第41話 何も解決していない

付近の山にUFOは降り、その後、渡されたライトを頼りに真夜中の山道を家に帰った。

深夜4時だったので、チリもうちの家に泊めることにした。


翌朝、何も解決していないことに気づく。

テルミは消えたままだ。俺たちの月への旅は結局、変態を一人生み出して、ストーカーを解放しただけじゃないか。俺の頭のチップもそのままなんだが!!

「ニャンヒカルー……餌の時間よ……」

ベッドで寝るチリは幸せな夢を観ているらしい。そして3時間くらいしか寝てない。


その後、一階和室居間で両親と爺ちゃんに混ざって食べる。何事もなかった顔をしているうちの家族は強いな……と思いつつ、食器を片付け、2階に戻るとチリはまだ寝ていた。


チリが起きた後に学校へ行こうと思っていると、3.5次元の駅に制服を置いてきたことに気付き、愕然とする。もういいや。何も考えずまた寝るか。さすがにもういいだろ。ここまで無茶苦茶になってるなら、もはや異星人どもが高校に欠席報告出してくれていいレベルだ。


……


仏間に俺は座っていた。目の前には地味な着物姿の婆ちゃんが正座している。またあの夢だ。目でどうしたのと尋ねると

「えいなり、あなたの親戚について話しておかねばなりませんね」

「婆ちゃん、うちに親戚はいないだろ?」

爺ちゃん婆ちゃんは駆け落ちだったので、親族と縁は切れていて、子供も俺の父さんだけだ。母さんも一人っ子で、早くに親や祖父母を亡くしている。なので俺は親戚というものを見たことがない。

婆ちゃんがにこやかに何か話そうと口を開きかけると同時に、横の空間がニュッと歪んで、何と作業着等姿の爺ちゃんが入ってくる。

「やはりここか。婆さん、言わんでよかろう?」

婆ちゃんの隣に、音もなく座った爺ちゃんが落ち着いた表情で言うと、婆ちゃんは毅然とした態度で

「私たちの大事な子孫ですよ?守らねばならないでしょう?」

爺ちゃんは明らかに言葉を選びながら

「えいなりには、普通の人生を歩んでもらいたいがのう」

婆ちゃんは悲しそうに首を横に振り

「普通の人生とは勝ち取るものです。与えられるものではありません」

「いやいや、我々はそうだったかもしれんが、大多数の人々は地道に毎日生きていく、それが普通じゃよ。戦わんでええじゃろ」

爺ちゃんと婆ちゃんはしばらく黙って見つめ合い、異様な緊張が走る。

婆ちゃんが軽く咳払いすると

「あなた、久しぶりに来てくれたので」

そう言って、見る見る見た目が若返っていく。俺と同じぐらいの若さになるとニッコリ笑いかけてきて

「えいなり、お爺ちゃんの言うことに従うことにしました。ここからは大人の時間です」

若い女子の声で言ってくる。

「?」

俺が首をかしげていると、何故かげっそりとしている爺ちゃんが力なく

「婆さんの策に、はまったわい……午後からチリちゃんと高校に行くんじゃぞ。連絡はしておいたからのう」

「え?」

辺りが急速にブラックアウトしていく。

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