第39話 刑務所長

パチパチと兵士の後ろから拍手がして

「さすがです。ここまでたどり着くとは私も思っていませんでしたよ」

いかにも最後に出てくる悪の総帥と言ったセリフを妙に可愛らしい声が述べてくる。爺ちゃんが脱力して面倒そうに

「一応聞いてやるが、誰じゃ?」

声は軽く咳払いをすると

「ニャンモウ族のニャンヒカルを知らないのですか?」

意外そうに言ってきた。いや誰だよ。聞いたことないぞ……それより早くこの汚れたエレベーター内から出たいんだが……。

「いや知らんけどっ」

チリが思わず言ってしまうと

兵士達を押しのけて、制服を着た人間サイズの三毛猫が出てきた。次の瞬間にはチリが猫に突撃していて

「あーんかわいいいーーー」

猫の顎を撫でていた。猫は両目を閉じてしばらくゴロゴロと喉を鳴らした後にハッと我に返り

「やめてください。不意のボディタッチは痴漢に該当しますよ」

チリが惜しそうに手を止めると

ニャンヒカルは軽く咳払いして

「ファイガラス姫の目を通して、この刑務所長である私も全て見ていました」

爺ちゃんがやる気なく

「で、わしの力を利用して世界征服がしたいと」

ニャンヒカルは心底驚いた表情で

「は、話が早くて助かります」

どうにか言い繕った。またチリが突撃して

「驚いたねー‐よーしよしよしー」

ニャンヒカルの顎を撫でると、両目を閉じてしばしゴロゴロと喉を鳴らした後に、ハッと気付いた顔で

「公然猥褻罪で訴えますよ」

とチリを追い払った。チリは爺ちゃんと俺の方に、にじり寄ってきて

「あの猫飼いたいー」

と何とねだってきた。ニャンヒカルは心外といった表情で

「猫ではありません。エリンガ人イチ知能が高く、誇り高きニャンモウ族です。あなたたちヒトタイプに、遺伝的にゴリラより遠い、日本猿というくらい侮辱ですよ」

爺ちゃんは大きくため息を吐くと

「汚物をどうにかしてくれたら、話くらいは聞いてやるわい」

惨状と化している金網で囲われているエレベーター内を見回していった。


汚物整理はガスマスクをしてバケツとモップを持ち駆けつけた清掃員たちに任せて

俺達は白い壁に囲まれた広い通路をニャンヒカルと兵士たちに連行される。

ちなみにエネは爺ちゃんがお姫様抱っこしていて、それを見たチリがチラチラこちらを見てくるが

「すまん、もう体力がない」

と断った。しかしファイ子がまた静かになった。寝たのかな……助かるわあ。と思っているとニャンヒカルが右の壁沿いの自動扉を開いて入っていく。


中は大量の電子機器に天井まで囲まれ、モニターが無数にある監視室だった。

チリが目ざとく。端のモニターに十字架のような板に磔にされてグッタリしているファイ子を見つける。

ほぼ裸のファイ子は局部だけテープのようなもので覆われ、口には穴の開いた玉を詰め込まれその両端はバンドが伸びて頭を一周してるようだ。チリは頬を赤くして

「えっちじゃんっ」

とニャンヒカルに抗議する。彼は見下した表情で

「全身の健康のため、光を当てる時間です。このあと培養液に入ってリフレッシュタイムになります。ファイ族はエリンガ人の中でも特に繊細ですので扱いには細心の注意が必要ですが」

と言いながら、爺ちゃんの腕の中のエネを見る。爺ちゃんは苦笑いして

「まあ、確かにわしは雑じゃが、この子も戦士なら仕方ないことよ」

ニャンヒカルはまたパチパチと拍手して

「その冷徹さ、惑星破壊級を数体は沈めていると見ました。ぜひ、私の野望を手伝っていただきたい」

爺ちゃんはやる気なく項垂れながら

「で、野望とやらをはよ言わんかい」

ニャンヒカルは大きな両目をキラリと光らせて

「我々ニャンモウ族のカリカリフードの完全生産者保証と完全無農薬化、そして世界征服です」

爺ちゃんは初めてニャンヒカルに興味を持った顔をして

「カリカリフードが高級化してしまうぞい」

ニャンヒカルは余裕な表情で

「すでに火星で製造ラインオートメーション化による低価格化実験は済んでいます。あとは旧世代の地球既得権益者をのけるだけです」

爺ちゃんは笑いながら

「価格競争で正当に勝負しなさい。世界征服の内容は?」

ニャンヒカルは胸を張り

「いずれ創設される国連大統領になります。地球人既得権益者は腹黒い。裏の仕事にぜひあなたが必要です」

爺ちゃんは黙って首を横に振り

「わしはもはや表舞台には立てん。どうしてもと言うなら、我が孫えいなり、そして弟子になったエネさんを使いなさい」

いきなり話を振られて俺は口を開けたまま固まる。

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