第44話 親戚
気づいたら俺はベッドで寝ていた。
なんだ夢か。起き上がって、一階で両親と朝飯を食べ、ダラダラと電車に乗り、そして降り、高校に向かう。
いつものようにチリが途中で合流して
「私のニャンヒカルが……」
心配そうに言ってきた。あいつもエリンガ人だし、大丈夫だろ。と落ち着かす。
1日ずっと、ファイ子は高校に来なかった。
楽でいいわーと久々に余裕ができて思い出す。こっちの世界のテルミが消えたままだ。
部室でチリに話すと、考え込んだあとに
「なんとかしたいけど、私達だけじゃ」
「もっかい家に行ってみる?」
「どうだろー」
影山たちも話に入ってきて、尋ねると
皆、テルミについて覚えているらしい。
映画とかだと存在丸々消えて忘れるような展開だが、皆ちゃんと覚えてるのはおかしいよなあとチリと首を傾げ、やっぱり二人で家に行こうという話になった。
夕焼けが沈みかけるころ、テルミの雑草だらけの家の前にたどり着いた。暗くなっていき、団地の周囲の家は明かりが点いていくが、暗いままの家の近くで身を潜めて眺めていると、いきなり2階建ての家屋に明かりが灯り、中から楽しげな笑い声が聞こえてきて、鳥肌が立った。チリは俺にしがみついて
「か、帰ろっ」
弱音を吐いてくる。それと同時に元の静寂に辺りが戻った。
帰ろうとするチリを1時間だけと引き止めて観察を続ける。窓から人影が覗いていたり、笑い声が響いてきたり、一部や全部の明かりが点いたり、どうやら5分ごとに大小の怪異が何か起こっているようだと分かった。
「も、もういいでしょっ」
チリが服を引っ張ってきたので、さすがに限界だなと、帰ろうとすると
「えいなり君……?」
草だらけの庭から聞き覚えのある声がしてきて振り返る。そこにはセイタカアワダチソウに重なって、パジャマ姿のテルミが居た。
声をかけようとすると消える。
チリに見た?と目で問うと、気絶したようでそのまま座り込んでしまった。
もう無理だなと俺はチリを背負って、駅まで歩いていく。
途中でチリは起きて、駅につく頃には歩いていた。家まで送ると言ったが、この時間なら大丈夫と言われ、俺は先に降りる。
そして自宅の玄関を開けると、騒がしいことに気付いた。
「そんなこと言ったって、もう帰らないよ!」
「いや、もう十分じゃよ。ニャンヒカルを懲りさせれば仕事は終わりじゃ。立派じゃったよ。もう帰りなさい」
「やーだっ。ここにお父しゃんと住むし!ここならアイドル目指せるでしょ?」
「昔から芸能に携わっていればまだしも、五十越えて今更アイドルもなかろう……あといい加減、自立しなさい……兄妹は立派に人を率いとるぞ?」
「しようとしていつもだめだったじゃん!みんなお父しゃんたちの勧めた仕事だったけど、私が何か言ったり、やったら変な空気になったよ?もう働きたくない!」
「最後に紹介したのは、座っていれば安くない給料もらえるやつじゃぞ……頼む……わしを安心させておくれ……」
どうやら爺ちゃんと若い女性が言い争っているらしい。急いで靴を脱いで居間に駆け込むと、ちゃぶ台を挟んで困り顔の爺ちゃんと対峙しているのは、綺麗な金髪を腰まで伸ばして顔が隠れている女性だ。背が高めでTシャツとスキニージーンズのシンプルな服装をしている。たぶん外国人だよな。爺ちゃんおかしな人に絡まれてるな。
「あの、誰か知らないけど、爺ちゃん困ってるので、帰ってもらえませんか?」
「は?帰らないしっ!」
金髪の外国人だと思った女性が立ち上がり、こちらを勢いよく振り向くと、整っていて綺麗だが、異様に幼い顔だった。十五くらいにしか見えない。女性から睨まれて黙っていると、爺ちゃんが仕方なさそうに
「えいなり、親戚のおばさんの……えっと、ナニコさんじゃ」
即座に女性は爺ちゃんの方を向き
「お父しゃん、それ名前違うし!それに私まだおばさんじゃないし!」
「親戚の、おばさん……という意味じゃよ……あとここは日本じゃ、日本風の偽名が必要じゃろうが……何でも否定するでない」
爺ちゃんはうなだれてしまう。
女性は一瞬固まると
「わ、わかってたよ!大人だからちゃんと知ってたし!」
と言いながら後ろを向いて黙り込んだ。
多分、めちゃくちゃ恥ずかしいんだろうなと女性は放っておいてあげて、爺ちゃんの横に座り、顔を近づけ
「親戚のおばさんってマジ?」
綺麗だけど、何かこう……あんまり……。
「うむ……詳しくはきかんでくれ。そのうち故郷に帰らせるから」
女性はクルッとこちらを振り向くと
「聞こえましたーもう帰りませーん!」
と必死に宣言してくる。なんだこの人……。
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