが

「さて、これで移動する足も手に入れたし…ここから出るか…」


 コクピットのハッチが閉まって、オメガデウス・ヴァルヤが唸りを上げる。


 レナは自分の席にある左右の操縦桿を握って

「操作方法は?」


 クロが

「インテンション・オートマチック。要するに念じれば動くってヤツだ」


 レナが

「わたしの装備している装甲スーツのシステムと一緒って事なのね」


 クロが

「そういう事、じゃあ…お外へ…ん?」


 レナが

「どうしたの? クロ…」


 クロがディスプレイを触って

「施設のセンサーが侵入者を探知して、排除しようとしている」


 レナもディスプレイを触って同じ、施設のセンサーの図を見て

「もしかして…ダンジョン探索者の誰かが…」


 クロがレナを見つめて

「無視するか?」


 レナが首を横に振って

「行ってみよう」


 クロが「了解」と操縦桿を握って押すと、ヴァルヤが背中にある装甲翼から推進力を放って動き出した。


 補完されていた巨大なホールを一周して、上部に開いた扉から出て行き、100キロの巨大施設メルカバーの内部、幾つもの区画が柱のようになって繋がる、巨大な内部広場に出ると、その侵入者の反応があった区画へヴァルヤが向かう。


 その道中、レナが

「ねぇ。ヴァルヤってどういう意味なの?」


 クロが

「意味って言うか…ちょっとした言葉の言い換えみたいなもんで、元の名は白夜っていう名前が、何となくヴァルヤってなったんだよなぁ…」


 レナが疑問で

「ビャクヤって何?」


 クロが笑み

「終わって一段落した後に、教えるよ」


 二人を乗せたオメガデウス・ヴァルヤが目的の場所へ到達した。


 

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