第42話 おはよーございますー

起きると

「おはよーございますー」

キラキラした表情のファイ子が布団の横に座り見下ろしていた。制服姿だ。

ファイ子は黙って俺に折りたたまれた制服を差し出してきた。近くには乳首に肌色のニップレスを貼った裸のエネが正座している。

まだこの人脱いだままなのかよ……。

起き上がってそちらを見ると、ファイ子は両手で自分の顔に俺の顔を引きつけ

「私ーちょっと考え直しましたー」

俺の唇にキスをして、強く抱きしめてくる。

あっれええ?地球人に合わせてくれるのか?たぶん男性ホルモン急上昇してるけど……と頭の中が疑問符でいっぱいになっていると

唇を離したファイ子が

「上がった男性ホルモンは後で食事に混ぜた薬で下げればいいだけですー」

花のように微笑んだ。

だめだこいつ……悪化してる……。

「いや、勝手に薬を入れるな……あとチップもさっさと取ってくれ……」

「ああああああああ!!」

チリが叫びながら俺たちの間に入ってきて

俺の頬や唇にキスを連打してきた。

「……」

そして額の汗を拭うと

「よし、これでいい」

と俺の体を抱きしめながらファイ子から離していく。ファイ子は余裕の笑みで

「あとで薬で下げますからー」

チリが必死に両腕を広げて壁になり

「だめっ。お爺さんに命令して貰って、エネさんに毎食毒見させる!」

「それは無理ですねえ。ファイ族の姫である私の命令が優先ですー」

余裕顔のファイ子にエネが申し訳無さそうに

「すいません姫様……私、昨日付けで警護官を退職いたしました」

土下座のように頭を畳につけた。

ファイ子は大きな両目を見開いて、何故か俺を見てくる。いや、俺は関係ない。こっち見ないで。エネはさらに

「タカユキ師匠に住み込みバイトとして雇ってもらいます」

ファイ子はガタガタ震えながらチリを横にのけ、俺に抱きついてきた。さすがに心配したチリが

「そんなにショックなの?」

「こ、子供の頃から……一緒なんです……地球に来る前から……そんな……」

「ここに来たら、いつでも会えるよっ?あとファイ族のお姫様だったの?」

「今さら気付いたのかよ!」

さすがに俺でも日常生活の中で薄々エイリアンの王族とかお偉方なのは気づいていたし、昨日の旅で確信に変わったが、面倒なので

せっかく言わないでおいたのに、とうとうチリが言ってしまう。ファイ子は両目に涙をためると

「ファイ族の……最高権力者である…うう……私の言う事を……うええええええ」

エネに命令しようとして俺の胸に顔を埋めて大泣きし始めた。


5分ほどすると、ファイ子は泣きつかれて寝てしまう。

「どうすんのこれ……そろそろ高校行きたいんだけど」

エネを見ると、困った表情で

「もう警護官ではないので……」

「あの、あと、うちにいる時は何か着てください……」

エネはチリが差し出してきた俺のTシャツを受け取ると着た。

俺の部屋の扉が開き、爺ちゃんが倒れ込むように入ってくる。頬がこけ、げっそりとした爺ちゃんは声を絞り出すように

「……まとめて車に乗りなさい。連れて行くから」

と言った。


エネに留守番させて、寝ているファイ子も車に乗せ、4人で高校まで車で向かう。

チリの制服もカバンもエイリアンどもは持ってきたようで、しっかり着込んで、持っている。

爺ちゃんはスポーツ飲料を飲みながら運転していると少しずつ血色が戻ってきた。

チリが恐る恐る

「病院いかなくていいんですか?」

「心配させてすまんなあ。いや、久しぶりに婆さんが夢に出てきてなあ。もう大丈夫よ」

「悪夢だったんですかっ?」

爺ちゃんは苦笑いして答えなかった。

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