第49話 だっこ

光が消えると、錠剤の入った透明な袋が、を山ほど抱えたしろ水着姿のファイ子が全身を真っ赤にして、興奮した様子で立っていた。

何か、様子がおかしいぞとチリとベッドから見つめていると

「こ、これだけあれば、えいなりとチリさんと三人でやっても……」

そして水着をゆっくり脱ぎだしたので、チリが猪のようにベッドから飛び出して

ファイ子を畳に押し倒し

「ま、待ってっ。冷静になろう。あんた、おかしいってっ」

「チリさん……私の親友、しゅきい……」

何とファイ子は倒れたままチリを抱きしめてキスをした。どうやら舌すら入れようとしているらしくチリは悶絶しながら必死に口を閉じている。

こりゃとんでもねえなあ……とベッドから下りて棒立ちで眺めていると

「むぐぐくむがあああああ!」

下着の中にファイ子の右手が入りだしたチリが、唸りながら助けを求めてこちらを涙目で見てくる。正気に戻った俺は、何とか二人を引き剥がすと、ファイ子は座り込んでトロンとした表情で

「初めてが、3人でもいいでしょう?」

「イヤだっ」「断る」

ファイ子は絶句して、奇麗な両目に涙をためながら、整った顔をくしゃくしゃにして

「もう、一人は、やあなのお……だっこお」

虹色の髪を振り乱し、ズルズルと畳を這ってこちらに近づいてきた。ホラーな光景に、チリとアイコンタクトで逃げるか確認をした後に、二人同時にファイ子に近づいて、俺は背中から、チリは前から思いっきり抱きしめてやる。


「はあ、おふああ……」

ファイ子は上を向いてガスが抜けたような不思議な声を上げたあと、気絶するように眠り込んでしまった。チリが大きくため息をを吐いて、泣きそうな顔で

「父さんが事故で死にそうなんだよっ。助けてよっ!」

とファイ子に言っても動く気配はない。

「エネさんを連れて来る!見ててくれ!」

俺は思いつくより早く、敷地内の蔵に向けて走っていた。


明かりが点いている蔵の扉をノックして開けると、ちゃぶ台やテレビに本棚が置いてあり、エネの生活スペースになっているらしき一階の中心部に無数の真っ黒の人影が座っていて、階子の先にある二階に向けて、おぞましい呻き声をあげていた。しかも、蔵中家鳴りがピシピシ凄まじい事になっている。なんだこれ……明らかに呪われてるだろ……と入口で立ち尽くしていると、人影が一斉にこちらを向いて消えた。家鳴りも完全に収まる。

恐怖で固まっているとエネが上から顔を出して降りてきた。


当然のように全裸なのは今は気にしている暇はないので

「とにかくファイ子を起こしてください!」

と言いながら手を引っ張って、玄関から二階に連れ込んだ。

エネは座ったまま寝ている涙顔のファイ子を見て察した顔で苦笑いすると

「起きてくださーい。えいなりさんの男性ホルモン値が急上昇してますよー」

と声をかけた。

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