第32話 プラネタリウム

階段を登り切るとやたら広い坑道のような場所に出た。照明は古い電球が等間隔に並んでいて薄暗い。人波は相変わらずで、エネの背中についていく。爺ちゃんは辺りを見回し

「戦時下の秘密基地じゃなあ」

「お爺さんはお幾つのときですかっ」

チリが尋ねると爺ちゃんは苦笑いしながら

「三十以前の記憶は忘れたわ」

と答えた。話したくないようだ

大坑道を人波と進むといきなり開けた場所に出た。俺とチリは息をのむ。


そこは巨大なプラネタリウムになっていて

人々が各星の方角に地上から吸い上げられるように舞い上がり微かな光とともに次々消えていっていた。エネはこちらを振り返ると、もはや何一つ隠さず死んだ目で手招きしてきた。

近寄ると

「もう認証は済ませました。あちらの太陽系ゾーンに向かいましょう」

プラネタリウムの向かって右端を指差す。

エネは機械みたいに感情のない声で言うと

サッと向こうを向いて足早に歩き出した。

ついていくと、全員が次第に歩きながら身体が浮き上がっていき、天井の瞬く星々が近くなっていくと、グニャッと身体が歪む感覚と共に、辺りが激しく瞬いた。


「あーん、せんぱーい裸じゃないですかあ」

何か緊張感のない男の声で起きた。

両目を開けると、真っ白な部屋だった。目の前でプルプル震えているエネと同じく俺も全裸だ。爺ちゃんも何も纏っていない。

唯一服を着ているチリが、俺の下半身辺りをマジマジと見て

「ふーーむーふむむむ」

と唸っている。そっちは見ないことにして

辺りを観察している爺ちゃんの肩を突くと

「着いたようじゃよ」

と安心した顔で言ってくる。いきなり壁が開き、黒いゴスロリ服を着たスキンヘッドの大柄な男がキャピキャピした走り方で近寄ってきた。熊のような大男は俺たちに濃い顔でニッコリと笑いかけ

「ワープお疲れ様でした。ようこそ、ムーンベース、ファイ族センターへ。お話はうかがってますよーどうぞお使いください」

男はバスタオルを人数分投げ渡してくる。

俺と爺ちゃんはそれを腰に巻きながら

「有能そうじゃ」

「いや、早かったよな」

頷き合っていると

エネは何とタオルを投げ返して

平たい胸を張り、キッと男を睨むと、爺ちゃんの方を向いて一礼したあと、また男を睨み

「舐めるな。これはこちらの偉大な先生から課された武術修行だ」

意味不明なことを言い放ち、爺ちゃんが脱力しすぎて、一瞬ふらつき、俺とチリから左右を支えられる。男は、素早く俺たちに近寄ると小声で

「すいませんねーご迷惑おかけします」

とサッとフォローすると

「では先輩、連行した地球人共をまずはファイガラスゾーンに参拝させましょう」

俺達にウインクして外へと先導し始めた。

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