第50話 愛があれば
ファイ子は動かなかった。チリからサッと渡された俺のTシャツをエネは着ると
少し考えて
「えいなりさんが自室で姫の水着写真見ながら、怪しい右手の動きをしてますよー」
いや、絶対するかよ!という言葉を何とか飲み込む。しかし今度は効果抜群だったようで
「だめえっ!えいなり!私のせいでえ!」
目を開けたファイ子は慌てて立ち上がり辺りを見回す。エネと目が合うと
「……エネえええ」
大泣きしながらエネにしがみついた。
エネは優しい表情で抱きしめ返して
「生き物には使命があります。私はそれを見つけたのです。姫も愛すべき男性に受け入れられるといいですね」
とても感動的なセリフを言った時だった。
辺りが薄暗くなり、俺とチリとファイ子は同時に窓の外から殺気を感じてそちらを見ると、そこにはツインテールを左右に揺らめかしたセーラー服姿の目が真っ黒の死霊がエネに向けて、憎しみと恨みに満ちた表情を向けていた。
「あの、エネさん……あれ……」
三人で教えるが、エネはそちらを見てもなにも気付かず、サッと近づいてカーテンを閉めると、ファイ子に近づき
「姫様、愛があれば人生は明るく、美しいものです。私はこのすばらしき地球で出会った最高の師匠を尊敬し愛しています」
ファイ子の両方に手を置いてキラキラした両目で言った。
同時に今度はクローゼットが少し開いて、中からは、血の涙を流す鬼のような形相の老婆がエネを見つめていた。三人でそちらを指して教えようとするが、エネはクローゼットの扉を爽やかに閉め
「私はエリンガ人ですが、いつかは自然な愛の交わりを師匠としてみたいと思います。姫様もいつの日かそうなれば良いですね」
その瞬間、部屋中が地震のように揺れ動いて、そこら中、家鳴りで頭がおかしくなりそうになる。エネは何故か全く気にしてもいないようだ。爺ちゃんが一階から駆け上がってきて
「エネさん!婆さんが怒り狂っておる!仏壇に謝りにきなさい!」
エネの手を引いて出て行った。
三人でしばらく呆然とした後に、本来の目的を思い出したらしいチリが
「あのっ、ファイ子ちゃん、お父さんを助けるためにナニコさんを探せってお爺さんが……」
「ファイ子!頼む!」
俺が両手を握って頭を下げると
「……キス、と、ハグと……あと好きだって言って欲しいですう」
無茶な頼みを言ってきた。チリを見ると
「……いいけどっ……私に先にしろっ」
「……」
俺は必死に考えたあと黙って両腕を伸ばし、二人を引き寄せると
「お前らが好きだ!どっちがとか選べるか!」
とかっこよく決めたつもりが、二人から同時にパコーンッと頭を叩かれ涙目になる。
チリとファイ子は目を合わせて少し笑うと
「仕方ありませんねえ」
ファイ子はいつもの余裕ある表情に戻って言った。
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