第14話 二人目の来訪者
拝啓、ユスティアたんへ
副団長のローゼオよ。元気にしてるかしら?
まああなたのことだから、心配はしてないんだけれどね。
さて、いきなりのお手紙でびっくりしたかもしれないけど、あまり身構えずに読んでちょうだい。特別大きな報告があるわけでもないわ。ただ、アタシたちの近況を軽く伝えておくわね。
あの戦争から五年、カピターレはずいぶんと復興したわ。
ボロボロだった城郭も修理されて、アタシの好きだった街が戻ってきた。街並みの修繕も国王様が主導してくださったおかげか、また一段と王都らしくなった感じがするわね。あなたにも見せてあげたいわ。
そうそう、アタシのいる騎士団の体制も整ってきたのよ。
前任のアンドレア団長のあとを継いで、今は娘のエルダちゃんが騎士団長をやってるわ。あなたも知ってる通り、まだまだ打たれ弱い女の子だけれど、あの子なりによく頑張ってる。尊敬していたあなたからの励ましがあれば、きっと彼女も喜ぶでしょうね。
かく言うアタシも、今ではかわいい部下の育成に大忙しよ。アタシのことを慕ってくれる後輩ちゃんたちもたくさんいて、まさに嬉しい悲鳴ってやつね。まだまだ課題は多いけれど、この王国の平和のためにもアタシたちは頑張っていかなきゃって思うわ。
そうそう、それから……
(中略)
まあ、大まかにはこんな感じね。
ユスティアたんのいなかった五年間も、アタシたちはなんとか上手くやってきたと思うわ。だから、あなたは何も心配しなくていい。あなたはもう十分背負ってきたもの。アタシたちも無理強いはしないわ。
けど、少し寂しくはあるわね。
アタシもエルダちゃんも他のみんなも、戦友だったあなたのことが恋しいのよ。ほんの挨拶程度にでも顔を出してくれるなら、アタシも友達として嬉しいわ。
それじゃあ、長くなったけどこのへんで。
どうかお元気でね、ユスティアたん。お返事待ってるわ♡
「なんだこの手紙……」
長々と書かれた自筆の手紙を読んで、私はそんな感想を漏らした。
ローゼオ――あのオネエ騎士が手紙を寄越すこと自体が珍しいけれど、無駄に綺麗な字で書かれたそれを読んでみるとより気味が悪かった。というか、あの図体で手紙を書いている絵面がまず面白い。
なんて、差出人を茶化すのはほどほどにして。
このタイミングで私に向けてこれを書いたということには、何かしら意図があるのは間違いない。ただ問題は、その意図をまるっきり隠せていないことだ。
「戻ってきてほしい、って素直に書けばいいのに……」
まあ、そうしないところがあいつの思いやりなのかもしれないけれど。
ローゼオも結局は、優しい
手紙をサイドテーブルに置いて、ビーチチェアに背中を預けた。パラソルの下、容赦のない陽の光が私の身体に降り注ぐ。
眩しい。
落ちるところまで落ちた私には、何もかもが眩しく見える。
戦友からの手紙も、熱意のこもった弟子のまなざしも。
(戻ったほうがいいのかな……)
改めて、自分の胸にたずねてみる。
ずっと逃げ続けた私でも、みんなが待っていてくれるなら。
魔法の使えない私も、あの場所にまた戻れるだろうか。
また、自分じゃない誰かのために、私は……
「……師匠? あの、どうかしたんですか?」
見上げた視界の隅に、ネーヴェの顔があった。
砂浜でぼーっとしていた私を、不安げに覗きこんでいる。私が変に思い悩むような表情をしていたせいかもしれない。
「どうもしないよ。ただ、陽が眩しいなってだけ」
「ならいいんですけど……師匠、ちょっと来てもらえませんか?」
少し困り顔でネーヴェが言う。
なんだろう。料理でもミスったのかな。
「どうして? 何かあったの?」
「いや、その……家の前に変な人がいて……」
お?
「変な人……?」
ネーヴェに連れられるがまま、私は玄関へと引き返した。
そしたらどうだ。
ネーヴェの言う通り、玄関前に人影があるじゃないか。
「誰だろ、あの子……」
ドアの前で座り込んでいたのは、一人の少女。
長い紫の髪で片目が隠れていて、その顔にはどこか危なげな雰囲気の笑みが浮かんでいる。まるで、今か今かと何かを待っているような。
正直、ちょっと怖かった。
しかも、彼女が着ているのは王都にある学校の制服だ。
なんでこんな所に学生がいるのかはわからないけど。
「あの制服……学生、ですかね?」
「まあ、そうだろうけど……私あんな子知らないよ?」
「本当ですか? なんか信用できないんですけど」
たしかに私にはネーヴェのことを忘れていた前科がある。
けど本当に、あの女の子には見覚えがない。
「……ネーヴェの知り合いじゃないの?」
「いや、そんなわけないじゃないですか! 師匠の家の前にいるんだから絶対師匠の知り合いでしょ! とりあえずなんか声かけてきてくださいよ!」
「えぇ……私が行くの?」
気は進まないけれど、仕方がない。
かたくなにドアの前から離れないその少女のもとへ、私はおそるおそる近づいた。
「あ、あの……私に何か用だったりする?」
するとその少女は顔を上げて、途端に目を輝かせる。
ゆっくりと近づいてくる彼女に、私は思わず後退りした。
「あ、あああ……! あなたはまさか、かの有名な【銀詠】のユースティア様ですか? いえ、そうですよねっ!?」
「うん……そう、だけど……?」
「よかったぁ! あ、私フェデリカっていいます! 魔法学校時代にユースティア様の授業を受けたことがあって、それでその……」
頬を赤らめながら、その少女は私の手を握った。
なんだろうこの子、そこはかとなくヤバい予感が……
「私をっ……!」
「わ、私を……?」
「――私を、先生のお嫁さんにしてください!!」
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