第51話 東京上空の5番船

ファイ子はチリから携帯電話を借りると時報に電話をかけ

「緊急コマンド ヒャアアアアッフマイエッ」

と耳を劈くような奇声を上げた。

そして冷静な表情で

「高次元生物情報の参照権限を求めます」

と言って、すぐに顰め面になり

「元老院から直接対面での説明を求められましたあ」

困った表情で言ってくる。

「俺たちも?」

「はいーお爺さんも来てほしいそうですう」

俺とチリは顔を見合わす。大変な事になりつつあるらしい。


20分後にはUFO内の座席に4人で並んで座っていた。ちなみに室内は新幹線や飛行機と大して変わらないというのが爺ちゃんの言葉だ。俺は両方とも乗ったことがないので分からないが。


UFOは東京上空まで瞬く間に進むと、東京タワーのさらに上の雲中で停止している、真っ黒な縦長の棺のような、全長100kmはありそうな超巨大飛行物体の下部に向け進み、そして四角く開いた進入口から内部へと入っていく。

「実質、征服しとるような光景じゃなあ」

遠景や前方や東京上空の景色まで映し出されたモニターが並ぶ座席の前方上を見上げながら爺ちゃんが笑う。ファイ子は慌てた顔で

「違いますう。我々は地球人の権利尊重を徹底していますう」

「寄生先は大事にするべきじゃよ」

「どちらが下ということはありませんー」

二人の噛み合っていないような会話を聞いていると、隣のチリがギュッと俺の手を握りしめてきた。握り返す。


UFOは巨大飛行物体内の、高層ビルがそこら中から突き出ていて、宙をいくつもの球形の建物が浮いている中を進んでいく。

「遠い昔い、我々はあ、遥か遠くの星系に住んでいましたあ」

ファイ子はモニターを見ながら憂げな表情で語りだした。

「太陽を覆ってエネルギーを取り、反重力を操り、ワープ航法を獲得しましたあ。さらにい、ワープの副産物でえ、近くの別次元とも行き来できるようなりましたー」

ソウナノカーと聞き流していると

「繁栄の終わりはあ、意外な形でやってきましたあ」

爺ちゃんが苦笑いして何か言おうとして、軽くため息をついて黙った。

「神だと自らを錯覚した愚かな我々はー時間に手を出したのですー。恥ずかしい歴史的過去を改変するのは、最初は上手くいきましたあ。過去の奴隷制を正し、過去の殺戮を止めても、弾力性のある時間は、現代に良い影響しか及ぼさないと、浅い検証の結果、そう安心して思い込んでいましたー」

まだ続くのか、エリンガ人のこ難しい歴史は俺は眠くなりつつある。

ファイ子は少し言おうか迷った末

「時間改変の影響は星系全体にい、すでにに及んでいましたあ。気づいたときにはあ、母なるエリンガ星にい、暗黒ガス雲地帯から突如現れたスェンガモ大彗星が迫っていたのですう」

モニターには超技術で造られた構造物や建物が延々と映っている。

「母星を放棄した我々は、星系内のお、他の星々へ移住しましたが、ことごとく環境的や社会的な深刻な問題が起こり、星系内で千億居た人口は急速に減り続けましたあ。星系内の秩序はすでに時間改変の影響で崩壊していたのですう」

チリは震えだした。不安定なのに怖い話きかせんなよ。とファイ子を見つめたが気付かずに深刻な雰囲気で

「我々をー……我々が歪めた時間がもとに戻るために……元の秩序を取り戻すためにい、滅ぼそうとしていると気づくまで、そう時はかかりませんでしたあ。全ては我々の原始宗教であるマ・イカ教の教典に、元々示されていたのですう」

爺ちゃんはなんとも言えない顔で

「そのあんたらの神であるマ・イカ神が地球に連れて来たのかの?」

ファイ子は首を縦に振り

「教典にはこう記されていますう。現金ではなく元気こそ全ての源、静かなる地平へ伸び、伸びた先に怒る羅せつ、衛門を司る。巨人脚折る出で来、過ぎたる時こそ、ネバーエンディングケイジニコラウスコペリア」

爺ちゃんが何故か噴き出した。俺はすげー難解なエイリアン宗教の一説に混乱しつつ

「……それと何の関係が?」

つい尋ねてしまうとファイ子は嬉しそうに

「立体次元間数式でこの一説を数字変換すると、地球の座標が出てきたのですう」

「それで、宇宙船に乗り込んで、ワープして一気にここまできたのか……」

めちゃくちゃ迷惑だな。神なのか宗教家なのか知らないが、その教典造ったやつはきっとろくでもないやつだ。

ファイ子はさらに嬉しそうに

「違いますー。大質量ワープはエネルギーや環境や距離的に、安定して固定できないと制限があるのでえ、長い年月宇宙を旅してたどり着きましたあ。なのでえ、地球は我々にとっても大事なのですう。ちなみに私はこの5番船生まれで、母星を知りませんー」

「そうだったのか……」

何か重かったが、初めて知る興味深い内容だなと唸っているとチリがポツリと

「中3の歴史で大体習ったよね。ここまで詳しくはないけど」

「えいなりの知能指数から推測するに、ほぼ覚えてないと思いましてー」

ファイ子は花のように微笑んだ。

なんかむかつく。

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