第35話 連行


さらに進み、白い通路の突き当りの自動扉が開くと広いホールに出た。

奥のカウンターでは暇そうにスーツを着て伸ばした赤髪と青髪の女性が喋っている。

近くのテーブルソファに座って、本を読みながら何か飲んでいた口ひげの似合うチョッキを着た紳士が、エネを見て噴きそうになり、何とか立ち上がり

「我々はバウンガ族ではないぞ」

エネは両足で踏ん張って

「修行の一環です」

「ぬ、修行か。どんな意図が?」

「愛おしさを力に変えます」

「……働きすぎだ。後ろの方々は?」

エネはまた踏ん張って、尻の両サイドが窪む。背中の肩甲骨も盛り上がった。

「これから地下に連行します」

「ふむ、重罪人か。まあ、良いだろう」

紳士はそう言うとまたソファに座った。

何だこのやりとり……大丈夫かこいつら……。爺ちゃんが俺の耳元で

「メルチン一人で回しとるわ」

とつぶやいて、ああ、あの紳士もポンコツなのね…もしかしてファイ族ってメルチン以外完全ポンコツ集団なのか。俺が絶望していると、最悪のタイミングで

「ななあでふぁだかんなの!」

ファイ子の声が響く。多分、何で裸なのとエネに怒っているようだ。

面倒なので、しばらく放置しようと思う。


エネはカウンターの女性たちに驚かれながら

「姫様に重罪人を見せたい。25階へのワープパスを発行してくれ」

女性たちは困った顔で

「ワープは容量一杯で螺旋エレベーターも空いていません。工事用トロッコなら」

エネは大きくため息をついて

「そっちでいい。25階にセットしてくれ」

と言って、こちらに歩いてきた。背後では女性達がヒソヒソと話している。

いきなり怒ったファイ子の声が

「ひえめてふぁれめをかくしなさひ!ふぁえんたい!」

せめて割れ目を隠しなさい変態と言いたいらしい。いや、お前も黙ってくれ……状況的に変態を矯正してる暇はないんだ。そもそもお前を解放しに行ってるんだぞ……一応。


ホールからエレベーターに乗り込むとすぐ下の階で止まる。そして出ると驚愕した。

そこは低重力の中、宇宙服を着た数百人の作業員たちが、ドリルや掘削機に中心の削岩機までの長いチューブがついた特殊機械で岩盤を削っている、巨大鉱山内だった。エネはその端を飛ぶように歩き出し、削られた後の岩盤横に放置されている、古びた大きな、座席のあるトロッコに乗り込む。

トロッコは線路に乗せられていて、線路は鉱山内の奥深くまで伸びている。

俺達もトロッコに乗り込むと、エネは手元のレバーを軋ませながら思いっきり引いた。同時にトロッコは桃色の泡に包まれる。


爺ちゃんが軽く舌打ちして

「良くない機構じゃなあ。パラレルワールドに半分足を突っ込んどる」

先頭に座ったエネが嬉しそうに振り向くと

「わかりますか!多少次元間汚染されます。月の岩盤は自動復元するので、奥まで穴を開けるため初期に強引な移動装置を作ったんです」

爺ちゃんは難しい顔で頷いた。

ほぼ同時に無茶な速度でトロッコが線路上を爆走し始める。

「ふえいなひ!ふぇんたひからはなれふぇえ!だんふぇいほるもんのすひふぁふう」

ファイ子が何か言ってるがそれどころではない。




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