第37話 祈りを捧げる

作業員たちにエネが

「このまま、空気のある場所へお願いします!」

と頼むと、彼らは宇宙服のバイザー越しにニヤニヤしながら数人で無重力の中、泡でに包まれたトロッコを押して行ってくれた。多分エネが全裸だからニヤニヤしてるんだろうなと思っていると、鉱床内の岩盤をくり抜いた格納庫の中へと彼らはトロッコを押していき、そして扉を閉め、空気が充満するとヘルメットを脱いだ。前に進み出て腕組みをした髭面の中年が

「どこのもんだ」

と泡越しにエネをジッと見ながら尋ねる。

「ファイ族です。この層に幽閉されている姫様に会いに……」

「嘘つくんじゃねえ。どうせバウンガ族だろ。地球人奴隷の人身売買とかだろアホウがよう。通報で賞金稼がせて貰うぜ」

蔑まれた目でエネは見られて言葉を失くす。

爺ちゃんが笑いながら

「違うんじゃよ。囚われているファイ族のファイガラス姫への慰問じゃ」

男は爺ちゃんをジロッと睨むと

「全裸の馬鹿は、ホントにファイ族なのか?証明してみろ」

俺達はエネを黙ってみる。エネは助けを求めるように爺ちゃんを見つめ返した。爺ちゃんはため息をついて

「なんかあるじゃろ。ファイ族にしかできんことが」

エネは思いついた顔で

「我が部族神のマ・イカ様への祈りを捧げる!見ておけ!」

胸を張って宣言すると、トロッコ内で逆立ちして、顔を真っ赤にしながら

「うちゅーそれはひろいーうちゅーちゅー。ぜつぼうにのまれてもーどこにもきぼうはあるさーうちゅーちゅーさがせーきぼうほうーみさきーマ・イカさまーぜんちぜんのうーのうはうーはうー」

変な音程の歌を歌い出した。俺達3人は酷い光景に頭を抱えるが、中年の男は神妙な面持ちになり

「マ・イカ教神官の方だったか、全裸なのも何か意味が?」

逆立ちをやめたエネは肩で息をしながら

「大切な修行だ。良いから早く泡を解除できる場所まで連れて行け」

打って変わって強気な表情で命令した。


男たちは真剣な面持ちでトロッコを格納庫の中押していき、運搬用の巨大エレベーターに乗せ、下へとおろして扉を開けると

「慰問に来られたファイ族の方たちだ。緊急装置解除資格者きてくれ!」

すぐにカエルのような顔のエリンガ人が走ってきて、トロッコの泡を外から虹色に輝く先の尖った棒で突いてきた。パチンッと泡は、弾けて、辺りの蒸し暑い空気が流れ込んでくる。よくあたりを見ると、鉱石の精製工場のような場所らしい。並べられた巨大な機械が轟音を響かせている。

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