第38話 次元間汚染

トロッコから俺たちが全て降りると、瞬く間に屈強な作業員たちがエレベーターに押していき跡形もなく片付けてしまった。泡を破いたカエル顔の作業員が

「幽閉エリアは、西側だぞ」

指をさしてくれた方角へエネ先頭で歩き出す。溶鉱炉なども遠くにあり、工場内はかなりの温度だ。エネは全身汗塗れになっている。チリはなぜか嬉しそうに

「一杯歩いて、運動して汗までかいたから……これは痩せる!」

「帰ったら山程菓子食べるよな?」

「う、よくわかってらっしゃる……でも体重計乗るの楽しみ!」

あくまでポジティブなチリに救われながら、地獄のような暑さの広い工場内を歩いていくと、鉄網の足場の階段先に、金網で囲われたエレベーターが見えてきた。


乗り込んでエネがボタンを押すとエレベーターは何と横移動しだした。

エネはホッとした顔で

「もう着いたも同然ですね」

と言うのと同時に嘔吐して、全身の穴という穴からあらゆる体液や排泄物を噴き出して倒れ込んだ。爺ちゃんが横にしゃがみ、冷静に

「次元間汚染じゃよ。先程、投げた時に泡に擦り付けたつもりじゃが」

「ど、どうしよっ」

チリと俺は目の前の壮絶な光景と臭いに右往左往していると爺ちゃんが

「まあ、婆さんも許してくれるじゃろ」

と言いながら、気絶しているエネの腹の中に手を突っ込んだ。皮を一切破らずに入れた手をヌルリと取り出すと、キーキー喚く青みがかった灰色のサソリのようなものが握られていた。

爺ちゃんはそれをパキッと二つに割ると、片方を飲み込んだ。そしてバリバリと咀嚼して

「そうか、エネさんは、この時刻で本来は寿命じゃったようじゃ」

と納得した表情で言って、残った半分を俺に渡そうとしてくる。戸惑っているとサッとチリが受け取り、さらに半分に折って、俺に渡してきた。

「一緒に食べよっ」

チリが言うなり口に放り込んだので、俺も勢いで飲み込むと、頭の中に

無重力の鉱山内で干からびて漂っている裸のエネがはっきり浮かんでくる。

「ふえねええええええええ」

同時にファイ子の号泣が聞こえてきた。どうやら、あいつも見えているらしい。

「死の瞬間が見えたじゃろ?我々が視認したことでその未来は役目を終え、消えた。もう大丈夫じゃよ」

爺ちゃんは安堵した表情になった。

良く分からないが、大丈夫ならそれでいいと思っているとまた頭の中で

「ふぇねええええええよかっふぁああああ」

ファイ子の号泣が一々うるさい。


しかし、俺達はすぐに気付いてしまう。

真の問題は床に転がるエネの体を汚した体液と下半身から噴射された汚物だと。

動き続けるエレベーターの中

爺ちゃんが黙ってタオルをポケットから取り出しエネの体を拭いて壁により掛からせ、そして汚物をタオルでくるんで脇に寄せた。

「月まできてこれとはなあ」

爺ちゃんは豪快に笑うが臭いがまだキツい。

「エネさん、凄いよな」

もちろん悪い意味で。爺ちゃんは苦笑いして

「爺ちゃんの記憶でも、ここまではおらんなあ」

「でも、お陰さまで色々出来たねっ」

三人で話していると、エレベーターが停止した。やっと到着かよ。

と開いた扉の先を見て、俺は固まる。

そこには、銃口をこちらに向けた制服姿の兵士が5人ほど並んでいた。

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