第34話 もう恋
窓のない通路を歩き、先程より小さな扉が自動で横に開くとメルチンは黙って入っていき、俺たちも続く。
中は白い壁に囲まれていて、中心にポツンとテーブルが置かれ、周りに椅子が5脚並んでいた。奥にメルチンとエネが座り、手前に俺たちも三人が座った。俺と爺ちゃんには下着に例の白い水着と、上着にシャツとハーフパンツを渡されて着た。チリもキャミソールのような空色の服を上着にと渡された。
真顔でメルチンが
「では、尋問を始めます」
と言った瞬間にチリが噴き出して
「待って!エネさん何か着てよ!もういいで
しょ!」
我に返ってしまったのか
エネはいきなり耳まで真っ赤になりながら
「しゅ、修行です」
と俯いた。この人ホントに何なんだよ……。もう幾らでも服着れるんだぞ……強情張らなくてもいいだろ。俺も何か言いたかったが、爺ちゃんが肩を叩いて止めてきた。
メルチンは完全に冷静な表情のまま
「エネ警護官は、武術修行中です。気にしてはいけません」
と言って、チリが堪えきれず爆笑しだした。
メルチンは構わずに
「尋問前に、そちらのお爺さんの戦闘力計測をします。気絶させたらゴメンなさいね」
とウインクしてきた。
テーブルから3メートルほど離れて二人は対峙した。
メルチンがニヤリと笑い
「私これでもエリンガ無差別級格闘大会2位の記録があります」
エネが不快そうに
「5年前のことを、いつまでも自慢するな」
と抗議するが、もはや好んで服を着ていない変態に過ぎないので、その前にお前がちゃんとしろ!としか思えない。
爺ちゃんは何も答えずにジッとメルチンを見つめ、次の瞬間には
「右肩に古傷があるな」
メルチンが驚いた時には
背後に回った爺ちゃんに首を叩かれて倒れていた。気絶した大男の右肩近くに座り込んだ爺ちゃんは触れて
「この辺りじゃな」
と軽く握って捻った。そして立ち上がると
「行こうかの」
と微笑む。
俺達より早くエネが駆け寄って
「師匠!私、今日で警護官やめます!ついて行きたいです!」
と尊敬の眼差しで言った。いつの間にか師匠にされていた爺ちゃんは呆れた顔で
「服を着たら考えてやるがのう」
「いえ!これは師匠から頂いた大切な修行なので!」
エネは頬を染め、キラキラした両目で爺ちゃんを見つめる。チリが気づいた顔で
「あーあれはもう恋をしてますねえー」
そんな馬鹿なと思ったが、エネもエリンガ人なのである。ありうる……と経験者の俺は爺ちゃんに同情する。
爺ちゃんは一瞬ふらついたが、気を取り直した顔になり
「……もういいから、早く地下に案内せんかい。せっかく達人がノーガードで気絶してくれたんじゃぞ」
「はい師匠!」
エネは興奮した表情で自動扉に近づいて開き
「どうぞみなさま!」
と右腕を高く掲げた。
意気揚々と白い通路を歩く全裸の変態の後姿を見て、爺ちゃんに同情の眼差しを送ると意外にも笑いながら
「昔は沢山、女難に遭ったものよ」
懐かしそうに言った。
「爺ちゃん、もててたの!?」
リア充という新しい言葉をネットの最近できた動画サイトで見たがそういう感じかあ……最近父親のパソコン借りて遊んでないなと思っていると
「リア充ですねっ」
チリが得意げに言ってしまう。新しい言葉を自慢気に言っちゃうのが悪いとこだよなあと思っていると、爺ちゃんは幸せそうに頷いて
「遠い、昔話じゃよ」
「うーミステリアスっ」
エネは聞いていないようだった。力が入っているのか、引き締まった尻の両サイドの窪みが気になる。
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