第17話  屋敷からの脱出を計画する

地下道は、ほぼ真っ直ぐに続いていた。

途中、少し細い道で横道に入る場所が二ヶ所あったが、それは無視してそのまま真っ直ぐ進んだ。

最後の方は緩やかにカーブしながら続いている。

道の突き当たりまで行くと、上に登るための梯子があった。

あの倉庫から降りてきた場所と同じ形だ。


梯子の下に立って見上げると、四角く切り取られた部分はあるようだが、

何かで塞がっている。

ここに降りる時も、降りてしばらく経ったら入り口が勝手に閉まったけど・・・ここはどうなっているのか。

とりあえず梯子を登っていって、入り口を塞いでいる蓋らしき物を軽く押し上げてみた。

そうするとそれは簡単に開いた。

降りてきた時と全く同じだ。

軽く触れると、そこにあった物がスーッと横に動いた。

上がってから見るとダンボール箱で、これも降りてきた場所と同じだった。


周りを見渡すと、この場所も倉庫の中の様な場所だ。

八畳間くらいの広さで窓は無く、出入り口の引き戸が付いている。

物はあまり多くなくて、箱がいくつか積んである程度だった。

その中に紛れるように、このダンボール箱がある。

知っていれば、隠し扉は一番大きい箱の下だしすぐ分かると思うけれど、知らないで見たらきっとただの倉庫に見える。


向こうの屋敷でもここでも、地下への出入り口があるという事を隠すために、つい立てを置いたり箱を置いたりしているのかと思う。

ここはどこの倉庫なのか。

急に外へ出て、人に会ったら面倒だ。

私は、引き戸の近くまで行き、少しだけ開けて外を確認した。

大丈夫そうだ。

今は周りに誰も居ない。


出てみると、何となく周りの景色に見覚えがあった。

それもそのはずで、ここは私が今いる屋敷の裏庭だ。

ここに倉庫があるのは、散歩の時に何度も見て知っていたけれど。

まさか中にこんなものがあるとは思った事もなく、倉庫の存在なんて今まで忘れていた。

今日彼らが行った家と、この家は地下で繋がっているということか。


地下道を見つけた時、一番うまくいけば今日のうちに外への抜け道を発見できるかと思ったけれど、そう簡単にはいかなかった。

それでも、今住んでいるこの屋敷の中に、地下の隠し通路へ続く入り口があると発見出来た。大きな収穫だと思う。


さっき、横に外れるちょっと細い道もあったけど・・・・

他の家の敷地内に繋がっている可能性が高い?

けど脇道があった方角から考えると、そっちじゃない。

脇道が続いているのは、おそらくこの屋敷の裏庭の奥。

それより先に、他の屋敷は無い。

そこにあるのは、市街地との間を隔てる塀。

殺された二人の男性が話していた事・・・地下道を通れば塀を超えなくてもここから出られるということは、あの脇道が市街地へ続いている可能性はある。


私は、最初の予定通り一旦屋敷に戻ることにした。

夕食の時間が近いし、今居なくなったら直ぐに探しに来そうだ。

脱出するなら、最大限時間を稼げる時を選びたい。

偶然にも屋敷の裏庭に出られたし、散歩から帰ってきた感じで普通に戻ればバレないと思う。


地下道の、あの脇道。

二ヶ所あったけど、うまくいけばどちらかが、直接市街地へと続いているかもしれない。

確かめに行くのは今夜。

このまま明日まで、彼らが帰って来なければやりやすいけど。


私はそれから、何食わぬ顔で戻って玄関から入った。

AIからのメッセージが来て、夕食の時間になり、入浴の時間になった。

湯船に浸かりながら、今日これからの事を考えた。


夜中に活動するために、今日は早いのうちに少しでも睡眠を取っておこう。

集合住宅で父のノートを読んだ時と、同じ手を使えばいい。

ベッドに寝転んで、スマホを見ているフリをしながら仮眠を取る。

全員が寝静まった夜中に起きて、トイレへ行くフリをしてそのまま風呂場へ、風呂場の窓から外に出る。

彼らの正体を見た時と、同じルート。

今回は行き先は違う。

そのまま裏庭を走って、あの倉庫へ行く。

二本あった分かれ道のどっちへ進むか。

方角としては、道が真っ直ぐだったらの話だけど、どちらも市街地へ向かう方向。

これは今悩んでも仕方ない。

行ってから道の前に立って、感覚で決めよう。

うまくいけば、抜け道が見つけられたら、そのまま市街地へ逃げよう。

見つからずに逃げられたとしたら、とにかく街の外の方へ。

市街地は監視カメラだらけだし、警備も厳しいけど。

とにかく出来るだけ遠くへ。

まだ残っているはずの山間部を目指す。

脇道から入っても市街地へ出られなかった場合、途中で見つかりそうになった場合は一旦戻り、他の方法を探りながら次の機会を待つ。

今日抜け道を見つけられた時は、ここで過ごすのは今日が最後。


風呂から戻ってきて、ベッドでスマホを見るフリをしているうちに、だんだん眠くなってきた。

初めて、父の夢を見た。

亡くなった母も出てきた。

子供の頃、私が育った家で、当たり前のように両親が居る。

家族三人で鍋を囲む、賑やかな夕食の時間。

私の目を通してそれを見ているけれど、自分が子供なのか今の年齢なのかよくわからない。

しばらくすると、三人で食卓を囲んでいる場面はそのままに、いつの間にか私達の居る場所が、今居る屋敷の庭に変わっている。

食事を終えた私は両親と一緒に、当たり前のように外に出て、屋敷の庭を歩いている。


母が病気で亡くなったことも、父が連れ去られて居なくなったことも、もしかして全部夢だったのかな。


そう思った時目が覚めた。

一瞬、朝なのか夜なのか分からなかった。

そうか。この屋敷の自分の部屋に居たんだ。

仮眠を取ろうとしてたんだっけ。


私は起き上がって、クローゼットに入れていた鞄を取り出した。

三冊のノート、財布。

持って行く荷物は最低限にしておこう。

化粧品や鏡、ブラシを入れなければ、もう少し物が入る余裕が出来る。

一番履き慣れている靴を一足取り出して、鞄に押し込んだ。


着替えたいところだけど、夜中にトイレに行くのに服を着て行くのは変だし。

でも、今日は屋敷の主が居ないから・・・皆んなてきとうで、監視カメラなんかろくに見てなかったらいいけど。

希望的観測はしない方がいいかな。

逆に、今着替えた方がいいかも・・・・

この位置だと監視カメラには映らない。


クローゼットの扉の影に隠れて、私は着替えを済ませた。

Tシャツとジーンズの上に、もう一度パジャマを着る。

このサイズの鞄なら、パジャマの下に隠せる。


AIから就寝時間のメッセージが来て、私はいつも通りベッドに入った。

出るのは真夜中だから今のうちに眠っても差し支えないけれど、これからやろうとする事を考えると、さすがに緊張して眠れなかった。

私が住んでいた市街地と比べると、ここは監視カメラの数は多くない。

自分から出ていこうとする人がほとんど居ないのが理由の一つ。

もう一つの理由は、使用人の数がこの屋敷でせいぜい三十人程度だから。他の家も変わらないと考えると、それぞれの家でその程度の人数なら個人情報を把握して管理できるのかと思う。


今日のうちに脱出を決行した場合、私が出て行った事がバレるまで、うまくいけば明日朝までか、市街地に出るまで時間がある。

市街地まで抜け道が続いていたとして、どこに出るのか?

市街地には、広い屋敷の庭など私が見ていた範囲にはなかったけど。

庶民の中では富裕層と言われる人達のところならあるのかな。

向こうでも同じように庭の倉庫とは限らず、全然違うところに出るかもしれないけど。

市街地に行けば監視カメラだらけだし、夜中にウロウロしていれば目立つ。

出られた場所によって、一気に走って山間部を目指すか、夜明けまで隠れられるところが有ればそうした方がいいか、行ってから判断しよう。


私は必ずここを出て行く。

それが今日だとしても、もう少し先だとしても、出て行く事だけは自分の中ではっきりと決めている。


昨日夢を見た時も感じだけど、父は今も生きていると思う。

これは前にも得られた感覚。

父の個人識別番号が消えた時も、死んだという事では無いと感じた。

根拠は何も無いけど。

亡くなった母もきっと応援してくれている。

それを思うと勇気が湧いてきた。



結局眠る事はできなくて、時刻は夜中の一時になった。

このくらいの時間になると、起きている人は居ないはず。

私は起き上がって廊下へ出て、トイレから風呂場へ行ける扉を開けて移動した。

前の時と変わらず、鍵は掛かっていなくて助かった。

鞄から靴を出して履き、パジャマを脱いで靴のかわりに鞄の中に押し込んだ。

鞄は、たすき掛けにして体から離さないように持った。

聞き耳を立て、窓の隙間から外の様子をうかがう。

外には誰も居ない。

私は、風呂場の窓から外に飛び降りた。


建物を見上げると、明かりのついている部屋は無い。

起きている人は居ないらしい。

今なら、見つからずに倉庫まで行けそうだ。

月明かりを頼りに、私は裏庭を走った。

















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